11 / 37
始まる同居生活
11. ワンルームへ
しおりを挟む「はあ……それにしてもやっと休めるのね……」
「いやあ、急がなくちゃって思ってたから一気にいろいろやり過ぎましたね……」
疲れて背が小さく見えるふたりの後ろに仁がついていく形で家路につく三人。美月はとりあえずまとまったお金が入るまで自宅で過ごしてもらおうと思っていたのだ。もちろん、ふたりの異世界話を聞きたいがために。
コンビニからさらに五分ほど歩くと、例の公園を今朝とは逆に通過する。そこで仁が昨日寝泊りしたドーム型の遊具に目をやる。
「(昨日、この世界に来てからどうなるかと思ったがミツキのおかげで助かった……。しかし、魔王め俺とずっと同行してくるとは一体どういうつもりだ? 早く金を稼いでこいつから離れるか。元の世界には俺だけ戻ればいい)」
仁が胸中でそんなことを考えていると、ふいにアサギが口を開き仁がどきりとする。
「美月ちゃんの家、楽しみね!」
「ふふ、少しの間ですけどよろしくお願いしますね! あ、ここです」
美月が立ち止まった建物は三階建てのアパート。それを見上げてアサギが興奮した様子で声をあげる。
「ほっほう! 大きいわね! やっぱり魔王の私にはこういうのがふさわしいわ!」
「そんなに立派じゃないけど、どうぞ!」
「わーい!」
玄関を開けた美月がどうぞとアサギを招き入れると、やっと休めると突撃する。
「あ、あ、靴は脱いでくださいー!?」
「あ、そうなの? ……よし、おいでませ! 新しい魔王の城! ……え……」
酔っているためおかしなテンションのアサギが靴を脱いで再度突入する。そして中の扉を開けた瞬間、アサギは立ち尽くした。
「どうしました? あ、ちょっと散らかってるかな? ごめんなさい!」
美月が後ろから声をかけるが、アサギは動かず、美月が首を傾げて肩に手を置くとアサギはその場にへたり込んだ
「ど、どうしたんです!?」
「せ、狭い……! 美月ちゃん、どうして!? 私のマイスイートルームは!?」
「え、ええっと……。マイスイートルームが何なのか分かりませんけど、私の部屋はここです……」
「……」
美月の部屋はいわゆる『ワンルーム』。
だが、広さは十畳とかなり広い方である。女性ゆえにユニットバスを嫌い、バストイレ別の物件をわざわざ選んでいたりする。
しかしお家賃5万5千円。近隣にはコンビニと、徒歩五分圏内にスーパーがある超得物件だ。ただし、駅から遠いのが難点となっており、立地条件の割には家賃が安いというわけだ。
「う、うう……どのお店もあんなに大きくて広かったのに……」
「いや、お店って家より広いものでは?」
美月の疑問に、仁が代わりに口を開く。
「向こうの店はそれほど大きくない。商品の仕入れが多い大商人なら別だが、雑貨屋や服屋なんかは全然小さい。……食べる方が大事だから服や雑貨はそこまで多種多様に用意をしないんだ」
「あー……村とか結構貧乏な設定ありますもんね……」
なるほど、と美月は納得してポンと手を打つ。事情がわかった美月はしゃがみこんで微笑みながらアサギへ言う。
「アサギさん、この日本ではこの広さが基本なんです。魔王城はデパートくらいあったかもしれないですけど、ここではこれで我慢するしかないんです」
「うええん! ペットのブラックドラゴンの小屋より狭い部屋なんて嫌ぁぁぁぁ!」
「う……」
ペット小屋より狭いと言われて軽くぐさりと来る美月。酔っているせいもあり、アサギの嗚咽は止まらない。
「どうせワンルームですよーだ……でもトイレは別だもん……」
美月がいじけてしまい部屋がカオスな空間へと変貌を遂げた。黙って見ていた仁が、おもむろにアサギの腕を掴んで玄関へと向かう。
「え? え? なに? どうしたの仁?」
ガチャ!
ポイ
バタン!
このみっつの擬音でだいたいの予想がつくと思われるが、仁がアサギを外に捨てたのだ。一瞬静かになるが、すぐにアサギが叫び出した。
「ちょ、ちょっと! 開けてよ! どうして外に出したのよ!?」
「うるさいからだ。せっかくミツキが休ませてくれると言っているのに我儘を言うからだ。公園にでも行って寝てろ」
冷たく言い放つ仁に、少し驚きながら美月が言う。
「あの、私は気にしてませんから……。さっきのヤンキーみたいなのがいるから危ないですし」
「いいんだ。あいつは魔王。元々俺とは敵対していたんだ、あいつがどうなろうと俺の知ったことじゃない。美月の顔を立てて黙っていたが、やはりあいつはここで排除すべきだ」
仁がそう言い、玄関の取っ手を掴んで開かないようにしていると、外で焦ったアサギがものすごい勢いでドアを叩き叫ぶ。
「ごめん! ごめんなさい! 私が悪かったから開けて! 公園は嫌よ、魔法も使えないのにあんな暗いところで怖くて寝られるわけないじゃない!」
「……ミツキに迷惑がかかる」
「な、なによぅ……こんな異世界でひとりきりなんて嫌ぁ……」
だんだん声も叩く音も弱々しくなっていくのがわかり、美月が困ったような寂しいような顔をして、取っ手を持つ仁の手にやんわりと触れ、開けるように促す。
「ダメですよ? 異世界からたったふたりで来た仲じゃないですか、協力しましょう?」
「しかしこいつは魔王……」
「しかしもかかしもありません! ここは私の家です! 家主の決定に従ってください!」
今日一日、ずっと見てきた美月とは違い、ハッキリと怒りの感情を露わにして仁に詰め寄った。仁は思わず身体を横にずらした。
ガチャ……
「うあああああん! 美月ちゃんごべんばざぁぁい!」
瞬間、涙目で美月に抱き着くアサギ。それをきちんとキャッチして、微笑んでいた。
「ふふ、もう遅いですし近所迷惑にもなりますからね? それじゃ中へ入ってください!」
「……ああ」
仁は目を細め、泣くアサギを目で追いながら奥の部屋へと戻って行く。全員が中へ入ると、美月がコンビニの袋から買ったものを出して説明を始める。
「お風呂をためている間に歯を磨きましょうか。仁さんたちは歯磨きの習慣ってありましたか? あ、アサギさん、寝ないでください!」
「んー……歯磨きはあったわよ。馬の毛とか豚の毛をつか……ふああ……」
「アサギの言う通りだが、貴族くらいしか使っていなかったな。俺は木の枝の細い部分を使って磨いていた」
「そうなんですね。えっとこれを――」
と、美月は歯磨きを実演し、アサギが寝ぼけ眼で口に含んだミント味の歯磨き粉に目を覚まし、シャンプーに仁がほんのり感動し、ふわふわのバスタオルでアサギがノックアウトされた。
「ふう……今日は疲れましたねって早っ!」
「すぴー」
「一瞬で寝たぞ」
ソファに座っていた仁が、パジャマに着替えて髪を拭いている美月に声をかけた。アサギはベッドを占拠しすでに寝入っていた。
「公園の寝泊りから、勉強、お仕事でしたから仕方ないですよ」
「……すまない、本当に助かった」
「いいえ、私も楽しかったですし。明日は大学があるから一緒にはいられませんけど、居酒屋の場所は大丈夫ですか?」
「問題ない。しかしどうしてここまでしてくれるんだ?」
「それは――」
と、顔を伏せて言葉を探すように一旦会話が途切れる。しばらく俯いていたが、すぐに笑顔で顔をあげてから仁へ言う。
「ま、女の子にはいろいろあるんですよ♪ あ、仁さんはロフト……そこのはしごを登ったところに毛布を置いているのでそこで休んでもらっていいですか? 私とアサギさんでベッドを使って、仁さんにはソファを使ってもらおうと思ったんですけど……」
美月がベッドで大の字になっているアサギに苦笑しながら目を向けると、仁も腕を組んでため息を吐く。
「重ね重ねすまない……」
「いえいえ。それじゃ明日は早いので私もおやすみなさい!」
「ああ、お休み」
仁が梯子を上ると、三畳ほどのロフトに、美月の言う毛布が置いてあった。天井が低いので這うように毛布まで辿り着くと、カバンから自前の毛布を取り出し、それを枕にしてごろりと寝転がり目を瞑る。
「(……平和な世界だ。俺達はどうしてこの世界へきたんだ……? 魔王の仕業ではなさそうだが、あれが演技ではないと決まったわけじゃない。油断はしないようにしよう)」
そういえばから揚げはうまかったなと何となく思い出しながらゆっくりと意識が落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる