異世界ワンルーム生活! ◆バス・トイレ別 勇者・魔王付き!?◆

八神 凪

文字の大きさ
3 / 37
始まる同居生活

3. 異世界

しおりを挟む
 
 チュンチュン……チチチ……

 「ん……朝か……う?」

 小鳥のさえずりを耳にしたジンが目を覚ましてゆっくり体を起こそうとして……できなかった。なぜならフリージアがジンの腕に絡みついて眠っていたからである。形のいいバストがぐにゃりとシンの腕にくっついていたりする。


 「むにゅ……リーヨウ……私、朝は弱いんだから後五時間後に起こして……」

 「寝過ぎだ」

 ゴロンとフリージア転がすとキレイに転がって行き、壁に激突する。

 べしゃ!

 「何!? 敵!? 魔王たる私に戦いを挑むとは愚かな! 灰になってから後悔するが……痛い!?」

 「落ち着け」

 謎の構えをして早口で捲し立てるフリージアにチョップをかまして黙らせる。寝ぼけ眼できょろきょろしながら口を開いた。

 「ふあ……まだ薄暗いじゃない……明るくなってから起こしてよね……」

 「言いたくはないが大した奴だなお前。異世界で大胆な」

 ジンが呆れながら言うと、フリージアはマントをはぎ取り、ガバッと身を起こして叫ぶ。

 「ハッ!? そうよ! ここは異世界だったわ! どんな朝ごはんがあるのかしら!」

 「そんな場合か……。明るくなれば人も動き出すだろう、元の世界に戻る方法がないか聞いてみるぞ」

 「はーい……」

 二人は干し肉を口にし、陽が上ってから行動を開始。

 早速、犬の散歩に公園へ訪れていた人と接触する。見た目は六十代くらいのおじいさんだ。

 「そこの御仁、少し聞きたいことがあるのだがいいか?」
 
 「んー? ……な、なんじゃ!? 朝から面妖な格好をしおって!?」

 「……由緒ある鎧なのだが、おかしいだろうか?」

 「おかしいに決まっておろう! い、行くぞ、ミッチェル!」

 「あん!」

 全身を鎧で覆った男など現代日本で怪しくないわけがなく、おじいさんはポメラニアンと共に早足でその場を去っていく。

 「ああー!? 犬が行っちゃう! 待ってぇ、わんわん!」

 「お前も話に参加しろ……。む、体力づくりか? 走っている人がいる、聞いてみよう」

 「任せたわ!」

 マントを掴んでそんなことを言う、他力本願のフリージアをジト目で見てから無言でジョギングをするお姉さんに声をかけに行くジン。

 「すみません――」

 
 ◆ ◇ ◆


 15分後――


 キィ……キィ……


 「……誰も話を聞いてくれないわね……」

 「ああ……」

 公園には色々な人が散歩や通勤の経路として使ったりと、人通りは多かった。だが、ふたりが声をかけるとそそくさとその場を立ち去っていくのだ。
 いよいよ人通りも少なくなり、昨夜赴いた通りへ出る必要があるのだが、ふたりは完全に撃沈されブランコで項垂れている。

 「やっぱあんたの顔が怖いからじゃない?」

 「そう言われても顔を変えることはできないだろうが。 それを言うなら魔王、お前の服の露出も問題なんじゃないか?」

 「代々魔王家に伝わる正装にケチつけるわけ!? ……いいわ、異国の地、ここがあんたの墓場になるのよ!」

 そう叫んでジンへ手を翳し不敵に笑う。

 「おい、止めた方がいいんじゃないか?」

 「怖気づいた? <カースド・ブリザイン>!」

 ギィィィン!

 フリージアの手に魔力が集中し、周囲が冷気に包まれる。いくつもの氷の刃が出現し、

 「頭いたぁぁぁぁぁ!?」

 ブランコからフリージアが転げ落ちた。

 出現した氷の刃はごとりと音を立てて地面に落ちる。

 「……言わんこっちゃない。立てるか?」

 「ううう……痛ぃ……」

 ジンが手を差し伸べようとしたところで、

 ジャリ……

 と、砂を踏む音がして人は慌てて振り返る。そこには鍔のついた帽子と、青い服、腰には短めの武器だと思われるものを着た男が二人、笑顔で立っていた。

 (同じ服……兵士か?)

 同じ衣装に身を包み、規律を正しくする騎士を知っているジンは、胸中で瞬時にそう判断する。異世界と言えど兵士なら自分の話を聞いてくれるのでは? 向こうから来てくれたのなら好都合だと胸中で呟く。
 ジンが口を開こうとしたところで、向こうから声をかけてきた。

 「あー、君達かな? 公園に来る人に声をかけて驚かせているのは? 演劇の練習か何か? 僕達近くの交番勤務の者なんだけど、ちょっと来てもらえるかな? 変な男女がいるって通報があったんだよね」

 「派手な衣装だな、しかし……」

 もちろんこの二人は警察官。公園近くの交番に誰かが通報したのだ。はたから見れば出来のいいコスプレに見えなくもないが、早朝の公園には異質過ぎた。

 「それじゃ、行こうか」

 「よろしく頼む」

 もし敵性が認められた場合は逃げればいい、そう考えながらフリージアへ目を向けると――

 「凄いですねこの衣装! え、あれですか? 魔王ってやつですか?」

 「ふふん、見る目があるわねあんた! このフリージア様の部下にしてやってもよいぞ!」

 「わー! 雰囲気あるー!」

 見慣れない、少女といっても過言ではない女性と話していた。すると警官がフリージアへ尋ねる。

 「君、その子は友達かい?」

 「いいえ、部下よ! たった今決まったの!」

 自信満々にそういうフリージアに面食らう警官。次にもう一人の警官が少女へと声をかけた。

 「えっと、君は学生かな? 知り合いってことでいい?」

 「たった今知り合いました!」

 なんだか似ている、ジンはそう思ったが口には出さず見守っていると、少女がパンと手を叩いて口を開く。

 「あ、わたし一限の講義休むんでお話聞かせてください! 演劇、興味あるんですよ! 近くのファミレスで」

 「フフフ、お安い御用よ」

 少女がそういってフリージアの手を取って歩き出し、警官二人は顔を見合わせて困惑。すぐにジンへ向き直り声をかける。

 「……じゃあ、僕達は行くよ。被害が無かったからいいけど、不審なことはしないようにね?」

 「ははは、まあ朝っぱらから鎧なんか着てたら完全に不審者だからな! ん? そういえば剣か抜いてみてくれるか?」

 ジンは言われて鞘から剣を抜くと、刃が無い柄だけジンの手元にあった。

 「うんうん。きちんと刃はないな、それじゃ行くか。女の子、行っちゃったしな」

 「そうですね」

 二人の警官が去ろうとして、ジンは口を開く。

 「一緒に行ってもいいだろうか?」
 
 「ええ!? 君、彼女を追いかけなくていいの!?」

 「彼女じゃない。少し話を聞きたいんだ」

 「いや、それは可哀そうだろう……俺達はそこの交番にいるからいつでも来てくれていい。ほら、見えなくなるぞ」

 「しかし……」

 「なにがあったか知らないけど、こういう些細なことで『なんで付いてこなかったの!』とか怒り出すから行った方がいいって。聞きたいことはあそこで聞くからさ」

 公園からわずかに見える白い建物、交番を指さし笑いながら去って行った。あっさりと解放したが、朝っぱらから女連れという不審者はいないと判断した

 「……兵士では無かったのか? 訓練されているように見えたが……」

 まあ、異世界の情報は先ほどの少女に聞くかと踵を返し、小さくなっていくフリージアと少女を追いかけるジンであった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...