前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

文字の大きさ
193 / 196
最終章:罪と罰の果て

その184 元凶

しおりを挟む


 「あ、あんた!? 何やってんのよこんなところで! 妻と子供がお腹を空かせているってどっか行ったのに!」

 ルビアが指さして叫ぶと、ティモリアは悪びれた様子もなく言い放つ。

 「ああ、あれは嘘です。あなた方に卵を買って欲しかったですからね。まあ、ひもじい思いをしていたのは本当ですが」

 ポケットから固いパンを取り出し、ポツリと涙を流しながらもぐもぐと食べ始める。その様子を、倒れたままのアマルティアが振り向き、目を大きく開いて見て口を開いた。

 『お、お前は……!? な、なぜ生きて――』

 「その答えを言う前に終わらせてしまいましょうか」

 『……!? く、くそ……止めろ……うがあああああああああ!」

 「え……!? か、身体に腕が沈ん、だ?」

 ティモリアがしゃがみこみ、アマルティアの背中に腕を突き入れると気持ち悪そうにベルが後ずさる。ぽっと出てきて訳も分からずに勝手に話を進めるティモリアに、ガクさんが眉を潜める。

 「なんだ、あいつは?」

 「あいつはニセ医者とか奴隷の売人、詐欺師や、物乞いとか職を転々として何度か僕達の前に現れたことがあるんだけど、こんなところで会うはずの無い人間だよ。こいつ一体……?」

 「警戒は解かない方が良さそうね」

 「魔法を撃つ?」

 「もう少し様子を見ましょう、メディナさん」

 僕達がそんな話をしていると、ティモリアが僕達に顔を向けて話し出す。ちょうどこっちも聞きたいことがあったから好都合だ。

 『さて、これでようやく力を取り返せました。礼を言いますよレオスさん。ご褒美はこの辺りでいいですかね?』

 「な!?」

 軽い口調のまま、アマルティアの身体からずるりと何かを引きずり出し、バス子が声をあげた。

 「バアル様!?」

 「お、俺もいる、ぜ……」

 「アンドラスさんはどうでもいいです!」

 その瞬間、鳥頭の男はガクリとし、動かなくなった。不憫だが、今はそれどころではない。

 「お前は一体何者なんだ? まさかとは思うけど、アマルティアが乗っ取ったっていう神、かい……?」

 『フフフ……』

 パーン!

 「うわああ!?」

 どこから取り出したのか、笑いながらパーティなどで使うクラッカーを鳴らし続けるティモリア。

 『ご名答。私はこの世界の神、ティモリア。この男に力を奪われた者ですよ。いやあ助かりました、私一人ではどうやっても覆せない状況でしたからねえ』

 「ぐ……がは……ど、どうして生きている……わ、私が完全に消し去ったはずだ……」

 ごろりと仰向けになり、血を吐きながらティモリアを睨みつけて言う。ティモリアは肩を竦めて問題を解けない生徒に話す先生のような口調で返答をする。

 『確かに私はあなたに倒されました。しかし、私は神ですよ? 力の一部を切り離して逃げることくらいできないわけがありませんね』

 「ば、かな……」

 『まあ、それでも私を倒す寸前まで追い詰めたのは凄いですけどね? 人間は興味深いと改めて考えさせられました、はい』

 「お、前のせいで俺が……俺達がどれだけ苦労した、か……」

 「どういうこと? そういえばアマルティアが乗っ取った理由って……」

 エリィがそういえば、と口に手を当てて言うと、

 『その点については申し訳ないとお伝えしたはずです。ちょっと私が居眠りをしている間に地上に魔物が想定より多くなったので勇者になって駆逐してくださいと』

 「え!? お前そんなこと言ったの!? 自分の不始末だろそれは!」

 カクェールさんが驚愕の表情で叫ぶ。出遅れたけど僕も同じ気持ちだ。

 「そう、だ……。俺はみんなのために世界を股にかけて頑張った、だが終わってみれば町に残してきた恋人は他のやつと結婚していたり、勇者だという理由で軟禁状態……な、なにもいいことなんてなかった……だから、俺は……こいつが許せなかったから、殺した……」

 『その節は助かりましたがね。でもそれで私を逆恨みするのはいただけませんよ? それにあなたも人の力を使ってずいぶん遊んでいたみたいじゃないですか? それでチャラで――』

 「お前が元凶かぁぁぁぁぁ!」

 「死ね」

 『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?』

 「は、速い!?」

 クロウが驚くのも無理はない、バス子とメディナが一瞬でティモリアを袋にしたからだ。あ、あ、顔があんなに腫れあがって……


 チーン


 『あがががが……か、神に逆らうとは……』

 「ぺっ」

 「ぺっ」

 ぼこぼこにされたティモリアを引きずって僕のところまで戻ってくるふたり。とりあえず同乗の余地はないので、ティモリアと目線を合わせて尋ねる。

 「で? この後君はどうするつもりだったんだい?」

 『わ、私は一度天界へ戻り、上の神に報告をするつもりです! 力を取り戻すために利用したのは謝りますが、ここまでする必要はないじゃないですか! 我が親友オルコスも人間に滅多打ちにされたと言っていましたね! これだから人間は!』

 どうやら僕達が怒っている理由が良く分かっていないらしい。僕はふたりに目くばせをして頷く。

 「おかわりですよ!」

 「すぐ楽になれる」

 『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!? すみませんすみません!?』

 「はあ……アマルティアの気持ちも分からないでもないね。まあ、君は君で罪を犯したけどさ?」

 「……ははは……そうだね。人間を助けるために力を奪ったのに、いつしか愉悦のために生きるようになってしまっていたな……どこで、間違えたのだろう……」

 「多分、力を得たところからさ。人間……いや、神だってそうさ。力があっても、使い方を間違えればこういうことになる。僕だって悪神という、犠牲になった人からすれば到底許せないような罪を犯した」

 「……」

 「レオス……」

 じっと僕の目を見つめるアマルティアに、心配そうなエリィの声が聞こえてくる。僕はフッと笑い、

 「それでも生き残ったり、転生することがあるなら罪を償うことはできるはずさ。僕は地獄を繰り返してここに立っている。許されたかどうかはいまだにわからないけどね。だから君もやり直せるんだよ」

 「は、はははは! 酷い目に合わせただろう俺に……そんな言葉をかけるか……いや、君だから、か。まいったね……完敗だ……恨んでくれた方が、マシ、だ、な……今度生まれ変わって会うことがあれば――」

 そう言って目を閉じると、アマルティアはそれきり動かなくなった。

 『ふう……。死んでしまいましたか。彼の魂は転生か消滅か……天界で決まるでしょう』

 「あ! いつの間に!」

 「そこへなおれ」

 すでに復活しているティモリアが遠くで汗をぬぐいそんなことを言う。さらに僕達へと告げる。

 『それにしてもフォーアネームの町でレオスさんを見た時、チャンスだと思いましたがここまでうまくいくとは思いませんでしたね。行く先々で先回りをしてお膳立てしておいた甲斐がありましたよ』

 「どういうことだい……?」

 『セーレという過激派の悪魔達と引き合わせたり、卵を売ったりですかね。世界樹の杖も役に立つと思いましたが、レオスさんの強さのおかげで必要なかったのは僥倖でしたか』

 「お前の筋書き通りだったってわけか」

 『まあ、そうなりますね? レオスさんが現れなかったら向こう500年くらいは人間の身で過ごす羽目になったので本当に感謝しています。500年あればアマルティアを覆すくらいはできるんですが。今はこれくらいしかできません』

 ピィーと口笛を吹くと、ルビアの手に乗っていたテッラの目がカッと開き黄金色へ変化を始める。そして羽が生え、空中へと舞い上がった。身体も大きくなり、凛々しい顔つきになっていた。

 「テッラ! でも姿が違う……」

 『これは神竜という、私が創り出した竜です。この世界にいないのでアースドラゴンに偽装していましたがね。おかげで大魔王の娘は血を飲んで息を吹き返しましたでしょう?』

 「あの時の……」

 テッラがベルと一緒に倒れていた時そんなことがあったとは。そしてティモリアはテッラに向かって声をかけた。

 『さ、私を乗せてください。天界へ帰りますよ』

 「ピッ!」

 ぷいっとそっぽを向くテッラ。明らかに拒絶の意思を見せた。

 『生みの親である私になんてことでしょう!? こうなったら無理やりにでも――』

 そこでルビアがついに切れた。

 「ちょっとあんた、さっきから聞いていれば自分のことばっかり! あたし達がどれだけ苦労して、悲しい想いをしてきたか分からないの!」

 『お察ししますが、私も辛かったのですよ?』

 「こいつ……!」

 「懲りない奴ですね!」

 「我らの怒りを思い知れ」

 『ぎゃあああああああ!? 何故的確に私を捉えられるのですかねええ!?』

 「まったくとんでもない神だね……」

 「だね……。ここで倒しておいた方がいいかな?」

 父さんが呆れて口を開き、それに僕も呼応する。とりあえずルビアも加わり、三人にボコられているティモリアを見ていると、不意にどこからか声が聞こえてくる。

 『あー、あー、聞こえますか? ソレイユです! ティモリア、あなたを迎えにきました』
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...