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FILE.2 ワスレラレタムラ
FILE.2 エピローグ
しおりを挟む――村の人間を埋葬した後、皇帝の指示により、エリザやオートス、ドグル達と共にカイルは町の片づけを手伝った。
サイクロプスによる家屋の損害は馬鹿にならなかったが、死者がいなかったのは幸いだった。それでも重傷者はいるので手放しには喜べず、村人に噛まれて狂暴になった者は眠ったまま起きてくる気配がなかった。
それでも一週間ほど経ち、ある程度片付いたところで、あとは町の人やクレイター大佐達が行うといい、カイル達は一度本国に戻っていた飛空船が帰ってくるのを待ち、それに乗って帰還しようとしていた。
島を見上から見ようと、デッキに集まっていたカイル達。陽が暮れていく中、フルーレがポツリと呟く。
「……皆さん、大丈夫でしょうか?」
「噛まれた奴らは村長とやらが死んだのと同時にぱたりと倒れて眠りこけていた。調べる必要はあるだろうが、命に別状は無さそうだったぞ」
フルーレの言葉に、腕を組んだカーミルが答えるとフルーレは安堵の笑みをこぼす。その様子をチラリとみた後、ドグルが島を眺めながら煙草の煙を吐く。
「訳が分からねぇまま付いてきたが、とんだ騒ぎだったな」
「そうだな。しかし、事態が収束して良かったと言える。カイル少尉、もう魔獣は発生しないんだろう?」
「黒幕は俺達が埋葬した村の人間だ。50年も前から続いていた悪夢が終わったってとこだな」
カイルの言葉にうなずくと、オートスは声を小さくしてカイルへ問う。
「今度はなんだ? 『遺跡』ではなさそうだったが?」
「……まあ似たようなもんだ。皇帝から預かった品は『遺物』でな。村長や村人が50年、生きた死体であるゾンビになっていた原因になるもの。それと魔獣が発生しやすくなる仕掛けだな」
カイルがポケット上から例の珠を撫でると、ダムネが驚いたように口を開く。
「そ、それ、めちゃくちゃまずくないですか……? それがあれば任意で魔獣を生み出せるってことでは?」
「その通り。ただ、それだけじゃないような気がするんだよ。後はどうしてこれを俺に渡したか、だな」
「そりゃ本人にしかわからねぇ問題だな」
「まあ、できることがあれば声をかけてくれ。一応、ウェスティリア国にもまだつては残っている。……っと、エリザ大佐が来たな。また」
エリザが近づいてきたところで、オートス達が話を切り散っていく。イリスはお腹いっぱいご飯を食べた後、シュナイダーと共に部屋で眠っていた。
「大変だったな」
「いや、そりゃお前だろうに。これだけの人数、動かすだけでどれくらい書類が必要か考えたら頭が痛くなる。いやあ、俺のためにそこまでしてくれるとは嬉しい限り。で、大変な目に合ったから、その大きな胸をちょっと貸してくれない?」
キリッと真面目な顔でそう言うと、エリザは苦笑しながら返す。
「……返さないだろうがお前は。まあ、実際にはそれほど苦労は無かったんだ。父上主導で人を集めたからな。上層部は父上が島へ同行するのを嫌がってはいたが」
「今の連中は口だけだからなあ」
俺が殺した奴らはもっと冷酷で残忍だったと胸中で呟く。
「父上は……何が目的なんだろうか……私とお前を引き離しておきながら、今はこうしていてもなにも言わない。どうしてあの時、あのような行動に出たのだろう……」
「本人の口から、俺も聞いてみたいもんだ。死ぬ間際になら教えてくれるかもな?」
「カイル……。うん、その時は私も一緒だ。刺し違えてでも……」
真剣な表情で拳を握るエリザに、カイルはぷっと噴き出してからエリザへ言う。
「お前がそう言うなら、この話は無しだ。刺し違えちゃ、意味がないんだからな……」
「カイル……。お前……真面目な顔で人の胸を揉むんじゃない……!!」
エリザが拳を振り上げると、即座にその場から離れるカイル。
「……皇帝は俺が何とかする。お前は気にするな!」
「待ちなさい! ……もう……」
こうして、フィリュード島をめぐる騒動は幕を下ろしたのだった。各自、腑に落ちないものを抱えつつ本国へ戻るカイル達。
――そして
「――結局、あの島での出来事は何だったんだろうな?」
カイルは自室の机の上にあるサイクロプスから採取した素材を眺めながらそんなことを呟く。一週間ほど経過しており、現地兵のクレイター達に大変感謝されたが、カイルは村長のエスピスモがどうして『遺物』を扱えたのかが腑に落ちなかったのだ。
「このサイクロプスの体も妙だ。内臓のようなものは無かったし、この皮膚も自動車のタイヤのようなゴム。要するに作り物だ。……イリスはなにか心当たりはないか?」
『……データ検索中……。めぼしいものはありません。サイクロプスは架空の生き物だという結果だけありました』
「きゅふーん」
魔素切れを起こして再び小さくなったシュナイダーと遊ぶイリスの回答に嘆息し、ギィッと椅子を傾けて天井を仰ぐカイル。そこでふと、イリスの言った言葉に疑問を抱く。
「架空……架空って言ったか? いつ、どこで、誰がサイクロプスの話題を出したんだ……? 少なくとも俺はお前が言うまで名前すら知らなかったぞ……?」
カイルがイリスに向き直ると、イリスはベッドへダイブして枕に顔をうずめてから言う。
『私の空白部分に関係があるのかもしれません。眠っていたのもどれくらいだったのか分かりませんし。ただ、私を造った人は優しかった、と思います』
「造った、か。お前が封印されていた『遺跡』がもう一度探索できれば何かわかるかもしれないんだが……」
『もうあそこは機能していないですから、意味はないかと。どちらかと言えば新しい『遺跡』が見つかった方が有力な手掛かりになるのではと思いますが』
「……確かに。そうだな、どうせ暇だし『遺跡』の状況でも調べるか。皇帝あたりが知っているだろ」
カイルは開き直って皇帝に聞くことに決めた。
自分が何かを忘れている、だけど教える気はないと皇帝は言う。しかし上手く利用できる可能性はある、と。
「……村長に何か言っていたのもあいつだったな。皇帝、いったい何を知っているんだ……? 俺の記憶……ブロウエル大佐が拾ってくれたことしか覚えがないが、他に何があった? ……う!?」
思い出そうと頭を悩ますカイル。しかし、その瞬間酷い激痛に襲われ机に突っ伏して頭を押さえて呻いた。
「なんだ……子供のころ……俺は……八歳で銃を……?」
無邪気に銃を組み立てる子供の情景が頭に浮かび、それがなんとなく自分ではないかと目を細める。上半身を起こして頭を振り、もう一度記憶を探ろうとしたが上手くいかなかった。
「はっきり言ってくれればいいもの……」
悪態をつきつつ『遺跡』はそう簡単に見つからないかとかと竦めてシュナイダーにボールを投げて取って来させる。
「きゅんきゅん!」
「……久しぶりにセボックのところへ行ってみるか」
カイルはシュナイダーを最初に連れて来たのがセボックだったことを思い出し、サイクロプスの素材を突きながら、そんなことを呟く。
「技術開発局か、まったく近寄ってないから俺のことを知っている奴も少ないだろうし、行ってみるか」
もしかすると皇帝の言う武器をセボックが作っている可能性も考え、そうであれば制止することも考えていた。
だが、カイルのそんな思いをよそに、帝国は不穏な空気に包まれることになる――
◆ ◇ ◆
<???>
「これでゲラート帝国を倒せる、と? こちらの兵の数はやつらの三分の二。すぐには負けぬであろうが、いずれ押し切られるのは目に見えているぞ……?」
玉座のひじ掛けを神経質にトントンと叩きながら頬杖をつく男が明らかに勝てる目算の無い戦いをしろという目の前の男にそう言うと、男は少しタレがちな目を片方だけ吊り上げてからにやにやと笑う。
『なあに、大丈夫さ。実験は終わっている。帝国にも種は撒かれているし、外と内部の両方から切り崩せるだろう。もちろん俺も参戦する。<********>』
男は聞き取れない言葉を呟くと、その手にはいつの間にか現れた片刃の剣が握られていた。真っ白なその剣は寒気がするほど美しい輝きを放ち、玉座の男が息を飲む。
「……それなら勝機はあるか? しかし、ガイラル皇帝は文字通り化け物だぞ?」
『で、あれば皇帝の相手は俺が努めれば問題ない。それとも、この国の兵は弱いのか? 『遺跡』に封印されていた俺が居ても勝てないほどに』
イリスと同じく、『遺跡』から目覚めたという男がにやりと笑い挑発すると、玉座の男が眉を上げて不機嫌そうに返した。
「……我が国の兵は優秀だ。帝国が他国を吸収してさえいなければ、我が国が最強のはずだった」
『だが、帝国は全土統一を目指している。そこで一歩遅れをとったのは事実だな』
「ふん、眠っていた貴様に何が分かる。マスターの私の言うことを聞いておればいいのだ! 準備期間は一週間。整い次第ゲラート帝国へ攻め入る!」
『ははあ……聡明な国王様』
確かに言うことは聞くが、白々しいなと、シュトレーン国王であるモーグル=ヴァン=シュトレーンが『遺跡』から出て来た男、ニックの背中を見ながら胸中で呟く。使えるものは使うかと、座り直し、帝国を倒す策を再度構築し始めるのだった――
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