前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第六章:大魔王復活?

その105 すべての疑念

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 「レオス、ここから出てきなさい!」

 「ごめんなさい、私達あんなつもりじゃなかったんです!」

 「あ、あの、その、私……私……」

 外ではエリィやルビア、ベルゼラが僕を呼ぶ。え? 僕はどこにいるのかだって?

 ……ズボンを下ろされた後のショックで僕は元の姿に戻ることができ、バス子を『殺したい』という暗い考えは消え去っていた。
 ただ、代わりに、あんなセリフを吐いたりズボンを破られたりとめちゃくちゃ恥ずかしいことになったため、みんなの顔を見ることができずにクリエイトアースで一人用の小屋を作り隠れたのだ。エリィやベルゼラは悪くない。悪いのはバス子なのだけど……

 「ごめん……ちょっとそっとしておいてくれるかい……」

 落ち着くのに時間がかかりそうだった。ズボンも直さないといけないし……。

 「大丈夫。私はちゃんと受け入れる」

 「何をだよ!? あー、レオスだっけ? 気にするな。どうせいずれ見られるものなんだ。それがちょっと早まっただけだ」

 「そ、そうですよ! マツタケより大きいなんて名誉なこと――」

 「バス子は黙ってて」

 「あい……」

 僕の怒り気味な声を聞いて小さくなるバス子。埒が明かないと思ったのかルビアが小屋を叩きながら言う。

 「気が済んだら出てきてよね? 色々話したいことがあるんだし。近くにいるからよろしく」

 <悪神とはいえ生まれ変わりの体に心が引っ張られておるのう。あまり出て来なかったらわらわが説明するから急ぐのじゃぞ>

 ほとんど脅迫じゃないかと思いながらみんなの足音が遠ざかっていくのを聞く。

 ――さて、一人になったところで落ち着いて考えよう。まさかエリィを殺されたと思い込んであんなことになるとは、正直な僕自身驚いた。それほど僕の中でエリィの存在は大きくなっていたのだろうか……?

 記憶を取り戻す前はそれなりに好きだったと思う。記憶を取り戻してからは『エリーに似ているな』とは思うけど、やっぱり性格や話し方などは別人だと思い知ることが多い。

 「ま、ベルゼラやルビアがやられても怒ってたかもしれないからそれはいいとして、一番気になるのはどうして前世の姿になったのか、だよねやっぱり。ソレイユが『レオスさんが誰かを恨んだり憎んだりすることがあればまたあの姿が顕現することがあるかも、と考えています』と6話あたりで言っていたから記憶と一緒でこれもイレギュラーなんだと思う。一度ソレイユと話がしたいなあ……大魔王とバス子達のことも何か知っているハズだし……」

 とりあえず破れたズボンを修復しながらどうやってバス子をおしおきするか考えているのだった。


 ◆ ◇ ◆


 『お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!』

 『んあ? 何よソレイユ、そんなに慌てて?』

 『……最近ちょっと太ったんじゃない……? イチゴ大福食べすぎなんじゃ……』

 『大丈夫よ。私は女神。体重操作はお手の物。で、どうしたの?』

 ソレイユが姉のルアの部屋へと駆け込み、事情を話し出す。

 『それが、レオスさんが悪神時代の姿に戻ったの。あの頃と同じ嫌な感じだったよ』

 『あんたの体を乗っ取っていたころってこと?』

 こくこくと頷くソレイユ。

 『……うーん、どうしてかしら……。記憶が戻るくらいならまだあってもおかしくはないけど、転生しているから体はちゃんと向こうの世界で産まれているから変化するはずないんだけど……』

 『このまま放っておいて大丈夫かな……?』

 『私達は世界には干渉できないからねえ。前みたいにレオスさんと夢でまたコンタクトを取ってみたらいいんじゃない? 私はあの世界の創造神がいない理由でも調べてみるわ』

 『うん。空いている世界があそこだけだったけど、何かあるのかな……それと、今度はなにを持たせておこうかなあ――』

 女神姉妹はとりあえず行動が先だと移動を開始する。今まで手が入っていなかったレオスの世界に、本格的な調査が始まろうとしていたのだった。


 ◆ ◇ ◆


 そんなこんなで考えをまとめ。ズボンを修復した僕はささっと小屋を破壊して外に出る。戦っていたのはお昼くらいだと思っていたけど、陽が傾き始めていた。近くで焚火をしているエリィ達を見つけて傍へと寄っていく。

 「……お待たせ」

 「おかえりなさい! あの、すみませんでした……」

 「ご、ごめんなさい……」

 「ううん。二人は僕を止めようとしてくれただけだから気にしなくていいよ。悪いのは……」

 「ひぃ!? す、すみません……調子に乗っていましたぁぁぁ!」

 ずざざ、とエクストリーム土下座をしながら僕の前に現れるバス子。僕はため息を吐きながらバス子の肩に手を乗せてほほ笑みながら声をかける。

 「バス子……」

 「レオスさん……」

 「おしおきだ!」

 「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 僕のアイアンクローがバス子の顔にめりこみ、森の中にバス子の汚い悲鳴が響く。バタバタと鳥たちが飛び去って行くのが見えた。

 「ふう……これくらいで勘弁してあげるよ。次はないからね?」

 「は、はひ……」

 とりあえずこれで恨みっこなしにするとして、僕に注目している面々に顔を向ける。

 「とりあえず、僕はバス子を含めて君達に聞きたいことがある。で、ルビア達には僕から言っておくことがある。どっちからいこうか?」

 するとルビアが片目をつぶって僕へ言う。

 「まずはレオスがあたし達に話したいこと、かしらね。さっきのことと関係があるんでしょ?」

 「なんで顔が赤いの? 具合が悪いのルビア?」

 「ち、違うわよ! それで?」

 「うん……かくかくしかじか……」

 僕がことの顛末を掻い摘んで話すと、

 「なるほど、レオス君は前世が2000年は生きた人間で、神に匹敵する力を得たんですね。それで人間を憎む出来事があって、亡ぼそうとしたけど別の世界の人間に倒された後、罪を償ってこの世界に生まれ変わった……そして大魔王との戦いのショックで記憶を取り戻したということでしたか」

 「うん……掻い摘んで話した意味がまったくないけど、それで合っているよエリィ。で、さっきの姿は僕の前世で悪神になる前の姿……確か26歳くらいだったかな。それくらいだと思う」

 「……26歳……」

 「どうしたんですかルビア?」

 「ふえ‼? な、なんでもないわ! それにしても悪神が本当だったとはね。それも人間を皆殺しにするつもりとか大魔王よりひどいじゃない」

 <じゃな。わらわも聞いた時はどうしようかと思ったわい。じゃが、わらわでは勝てんからのう……>

 チェイシャもやれやれと炎の姿で首を振る。

 「そりゃ……俺達が勝てるわけないな……よくて大魔王と同じ程度だしなあ……」

 「アタシ片手で地面に叩きつけられたわよぅ」

 サブナックとヴィネも冷や汗をかいて僕をまじまじと見ていると、復活したバス子が正座した状態で僕に話しかけてきた。

 「……レオスさんのことは分かりました。冗談が通じないのは誤算でしたが、わたしの予想をはるかに越える強さです。それで、わたし達の何を聞きたいんで?」

 「まずは――」

 僕は一番気になっていることをバス子へ尋ねることにした。 
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