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始まる同居生活
1. 始まり
しおりを挟む「……ねえ、どうして私達、こんなことになっちゃったのかな?」
「……」
薄暗い部屋の中で、長い黒髪に赤い瞳をした女性が、男性の背中に語りかける。だが、男性は何も言わず作業を続ける――
「何とか言ってよ……」
「もう終わったことだ」
黒髪で緑の瞳をした男性が、ぶっきらぼうにため息を吐いて返答するが、それは女性の望む答えでは無く、女性は声を荒げて男性を糾弾し始めた。
「そうかもしれないけど! どうしていつもあんたはそうなの! 自分は悪くないみたいな顔して、あんたが私の前に現れなければこんな苦しい思いをすることも無かったのに……」
「……それについては悪いと思っている。だけど仕方なかったんだ」
「う……う……」
「泣くな。その話は何度もしてお互い納得しただろう? そんなことよりお前も手伝え」
男性が振り向くとその手には茶碗があり、ほかほかとできたての香りを運んでいた。それを見て女性はその場に崩れ落ち泣き叫んだ。
「うわあああああん! 今日もご飯とたくあんだけの夕飯だなんて嫌よぉぉぉ!」
――と、日本のとある場所のワンルームで、別れ話みたいな話をしている二人。実は異世界の人間だったりする。
男性の名前はジン。異世界"エレフセリア”で魔王討伐の任務を背負わされた者。
女性の名前はフリージア。同じくエレフセリアで魔王だった者。
そんな二人が暮らしているのは、我らが日本のバス・トイレ別のワンルームアパート。
そして、一緒に暮らしているのにはもちろん訳がある。
それは――
◆ ◇ ◆
<異世界:エレフセリア>
「魔王よ、この国の平和のため、個人的に恨みはないが討たせてもらう」
「フフフ、人間風情がこの”魔王フリージア”に楯突くとはいい度胸ね! やれるものならやってみなさい!」
「はあ!」
「<カースド・ブリザイン>!」
ジンの斬撃が、フリージアの魔法が激しくぶつかり玉座の間が激しく揺れる。速い斬撃、飛び散る魔法。最終決戦に相応しい激突だった!
「あのやり取りも何度目だろうな、ヤアナ……」
そして、その戦いを見守る者達が端っこにいた。
「シッ! 聞こえたらことですよリーヨウ。ところで今回はどっちが勝つか賭けませんか?」
余裕そうな声だがすでにボロボロの二人。これはすでにジンと戦ったためである。
リーヨウと呼ばれた男は、魔王軍四天王の一人『轟焔将軍のリーヨウ』。ヤアナと呼ばれた男は『轟嵐将軍のヤアナ』だった。そこにもう一人妖艶な女性が会話に加わってきた。
「なら、あたしは魔王様に一万ヘクト賭けるよ」
「お、無事だったのかナチュラ」
「伊達に『轟水将軍』じゃないってことね。あの甘ちゃん勇者が魔王様を倒せるとは思えないけど?」
「それもそうだな……なら俺も魔王様に……」
「では私も……ってそれだと賭けにならないではありませんか!?」
ヤアナがやれやれとため息を吐くと同時に、もう一人、魔王の間へ入ってくる人影があった。
「なら俺は勇者に一万だ。あいつは手を合わせる度に強くなっている。考えても見ろ、最初は俺達の誰にも勝てなく門前払いだった男が魔王様とほぼ互角に戦っているんだぞ?」
「ロオドか」
「『轟岩将軍』はお堅いんじゃないの? でも、ま、賭けは成立ね。分配は少ないけど、酒代くらいにはなるかしら」
「まあ、通算100回目の挑戦だ。そろそろ勝てるかもしれんぞ? 勇者が負けたところでお金を半分回収して近くの町に放り出すだけだし」
「魔王様は勇者を殺さないですからね。いい遊び相手を見つけたとか言って……」
ヤアナが疲れたように言い放つと、リーヨウは腕組みをしながら返す。
「仕方ないだろ……俺達じゃ相手にならんし、そもそも恐れ多い」
「だいたい地上制圧なんて、時代錯誤の命令がなければあたし達だって来てないし、こんな賭けで暇つぶしをする必要もないんだけどさ」
ナチュラがぼやくと、ロオドがジンとフリージアの戦いから目を離さずに言い放つ。
「力こそが全てだ。従いたくなければ強くなるしかない。……む、見ろ、勇者が押しているぞ」
「マジで!? ノオォォォ! 私のなけなしのお小遣いのために頑張ってください魔王様!」
「それで賭けなんてしようとしてたのかよ……」
ヤアナの言葉にリーヨウが呆れていると、戦いに変化が訪れていた。
「今度こそ……!」
「フ、フフ……強くなったわね! 面白い、面白いわよ人間! 私の真の力を見せてあげるわ!」
「くっ……!?」
ゴウ! と、魔力が膨れ上がりジンの斬撃をバリアで弾く。
「ああ!? 魔王様! 力を隠しているなんてずるいですよ!?」
「やった! 今日の飯はロオドのお金で豪遊よ!」
焦るロオド! 喜ぶナチュラ! だがその時、ジンが一旦下がり剣を上段に構える。
「今度で終わりだと言ったはずだ! ”デモンズブレイク”!」
ジンが叫ぶと同時に、バチバチと剣に稲妻が巻き起こる。それを見た魔王フリージアは両手に魔力を収束させて迎撃態勢を取った。
「いいわ、受けて立つ! 来なさい!」
「うおおおお!」
ジンが駆け出し、剣を振りかぶる! そして両手に収束した魔力をその剣にぶつけるフリージア!
「<グラビティ・ウェーブ>! 重力波に押されなさい……!」
バチバチバチバチ……! 二人の攻撃が拮抗しお互い譲らない。
「ぐぐぐ……!」
「ぬぬぬ……も、もう諦めなさいよ!」
「い・や・だ……」
「ひ、引き分けか? なら、この勝負は無しってことで――ぎゃあああ!?」
ロオドが三将軍にボコられたその時、不思議なことが起こった。
ブオン……
「お、おい! ありゃなんだ!?」
「どさくさに紛れてあたし達のお金を持って行こうたってそうはいかないわよ?」
「いや待てナチュラ! マジでなんだあれ!?」
リーヨウが見たのはジンとフリージアの横に現れた謎の穴だった。
「……何だこれは? これもお前の仕業か?」
「し、知らないわよ!? あんたじゃないの?」
「知らん」
「まあいいわ、今日も勝たせてもらうわよ!」
穴のことなど意に介さず続行しようとする二人に声がかかる。
「ちょ、待ってください魔王様! その穴、ヤバい気がしますよ!」
ヤアナが止めようとしたが一足遅く、四人が『あ!?』となったところで――
「む……!? 吸い込まれる、だと……」
「きゃああ!? なになに!? これ何なの!? ちょっとあんた達助けなさ――」
勇者と魔王の二人はもみ合うように、謎の穴に吸い込まれて消えた。
「魔王様!」
「チッ、賭けどころじゃないなこりゃ!」
危険と思いつつも主を助けねばと四人が駆け寄るも穴は徐々に小さくなり、これも消失する。
「!? ……マジか……!?」
「ど、どうしますか……!?」
「どうするってお前……どうすんだよ……」
「……まいったわね……」
四人は玉座の前で途方に暮れるのだった。
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