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最終章:その果てに残るもの
第二百三十七話 エアモルベーゼ
しおりを挟む「こっちだ!」
チャーさんの案内で先に進むと、俺でも気配が分かるところまでやってきたようで肌がチリチリする感じがあった。近くには大きな扉があり、それを背にしてエアモルベーゼ、そしてその前にアウロラが立って話している。
『――!』
『……』
「(何を話している……?)」
「行かないの?」
「少しだけ様子を見よう。あいつらの話を聞いてみたい」
そっと柱の陰から芙蓉と共に二人の様子を伺うと、今度ははっきり声が聞こえてきた。
『まったくしぶといわね? あのままカケルさんに斬られて死んでいれば良かったのに』
『そうは行かん。……あの剣はお前が渡したのか? あれは私達が作ったものでも無ければ、あの世界で作られた物でもない』
『本当に知らないわ。それに知っていたとしてあんたがここで消え去ることに変わりはないし! ノア、少し時間を稼いで頂戴』
糸目を吊り上げながらアウロラを指差し、横に立っているショートカットの女の子がレイピアのような武器を構えて前に出る。エアモルベーゼが背にしていた扉に手をかけると、それを見てアウロラがうっすらと目を開けて呟いた。
『”冥界の門”か。あの世と呼ばれるここには相応しいものだが、それを持ち出すということはやはりお前は私のリンクから逃れられてはいないようだな……お前ではオリジナルの私に勝つことはできない。その為にノアを操っているのだろう……! ≪爆炎咬≫』
『エアモルベーゼ様に手は出させない』
アウロラがノアと呼ばれた女の子に魔法を放つも、持っていた剣をくるくると回し、炎を掻き消して前進する。突いてきたレイピアに対し、アウロラは手に込めた魔力を使って弾き返す。アウロラは大怪我をしているにも関わらずまだノアを相手にして引けを取らない……恐ろしい奴だ……
俺がそう思っていると、エアモルベーゼが冥界の門とやらを開けることに成功していた。
『開け……!』
ゴゴゴゴゴゴ……
「な、なに、あれ……」
「~!? ~!?」
芙蓉が驚いたのも無理はない。扉の向こうは漆黒。絵具かマジックで塗りつぶされたかのような黒。見ていると吸い込まれそうなほど危うい場所だと俺は直感していた。
ガッ! ドンドンドン! ガキィ!
『ノアめ、中々やるようになったな。300年無為に過ごしていた訳ではないらしい。≪大地の傷痕≫』
『くっ……』
ドン! ゴロゴロゴロ……
アウロラが足元に魔法を放ち、盛り上がった床がノアを突きあげて吹き飛ばす。剣を杖にして立ち上がるが、結構なダメージを負ったらしくふらふらしている。
『ノア、下がりなさい! 後は私がやるわ!』
『まだ、やれます……うっ……』
ノアが呻くと、アウロラが肩を震わせ口を開く。
『ふ、ふふふ……ここはやはり居心地がいいな。見ろ、傷が回復していく。やはり私は体が代わっても女神なのだ! さあ、その体を返してもらおう』
『あんたまさかノアの魔力を吸ったんじゃないでしょうね!? 慕っている者を食い物にするなんて……!』
『私が勝てば返してやる。そう、お前が消えればいいのだ!』
これじゃ本当にどっちが破壊神か分かったもんじゃないな。エアモルベーゼも何か裏があるかと思ったけど、どうやら本当に世界を心配しているらしい。
「行くぞ芙蓉!」
「任せて!」
「我等は奇襲を」
「~! ~!」
俺と芙蓉がアウロラの背後に立つと、エアモルベーゼがびっくりして目を見開いていた。
『うっそ!? カケルさんに芙蓉さん! どうしてここに!?』
『な!? お前達、こんなところまで追いかけて来たのか。ここは生ある人間が居ていい場所ではない!』
「知るか、お前を倒してから考える!」
ブン!
「避けるか!」
『遅いからな』
口ではそんな悪態をつくが、間違いなくこの剣を恐れている。徐々に回復しているみたいだが当たればこっちの勝ちだろう。
『手伝うわ。アウロラを冥界の門へ落として! 扉を締めれば向こう側から開けることはできないから!』
「分かったわ! アウロラ、私達をおもちゃにした代金を払ってもらうわ」
カカカカ! ヒュン! ドカッ!
レヴナントとして俺の前に現れていたころの強さをもってダガーと体術でアウロラの動きを封じ、入れ替わりに俺の斬撃が掠る。くそ、本当にしぶとい!
『”六つに分かれし女神の力、今、解放する時”』
エアモルベーゼが何か呪文のようなものを口にすると、神々しい光がエアモルベーゼを包む。それをアウロラが詳しく解説してくれる。
『む!? ”神言”を使ったか、短時間だが指先一つで世界を壊せる私の最終形態……私の力はお前などが扱っていいものではない≪氷撃の鉄槌≫』
魔法を使った隙を逃すまいと斬りこむが、ひらりと回避し俺の剣は床に傷をつける。
「チッ、逃げ足が早いな!?」
グオ……! アウロラの手に巨大な氷塊にしか見えないハンマーが現れ、それを一気に振り下ろす!
「エアモルベーゼ!」
『大丈夫! ≪セイントブレス≫』
淡い光がアウロラを包み込むと、持っていた氷塊が崩れ落ち、アウロラが顔を顰めて次の魔法を放とうとする。そこを芙蓉が横から蹴りを入れた!
『が!? 小娘が!』
「それを喚んだのはあなたでしょうが! ”光気双斬”!!」
『今! ≪ニュークリア・イグニッション≫』
アウロラが派手に蹴り飛ばされた後、追撃で芙蓉に斬り裂かれる。芙蓉がその場を離れた瞬間、エアモルベーゼの大魔法が炸裂した!
『うおおおおお……! わ、私は――』
カッ! ズドォォォン!
その辺の柱が粉々になり、パラパラと破片を散らせながら砂埃をあげていた。そのままエアモルベーゼはダッシュし、倒れたアウロラの首根っこを掴んで冥界の門へと運ぶ。
『……私を生んでくれたことは感謝するけど、あなたはやりすぎた』
そう言ってエアモルベーゼは冥界の門の中へアウロラの体を投げ捨てた。漆黒の闇があっという間にアウロラの姿を見えなくしていく――
「お、終わったのか……?」
『……ええ、これで何もかも。ありがとうカケルさん。これであの世界、ペンデュースは救われたわ』
ニコッと微笑むエアモルベーゼにきょとんしていた芙蓉が、じわじわと言葉の意味を噛みしめ、飛びあがって喜んだ。
「ほ、本当に? やった……やったわカケルさん!」
「ふう……よかった……何とかなったか……」
『アウロラもあなた達も、ここへ来たのは想定外だったけど結果的にきちんと終わって良かったわ』
そう言うエアモルベーゼに、俺は不思議だったことを尋ねてみた。
「なあ、お前はどうして破壊神なのに世界を破壊しないで守ったりしたんだ? アウロラと利害は一致すると思ったんだが……」
『フフ……私が生み出されたのは確かにその通りだったけど、体が入れ替わって300年。力も無い私は暇つぶしに人間の生活を見るくらいしか無かったのよね。最初は弱い人間が四苦八苦するのを見て笑ったり、やっぱり滅ぼすべきとか思ってたんだけど……』
「だけど?」
芙蓉が首を傾げると、肩を竦めてエアモルベーゼが続ける。
『人間は一所懸命なのよ。親に売られる子供、盗賊に身をやつすしかなく、人を殺して泣く男。良い貴族に悪い貴族……立場は違えどみんな生きるために頑張ってた。そう見るとね、人間が好きになったのよ』
フフン、とドヤ顔で腰に手を当てて言うエアモルベーゼは少し照れくさそうだった。それが何だかおかしくて、俺と芙蓉は声を上げて笑う。
『はあ、笑うと思ったわ。まあ、そういうこと。後は最後の仕上げ――そんな訳でカケルさん。その剣で私を……殺して?』
「は……?」
「え?」
にこやかにそんなことを言うエアモルベーゼに、俺と芙蓉はきょとんとしてしまう。言っている意味に気付いた時、俺はエアモルベーゼに叫ぶ。
「何を言ってるんだ!? 成り代わったとはいえお前はもう女神の体なんだろ? お前が居なくなったら世界はどうするんだ!」
「そうよ! ちゃんと見守りなさい! こんなに頑張ったのに死ぬなんて……」
『ありがとう。でも、あくまでも私は破壊神。それにアウロラに生み出された私もアウロラのようになってしまう可能性が高いの。だから消えなければならない……世界は、あそこにいるノアに頼んでいるから大丈夫』
柱を背にうずくまっているノアを指差し、微笑むエアモルベーゼ。
『だから、お願い』
ね? と、懇願するエアモルベーゼの目を見ながら、俺は振りしぼって声をあげる。
「……それは……できない……」
『……どうして? また世界が危機になるかもしれないのよ!?』
俺の代わりに芙蓉が答える。
「それでも、だよ。この世界はあんたが守った。ううん、カケルさんも、私も、勇者達も。だから、その『いつか』が来るまで過ごせばいいじゃない! その時が来たら……私が倒してあげるから……」
『芙蓉さん……』
「俺も同意だ。なあに、お前なら大丈夫だろ? 破壊神から心変わりした女神ってのも面白いじゃないか? ラノベにゃあまり無いシチュエーションだぜ?」
『カケルさん……で、でも……やっぱり――』
困惑するエアモルベーゼに後は何て言おうか、と思っていると、怒号にも似た声が辺りに響いた。
『やっぱりそいつは死ぬべきだ……!』
ドズドズ!
氷の鎖が絡みつき、岩でできた槍がエアモルベーゼの体を貫き血を噴きださせる。
『うぐ……!? あ、アウロラ……!? あなたまだ……!』
『まだだ……! こうなればお前達も引きずり込んでやる……! 私一人では消えんぞ!』
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