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第六章:大魔王復活?
その123 二つの真実
しおりを挟む「死んだ人を案内するのも大変ですね。ああ、『お死後と(お仕事)』なんですねこれ!」
『ええっと……』
と、あの後もエリィはペラペラと喋り続け、ダジャレで一息ついたエリィは、もう少し冷静になり、改めて女神ソレイユへ質問を投げかけた。
「……それで、私はどうなるんでしょうか? もうレオス君とは会えないんですか?」
『うふふ、大丈夫です! こほん、改めて自己紹介させてください! わたしは女神ソレイユ。この世界の神ではありませんが、貴女のことはよく知っていますよ』
「あ、これはどうもご丁寧に」
『いえいえ、こちらこそ』
お互いぺこりと頭を下げ、ふんわりムードが漂う中ソレイユは話を続けた。
『ここは夢と現実の狭間で、意識だけここに連れて来られていると思ってください。もちろん死んでもいません』
「あ、そうなんですね! でも女神さまが私に何か御用が? それに、今、村が大変なことに――」
と、そこでアイネの様子を思い出しエリィは顔色を悪くする。ソレイユは気づいていたが、
『時間があまりないので手短にいきますね。エリィさん、貴女はレオスさんととても関りが深い魂を持った人なんです。貴女の前世の名前はエリザベス……エリーと呼ばれていました』
「はあ」
そう言われても実感が沸かないエリィが生返事を返す。
『レオスさんとは恋人同士でした。しかし、貴女が盗賊団に殺されてから、彼は悪神として道を踏み外していきました。人間は生きる価値がない、と』
「……」
『そんなレオスさんも罪を償い、記憶を捨て、新しい人生を歩むはずだったのですが……』
「……記憶が戻ってしまったんですね。でもおかげで私達は死なずに済んだから」
『それ自体は良かったんです。でも、悪神の一面が姿を出したので、これはマズイと思いました。そこで、私は考えました』
「何を、ですか?」
『貴女の記憶を戻すことを、です。本来このようなことはしませんが、レオスさんが本来の力で人間を亡ぼそうと思ったら一瞬です。それはもう、毛抜きで髭を抜くよりも簡単なことなんです。だからこの話をするため、』
そのたとえはどうなんだろうと思いながら、前世で恋人だった、という話を聞いてなんとなく高揚すると同時に不安が沸き上がる。
「その……記憶を取り戻したらどうなるんでしょうか……今の‟私„は……?」
『それは大丈夫です。その記憶と同時に前世の記憶が混在する形になるので最初は戸惑うかもしれませんが……。幸い、というべきか、まさかエリーさんがレオスさんと一緒にいて、また好きになっているとは思っていませんでした。記憶を失くしてお互い無かったことにするのを願ったのはお二人だったんですから。それにもう一人――』
「? もうひとり?」
『――それは記憶を取り戻せばわかるでしょう。女神がこんなことを言うのも恥ずかしいのですが、これはもはや運命です。今の人生はエリィさんもお強いですし、死なずにどうか今世はレオスさんと幸せになってください』
「あ、ありがとうございます。わ、私はどうすればいいんでしょう……」
エリィがそう言うとソレイユはゆっくり頷き、そっとエリィの手を取る。
『この指輪にわたしの加護を込めます。次に目が覚めた時、レオスさんを見たら思い出すはずです。良かった思い出も嫌な思い出も全部。こんなことを押し付けてしまい本当に申し訳ありません。ですが、私、嫌な予感がするんです……』
「女神さまの言うことはよくわかりませんが、レオス君の為だというなら――」
ソレイユはわかっていますとほほ笑み、直後、エリィの視界は白一色に包まれた――
◆ ◇ ◆
「はああ!」
【中々強いな、これはいい】
僕の攻撃をショートソードで器用に受けるガイスト。打ち合いながら僕は質問を投げかける。
「この村はなんなんだい? 君が村人をアンデッドとして使役しているのなら、許すわけにはいかないね!」
ガイン!
ブシュ……
【お、っとっと……クク、別に許してもらう必要はないな。もうお前達は我のテリトリーに入っている。それに――】
「お前を倒せば済むことだろう、覚悟……!」
手加減なしの僕に付いてこれるはずもなく、数度の斬り合いの末に僕の斬撃がガイストの首を切断しようと振り抜かれる。
だけど――
「いや……レオス、助けて……!」
「!?」
刎ねる、その瞬間に声がアイムに戻り、演技ではない本気の表情で僕に助けを懇願し慌ててセブン・デイズを止める。しかし直後、アイムの顔が歪みショートソードを突き刺してきた!
ビュ!
「うわ!?」
【チッ、勘のいい小僧め】
「今のは、お前が……?」
ダークヒールで掠めた脇腹を治しながら睨みつけると、近くに来たメディナが代わりに答えてくれる。
「多分、さっきのは本物。こいつは『本体が無い』」
「本体が、無い?」
【クク……】
「そう。霊とかエクトプラズムとかそういう類の魔物」
一気に胡散臭くなる。というかエクトプラズムって……僕のそんな思いはつゆ知らず、メディナは続ける。
「誰かに憑りつくことで能力を発揮する。恐らく、この村が襲われた時、アイムに憑りついた」
【まあまあだな。だが勘違いするな? 我は無理やり憑りついたわけではないぞ。この娘の恨みが我を呼び寄せたのだ。いつか必ず、と契約をしてな。何年も待った】
「……それじゃあ、さっきのボスがアイムの復讐相手か」
【その通り。そして三十年越しにようやく実ったのだ! 探しにいけないから我も困っていたが、本当に僥倖だった】
「ならもう解放する。もう復讐は終わった」
メディナが、無残な姿になったボスを見てそう告げるが、ガイストは髪をかき上げて笑う。
【クク、馬鹿を言ってはいけない。三十年も付き合ってやったのだ、今度は我の番だ。お前達を皮切りに、迷いこんできた冒険者を我の食料にするのだ。今度は迷い込んできた者だけではなく、この身体を使い積極的に招き入れてやる。おめでたい女だ、復讐が終われば成仏できると思っていたようだがな。冥王の体を手に入れたらそっちに移り、撒き餌としてこの身体を使わせてもらう。ははは、捨てるところが無いな!】
ガイストは迷い込んできた者を待つのではなく、人間という食料を得るため自ら出ると言う。アイムも出会った時は復讐心に憑りつかれていたのだろう、こういう事態を予測できなかったに違いない。
――さっきの‟助けて〟は、もしかすると『斬らないで』ではなく、こいつから助けて欲しいという意味だったのかも……
どちらにせよこいつを生かしておくのは得策ではない。どうするか思案していると、
「確かにあの体なら男連中は虜になる……! 恐ろしい敵ですよこれは……!」
「いつの間に来たんだよバス子」
アイムの大きな胸を見てギリギリと歯を食いしばるバス子が並び立った。ベルゼラをチラリと見ると、不安げな顔でこちらを見ていた。エリィは……動かない。
僕は一息吐いてから小声でメディナに問う。
「アイムの体からあいつを切り離すことはできるかい?」
「私なら近づけばあっという間」
「そう。なら、僕とバス子で抑えるから頼むよ」
こくりと頷くメディナは漆黒の鎌を呼び出し握り、僕とバス子もそれぞれ武器を構える。
【大人しく魂をしゃぶらせろ……! うははははは!】
嬉々として村人を差し向けてくるガイスト。
僕達を招き入れたのは失敗だったと思わせてやらなくちゃね……!
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