上 下
226 / 244

第二百三十五話 お久しぶりですというもの

しおりを挟む
 ゆっくりとワトスゥンさんの乗った馬車についていくと、町の奥にひときわ豪華な屋敷に到着した。

「おや、ワトスゥン様! お戻りになられましたか!」
「はい。旦那様は?」
「お屋敷で執務中かと。そちらは?」
「ウルカティヌス様である。本日お招きさせていただいたのだよう」
「ああ、発明貴族の……どうぞ」
「ありがとうございます」
「わふわふ」
「クルルルル」
「ちょっと待って!?」

 門を抜けようとしたところで門番さんに止められた。どうしたのだろうと馬車を止めると、前に回り込んで口を開く。

「いや、この二頭は魔物じゃないか!? さすがに入れるわけにはいかないぞ!?」
「あ、大人しいから大丈夫だと思いますよ?」
「わふ」
「クルル」
「うわあ!?」

 シルヴァとフォルテが門番さんに頬をすり寄せると、慌てて離れて行った。
 すると、先に庭に入っていたワトスゥンさんが馬車から降りて戻って来た。

「どうしましたか?」
「ああ、魔物が入ろうとしていたから止めたんですよ……というか町の入口はよく通しましたね?」
「大人しいから問題ないですぞ。数日一緒でしたが、まず暴れることはないので」
「マジですか……まあワトスゥン様が言うなら……」

 門番さんは渋々といった感じで頷き、そのまま門へと戻っていった。

「大人しくできるよね?」
「わんわん♪」
「クルルル♪」

 二頭を撫でてからそのまま馬車を止めるところへ移動していると、屋敷から男女と僕より少し歳下っぽい男の子が出てくるのが見えた。
 もちろんそれはキールソン侯爵一家だ。奥さんとお子さんは初めて会うので緊張する。

「やあ、いらっしゃい! 急な招待を受け入れてくれてありがとう」
「いらっしゃい、遠いところようこそ!」
「こ、こんにちは……」

 キールソン侯爵様が片手を上げて挨拶をしてくれ、続けて奥さんと息子さんが挨拶をしてくれた。
 息子さんは引っ込み思案なのか奥さんの足元に隠れての挨拶となった。

「キールソン侯爵様、ご招待いただきありがとうございます!」
「初めまして、ガイアス家のメイドをしておりますバスレと申します」
「可愛らしいお嬢さんね。わたしはリオーネです。ほら、あなたも挨拶をして」
「は、はい……ボクはフェリオ、です……よろしくお願いします……」
「リオーネ様、フェリオ様よろしくお願いします! 後は動物達も紹介させてください!」
「ん? もちろんいいよ」

 キールソン侯爵様に許可を得たので、僕はみんなを近くに呼んだ。
 
「シルバーウルフのシルヴァに、カトブレパスのフォルテです。こっちはジェニファーで、タイガと言います」
「わふわふ!」
「クルルル♪」
「こけー!」
「にゃー」
「わあ……!」
「これは賑やかね……大きい子は魔物?」
「そうです! でも大人しいので大丈夫ですよ」

 僕がシルヴァの首をわしゃわしゃしてやる。するとシルヴァは嬉しそうに鳴いた。

「いいなあー」
「フェリオ様も撫でてみる?」
「いいの……!?」
「いいですか? キールソン侯爵様」
「ははは、まあ大丈夫そうだし、いいぞ」
「……やった! わあ、ふわふわだー」

 人見知りっぽいけどフェリオ様はすぐにシルヴァの背中を撫ではじめる。もちろん大人しく撫でられてくれた。

「フォルテ、伏せて背中を触らせてあげて」
「クルル♪」
「こっちのフォルテも毛並みがいいんだ」
「本当だ! 枕みたい……乗ってもいいかな……?」
「うん」

 伏せてもらったから乗ることは簡単だ。ゆっくり乗ると、そのまま寝転がるようにフォルテの背中に顔をうずめた。

「ふわあ……お布団だあ……」
「クルル♪」

 フェリオ様がなんとも言えない顔でまったりし始めた。フォルテの毛は本当に柔らかくてふかふかなのだ。

「という感じで大人しいです!」
「さすがはヴァンパイアロードの子だけあるな。魔物を使役しているとは」
「ありがとうございます! それで、まずはお土産をと思いまして」
「ほ、ほう、土産……ふふ、気を使わせてしまったかな」

 とか言いつつソワソワしているキールソン様。
 僕の持って来た馬車が気に入ってくれるといいけど。そう思いながらワトスゥンさんの乗っていた馬車のところへ行く。

「これです!」
「これは……よく見ればウチの馬車じゃないな。ワトスゥンが降りて来たが……」
「わたくし達が乗って来たものがキールソン様の馬車ですわ」
「それで、これがおお土産だというのかね? 馬車はたくさんあるが……」
 
 少し残念そうな表情になったけど、僕は小さく頷いてから自信を持って言う。

「確かにそうです。ですがこの馬車、発明を駆使してとにかく乗りやすくしました!」
「なに!? これがか!?」

 すぐにワトスゥンさんの方に顔を向けると、彼は微笑みながら頷き、サムズアップをしていた。

「夫にウルカさんの能力は聞いておりますの。乗り心地がどれほど変わるのか興味ありますわね!」
「ああ! さ、早速いいかね!」
「はい!」
「フェリオ、乗りますよ?」
「ぼ、僕はこっちでいいよー……」

 リオーネ様がフェリオ様を呼ぶも、フォルテの背中から離れようとしなかった。
 子供なら生き物が好きだもんね。

「なら、少し町を回ってくる。ついてきてくれ」
「自分でいうのもなんですが、町に魔物を連れていいですか?」
「ここに来るまで連れて来たのだろう? 構わないよ。それにフェリオがこんなに楽しそうなのも久しぶりなのだ」
「わかりました!」
「なら一緒に行こう」
「わーい! フォルテ、よろしくお願いします」
「クルル♪」

 ということで町を散歩することになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...