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第六章:大魔王復活?
その117 黄泉の丘へ
しおりを挟む<風曜の日>
ルビアと別れ、僕達は王都から数キロ離れている黄泉の丘へ向かっていた。申し訳ないけど馬車は僕達が使わせてもらっている。
「姐さん大丈夫ですかねえ」
「聖職だし、荒事には強いでしょ? そんなに心配することもないんじゃない?」
僕がそう言うとエリィが少しだけ困った声で荷台から声をかけてきた。
「アレンが言っていたんですけど、私やレオス君が仲間になってからお姉さんだからってしっかりしようとあんな感じになったらしいですよ。その前は結構我がままだったと」
「そういえば勇者と恋人同士だったんだよね。我がままだったなら好きになら無さそうだけど……」
まあ、あの容姿だから我がままを言わなくなれば可愛いという点が勝つ。だからアレンも手に入れようとしたんだろうなあ。しかしまさかのキープだったとは……というか大魔王討伐の最中に、その、しないよね……
「勇者ともう一人はクソ野郎」
「身もふたもないけど、そこは間違っていないかな……そういうことならクロウとアニスもいるし、無茶はしないかな」
「私も行けばよかったですかね……。それで黄泉の丘まではどれくらいなんですか?」
エリィがが御者台に顔を出して聞いてくるので、地図を渡して印をつけているところを確認してもらう。
「今が多分この辺だから、もうちょっとかな? ……うん、大丈夫」
僕はカバンの中にある大魔王の遺品と灰、聖杯を確認し儀式自体はできることを再度確認する。しかし血はどれくらい必要なのかが問題かな。
「直で丘へ行くんです? もう夕方ですけど」
「町を出てからずっと野営ばかりだったしバス子の気持ちはわかるんだけどね。ルビアと一緒に町に行っても良かったんだけど、あの書状の件で巻き込まれるのは避けたかったんだ」
「いい判断。さすがレオス。焼き鳥をあげる」
「はいはい、ありがとメディナ」
「あ!? それ、わたしの!?」
そんな感じで目的地である黄泉の丘へ馬車を走らせる。ああは言ったものの、トラブルに巻き込まれる可能性の高いルビアのところへ早く戻るため、珍しく深夜近くまで移動をしていた。
荷台を見ると、四人とも寝入っており馬の足音と鳥の鳴き声、虫の合唱だけが静寂な夜の闇に響き渡る。ライトの魔法で周囲を照らしているから目立つんだけど、幸い魔物は襲ってこなかった。
「……そろそろ、馬達を休めないといけないかな。僕はみんなが起きてから仮眠させてもらえばいいか。黄泉の丘なんて物騒なところに夜中行くのもどうかと思うしね」
御者はバス子に任せておけば、などと考えていると――
「霧が出てきたか……これは休めって言うことかな?」
不意に霧が出てきたのだ。山ってほどじゃないけど、小高い場所へ向かっているので有り得なくはない。こうなるとライトでも見えなくなるので大人しく馬を止めることにした。
「結構濃くなってきたね。ほら、ありがとう水とにんじんだよ、ゆっくり休んでおくれ」
「ぶるる……」
「ひひん……」
「どうしたの? ……あれ?」
馬達が水と食べ物に興味を示さず小さく鳴き、どこかを見ている。そちらへ目を向けると、林の向こうにちかちかと灯りのようなものが見えた。……地図には人里がなかったはずだけど……
「松明……をつけるには時間が遅いか。一体なんだろ――」
ジャリ……
「そこに誰かいるのか!」
砂を踏む音を聞き、僕は咄嗟に剣を抜いて叫ぶ。すると、びっくりした声がして暗闇から姿を現してきた。
「ひああ! 待った! ワタシは怪しいものじゃないよ!」
ライトの光の中へ踊り出てきたのは茶色のショートカットにプレートアーマー、それとショートソードに弓を背負った女性だった。右腕には包帯、顔には絆創膏が貼られている。
「……こんな時間にうろうろしているのはどう考えても怪しいと思うけど……」
警戒解かずに両手を上げている女の人に声をかける。すると、慌てた様子であたふたと答えてくれた。
「ワタシは夜狩りのためそこの森にいただけだよ! ほ、ほら、あそこ、灯りが見えるだろ? 最近、ファングタイガーみたいな魔物が村にちょっかいかけてくるんだ! そしたら街道に灯りと馬車が見えたからもしかして、と思って……」
確かにファングタイガーは夜行性で、狩りは夜にすることが多い。弓がメイン武器と考えるなら理には適っているかな。でもその前に気になるのが……
「地図にはこの辺に村があるって書いていなかった思うけど?」
「へ? そんなことはないはずだけど……申請もしたはずだよ? まだ更新されてないのかなあ。どこから来たの?」
「僕達はスヴェン公国からここに」
「へえ、いいところじゃん! でも、公国まで地図がまだ出回っていないのかもね」
最近できた村なら確かにある。世界中まで広まる地図はほんの一握りだ。敵意も無いしいいかと剣を下げると、女性がホッとした様子で喋り出す。
「いやあ、誤解が解けたみたいで良かった良かった! ワタシはアイム。隣の国から来たならお話聞かせてよ! 村に来ない? ワタシも戻るところだし」
「いいのかい? お風呂なんかあると連れが助かるかな」
「あるある! 善は急げ! ワタシも一緒に連れて行って!」
「オッケー。じゃ、御者台に乗っていいよ。ごめん、もうちょっと頼むよ」
「ひひん♪」
僕がポンと背中を撫でると、嬉しそうに鳴いてポクポクと歩き出す。
「ふう、楽に帰れるわ、ね……」
「どうしたの?」
アイムが不意に荷台に目を向けて固まり、ギギギと首を僕へ曲げて汗を垂らしながら訪ねてくる。
「あの……奴隷商人とかじゃないよね? 荷台、女の子ばっかりなんだけど……」
「ち、違うよ!? みんな仲間だって!」
「焦るのが怪しい!?」
結局、この間誰も起きてくれず、アイムの妄想の誤解を解くのに村に辿り着くまでの時間を要したのだった。
程なくして村に辿り着き、今日のところは村の入口に近いところに馬車を止めさせてもらい、そこで眠ることにした。いざって時に逃げられるようにね。
「ふあ……さすがに眠いや……村の中なら今寝てもいいか……」
「レオス」
「ひゃあ!? ……メディナ、起きたの?」
「うん。ここは?」
「ああ、野営をしようとしたところで変な女の人に会ってね。村に案内してくれたんだ。明日、お風呂を借りるといいよ」
「そう。おやすみ」
「うん、ありがとう……」
「……」
閉じる眼の端に見えたメディナの顔は、珍しく悲しそうな顔をしていたような――
しかし眠気には勝てず、僕は意識を切り離した。
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