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第八章:動乱の故郷
その154 神を騙る
しおりを挟む「神を殺して乗っ取っただって……!?」
『そういうこと』
「……どうしてそんなことを……! 勇者だったんだろ!」
するとアマルティアは心底面倒くさそうな顔で僕に返事をする。その目はかなり濁っていた。いつかの僕のように。
『だってさ、困るじゃないか。世界に危機が訪れたらその尻ぬぐいをさせられるんだよ? 私の時は変な呪術を研究していた男が魔王になったのを倒してくれって光の剣を持たされたのさ。……当時の私は気弱でね、とても魔物と戦うなんて気を起こすような人間じゃなかったんだ。それでも私しか出来る者がいないという言葉を受けて、何とか倒すことができた』
「それでどうしたの」
メディナが短く呟くと、アマルティアは続ける。
『私は討伐後、再び神の声を聞いた。褒美をくれるというので、姿を見せてくださいと頼んだのさ。後はらくなものだったね、神の言いなりだと思っている人間が反逆してくるとは考えていなかったから。私は神からもらった力を神に行使した、というわけ』
「それで乗っ取れるもんなんですかね……」
『それほど難しいことじゃないさ。伊達に放浪もしていないし、魔王の呪術という研究成果もあったしね』
「わざわざ神を殺すなんてしなくても良かったんじゃないか?」
僕が問うと、アマルティアは口の端を歪めて笑いながら言う。
『だってあれだよ? 自分で世界を作っておきながら人間に『なんとかして、ちょっと手伝うから』だよ? ふざけているよ。だから殺した。そして考えたんだ、きちんと管理していれば私のような人間を今後出さないようにできるんじゃないかって』
「……」
勝手な理屈だけど、当事者にしてみれば相当な苦労があったのだろう。実際、アレンと旅をしていた僕もその気持ちはわからなくもない。
だけど――
「じゃあどうして諍いを起こす原因を君自身が作っているんだ? 僕達はとても迷惑しているからやめて欲しいんだけど」
アマルティアの言い分とは逆、むしろ自分から事件を起こしているから神よりたちが悪い。僕がもっともな疑問を口にすると、待っていましたかのように嫌らしい目を僕達に向けてきた。
『ま、そうなるよねえ。僕は神に成り代わった後、世界の管理をね、始めたんだ。そして途中まで完璧に、諍いも起こさず、魔王のような強大な敵も生み出さずに』
「それはいいことじゃないか」
『うん、もっと褒めてくれていいよ? でもさ、ずっと、それこそ五百年くらいはこんなことを続けていたんだけど、その内……飽きて来たんだ』
「飽きる?」
バス子が怪訝な顔でポツリと呟く。
『そう。飽きたんだ、平和な世界に。それとさ、私のおかげで平和が保たれているのにそれを誰も知らない。私が自己主張したこともあったけど『神だから当然』だってさ。だから私は私のために楽しむことに決めたのさ。そこで思いついたのは、世界という舞台に、人間達を使った”物語”を行うことにした。それは人間同士の戦争、強大なドラゴン、世界を滅ぼす憎しみの塊でできた人間もいたね!』
こいつは……!
アマルティアは年月を経て、歪んでしまったのか、神の力を取り込んだ弊害なのか? 管理する対象をおもちゃにし始めたと語り始めた。嬉々として、自慢話のように喋る。
『私はその様子を少し見て楽しむんだ。私の持っていた”光の剣”を神の与えた武器として与え、一喜一憂する人間は面白かったなあ』
「……なるほど、エスカラーチやバス子はお前の娯楽のために。アレンはそれを倒すための主人公として光の剣を与えたわけか」
「レオス、こいつはクソ野郎。倒さないと」
メディナが一歩前へ出てそんなことを言う。アスル公国の滅亡の被害者であるメディナにも思うところがあるのだろう。声色に感情がこもっていた。
「だね。君の目的はもういい。後は叩きのめしてバス子達の帰り方を吐いてもらおうか」
「神が相手……こんなことになるとは思わなかったけど、手伝うよ」
クロウが冷や汗をかきながら僕の隣に立つ。
『ははは! 神に逆らうとは愚かだね! 大人しく役割を果たせばいいのに! レオス、お前を選んだのは失敗だった!』
「選んだ? どういうことだ!」
ブン!
もはや胸糞悪い話に付き合っていられないと、僕はアマルティアへ斬りかかる。そこでさらに衝撃な告白を受けることになった。
『おっと……。君がこの世界に転生したのは偶然じゃないのさ。一応神だからね、あの世界へは私もいけるんだ。面白い魂がいるな、とわざと転生する空きを作ったんだよ! 記憶を取り戻したのも、お前が力を取り戻したのも、悪魔達に巻き込まれたのも全て私の掌の上だ! 誤算は悪魔どもとエスカラーチがそれほど世界に混乱をもたらさなかったこと。だから人間同士の戦争を起こし、悪神としてのお前を復活させ、やつらの代わりにするつもりだった。泥沼化した戦争中に大魔王より強力な敵が出てくる。なかなかいい『お話』だろう?』
「……ふざけるな! そんなことのために戦争を起こそうとしていたのか!」
「ハイラル王国でキラールを唆したのはアンドラスさんの能力ですね! 返しなさい!」
バス子も攻撃を仕掛け、激高する。続けてクロウが突撃し、メディナが後方で隙を伺っていた。
『その通り。奴の能力は『不和を種を蒔く』ことができるからね。本当ならカイム君の能力があればもっとらくだったんだけど』
「黙れ!」
「強い……!」
『避ける必要もないんだけど、一応実力差ってやつを見せておかないとね? ほら!』
「ぐ……!」
僕とバス子、クロウの攻撃を涼しい顔で回避し反撃をしてくるアマルティア。神を名乗るだけあって手練れとも言うべき僕達の攻撃をものともしない。
バシュ!
「効かない?」
メディナの魔法がヒットするも、打ち消されたかのように霧散し眉を潜める。
「いい加減倒されて欲しいね……!」
『ははは! 神を倒すだなんておこがましいにも程があるよ? そうだね、分からせるためにもこういうのはどうだろう』
ドブシュ……!
「な!?」
アマルティアは僕の出した突きに向かって自らの身体を差し出し、止める間もなく心臓を貫いた。
「や、やった……んですか?」
「動かない」
「にしても自殺だなんて……これじゃ何も聞きだせない……」
バス子達が口々に焦りと疑念を言っている間に、僕は剣を引き抜こうと力を込める。その瞬間――
ずるり……
と、むしろアマルティアの身体が深々と刺さり僕の方へ近づいてきた。
「抜けない……!?」
僕が叫ぶと、項垂れていたアマルティアの顔が僕に向けられ、ニヤリと笑った。
こいつ、死んでいないのか!?
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