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異世界での生活
14. アサギと美月
しおりを挟む「んー……」
「あ、起きましたね。もう仁さんはお仕事へ行っちゃいましたよ?」
「おはようー……。起きて美月ちゃんがいるのにもだいぶ慣れたわね」
ソファから起き出してきたアサギに、朝食を用意しながら美月が言う。
「ふふ、最初のころは『リーヨウ、朝はいらないー』とか言ってましたもんね」
「それを言わないで! ……で、今日も大学?」
話を逸らそうとアサギはコーヒーを飲みながら美月へ返す。トーストにバターを塗りながら美月は口を開く。
「そうですね。今日は二限からだけど、行きますよ。夜はバイトですし」
「……私も行っていい?」
肘をついた手を顔の前で組み、急にそんなことを言いだすアサギ。びっくりして目を丸くする美月に、アサギは話を続ける。
「昨日もそうだったけど、私なんか仁に睨まれているのよね。これは多分私がお金を稼いでいないのが原因だと思うの。でも、ほら、私って人見知りだからあんまり人前に出るのが苦手じゃない?」
「あー。月菜や店長、石垣さんに常連さん相手にはだいぶ打ち解けてきましたけど、新規の人にはめっきりですもんね」
石垣、というのは居酒屋に初出勤した時、急に休んだという男である。それはともかく、居酒屋という狭い空間の中がギリギリで、しかも美月や仁がいて何とかなっている節もあるため、仁のようにひとりで他の仕事をするというのはなかなか難しいのだ。
一緒に暮らし始めてそろそろ一か月。朝の余裕がある美月は仁も居ないこともあり、アサギに尋ねてみることにした。
「魔王だったのに、どうしてそんなに人見知りなんですか? 仁さんは最初に会った時から問題無さそうでしたけど」
「んー。逆ね、魔王だからよ」
「?」
わからない、という感じで美月は首を傾げる。
「お父様……先代魔王が私を溺愛していてね、魔王の家系って女の子が生まれることは少ないらしくてさ。千年ぶりだかに私が産まれてそりゃもう可愛がられたわ」
「いいじゃないですか、優しいご両親だったんですね!」
「でも可愛がられすぎて、外に出されることは無かったわ。で、お父様が魔界に帰ってようやく一人立ちしたの。だから……怖いのよ。将軍は子供のころから知ってるし、魔物は意思があまりない奴の方が多いしね」
ふう、とため息を吐いたアサギに、少し寂しそうな顔で美月は口を開く。
「……でも、いいじゃありませんか。溺愛でも、ちゃんと見てくれるご両親で」
何とも言えない表情をしていた美月に違和感を覚えたアサギは覗き込むようにして顔を見る。
「美月ちゃん?」
「あ! す、すみません変なことを言って! で、でも、それだけ愛されていて、よくひとり立ちを許してもらえましたね?」
「一応、地上に滞在するためには世代交代みたいなのがあるのよ。お父様の子供は私一人だから、私を置いて魔界に帰ったってだけね」
「面白いですね、異世界かあ、行ってみたいな……」
「帰る方法がわかったらぜひ来てほしいわね! 命の恩人の美月ちゃんなら歓迎するわ!」
「あはは……そんな大げさではないですけど。それじゃ、そろそろ出ましょうか。でも大学、人が多いし大丈夫かなあ」
「大丈夫よ、美月ちゃんもいるし、お店にも慣れて来たからね!」
そう言ってサムズアップをする魔王に苦笑しながら、食器を片づけ出発の準備をする。美月は学生らしいカジュアルな服でスカートを。アサギは以前買ってもらった服しか無いのでそれを着る。ただし、Tシャツだけは何故か新しいものを買っており、今日のTシャツには『正義』と書かれていた。
――向かう先は美月の通う大学。
場所は彼女達の住む弥生町駅の反対側に位置する場所にある。仁の働く喫茶店はワンルームマンション側で、大学は駅の向こう側なのだ。
ふたりは通勤・通学時間を外れ、人通りが少なくなった道をゆっくりと歩いていく。やがて駅を抜け、アサギ達は目的の大学へと辿り着く。
「着きましたよ! ……あれ? アサギさん?」
「あうう……ひ、人がめちゃくちゃいるじゃない!? お店より人が多くない?」
電柱の陰で涙目になりながらアサギが叫んでいた。しかし美月は強引に引っ張り、大学へと向かう。
「い・き・ま・す・よ! ここまで来て遅刻なんて嫌ですもん!」
「あ、あ、あ!? ごめん、まだ……まだ心の準備がぁぁぁぁ!」
そのまま引きずられるように構内へ入っていくふたり。しかし講義は受けられないので、アサギは大学内にあるカフェへと置き去りにされた。
「うう……一緒にいれると思ったらそうじゃなかったなんて……だったら来なかったのに……」
なけなしのお金でコーヒーを買い、1時間ほどしてから戻るという言葉を信じてテラスでぼーっとする。どこからかボールを打つ音が聞こえていたり、楽しそうにベンチで喋っている女性とや、スケッチをしている男性などを見ながら頬杖をついてアサギは口を尖らせて呟く。
「平和ねえ……」
魔王は地上の安寧に一役買っている種族で、各国の国王とは本来懇意にし、お互いが協力する間柄なのだ。
しかし、アサギ……フリージアのいた国では国王から救援も相談もなく、何故か刺客を送り込んでくる始末。
本来であればどういうことかと尋ねに行くべきなのだが、人見知りが災いしてそれが出来なかったのだ。悪いことに、送られてくる刺客も大した強さを持たないので、アサギ的には『勝手にすれば? 助けてって言っても助けたやらないけどね?』という暗黙の抗議でもあった。
「みんなどうしてるかなあ。ヤアナあたりは私がいなくなって喜んでいそうだけど」
椅子を傾けて空を見上げながらそんなことを口にする。正直なところ、両親のことは心配だが、この世界はこの世界で住みやすいと感じており、アサギは満更でもなかった。
「……とりあえず当面は仁のこと、か」
確かに幾度も交戦し、仁を何度も叩きのめしていた。だけど、昨日の様子を見る限り自分に相当な恨みがある感じだった。所持金を半分いただいて、近くの町へきちんと返していたんだけどな、と顔をしかめる。
「あいつ、あの時のことも覚えてないんだろうなあ」
「んだぁこらぁ! もう一回言ってみやがれ!」
そう言って苦笑した瞬間、遠くから怒声が聞こえてきてアサギはビクッと身体をこわばらせる。なにごとかとそっちへ行こうとしたが、ちょうど戻ってきた美月に声をかけられて足を止める。
「お待たせしましたー!」
「待ってたわ!」
「とりあえず大丈夫でした?」
「……ま、まあね。そこのおばちゃんと話していたわ!」
「進歩ですねー。今日は夕方まで講義があるんですけど、どうします? 時間が空いてたり空いてなかったりするんですけど」
「うーん……帰ろうかしら……」
「まあ、ひとりじゃやることも無いですしねえ……」
「とりあえず、適当にぶらついてから帰るわ。夜はバイトだし、帰って寝るわ……」
「……ちゃんと起きてくださいよ?」
「あ、あはは、だ、大丈夫よ! この魔王たる私が寝坊なんてそんな……」
ジト目の美月を尻目に、弁解をするアサギ。そして、次の講義が始まると美月はその場を後にし、アサギは大学内を歩き始めた。
「……どきどき……」
冷や汗をかきながら――
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