19 / 37
異世界での生活
19. 仁とアサギのお出かけ
しおりを挟む美月が敦司にとんでもないこと……いや、友達になりたいというだけだからそうでもないことを言っているそのころ、仁とアサギはショッピングへ出かけていた。
「あんまり人が居ないわねー」
「昼間ぐうたらしているお前にはわからんだろうが、基本的に昼間は働いている人が多いんだ」
「そんないい方しなくてもいいじゃないー。あ、これいいわね」
相変わらず冷たい物言いをする仁には気にも留めず、アサギはウィンドウショッピングをする。お金は美月が貸してくれたので少しくらいなら無駄遣いができると喜んでいた。
「チッ……」
「ほらほら、これとかあんたに似合うんじゃない?」
面倒くさいとばかりに舌打ちをする仁に、アサギは手に持っていたサングラスをひょいっとかける。強面の仁がかけると、敦司と同じくらい近寄りがたい存在となる。
「ぷぷ……。怖っ! あははは! 超怖いんですけど」
「……こいつ……!」
仁がぷるぷると震えていると、あちこちからくすくすと笑い声が聞こえてきた。仁はすぐにサングラスを戻し、アサギの手を引いて歩き出す。
「あん! そんなに急がなくてもTシャツは逃げないわよ。向こうの世界に帰ったら、Tシャツを作って売るのも面白いかも!」
「そんな心配はしていない。さっさと用事を終わらせて帰りたいだけだ」
仁はぶっきらぼうに言い放つが、言葉の中に気になるものがあったので、立ち止まってからアサギの顔をじっと見て呟く。
「……お前、帰れるつもりでいるのか?」
「え? そうだけど? 私達の故郷なんだし、いつかは帰りたいわ。あんただってそうでしょ?」
「……」
仁は意外だと胸中で思う。それくらいこの世界に馴染みつつあるアサギは、このままこの世界で暮らしていくつもりだろうと思っていたからだ。さらに仁へ追い打ちをかける言葉が放たれる。
「私とあんたの戦いで変な穴が開いたんだから、同じ状況を作ればまた開くかもしれないじゃない? 魔法を使うと頭が痛くなるから嫌だけどさ」
「……!?」
ここで初めて動揺を見せる仁。
具体的な帰還方法をきちんと考えていたアサギに対し、自分はなんの具体策も考えていなかったのだと気づかされたのだ。
しかし、そんな考えを魔王に感づかれるのは恥ずかしいと、目を背けてからアサギへ言う。
「……そうだな。俺もそう思っていた」
「やっぱりー? だからあんたとは、は、は、離れたくないのよ!」
(なるほど、打算があってのことか)
顔を真っ赤にして興奮しているところを見ると、やはり魔王は油断できないなと思う仁。そんな会話をしながら、目的地へ到着する。
「いつもと違う店……?」
「うん。デパートっていうらしいわよ? ここなら色々あるから退屈はしないって美月ちゃんが言ってたわ!」
美月が言うならそうなのだろうとデパートを見上げる仁。そこには店の名前であろう『アルト』という文字がでかでかと書かれていた。
このデパートは弥生町でも一、二を争う大きなお店で全国展開もしているため知名度も高い。なので待ち合わせに使われることも多く『アルト前』と言えばだいたい通じるくらい有名なお店である。
そんな巨大な店に人が多くないわけはなく、入って一分ほど経ったところでアサギは仁の後ろについて袖を掴んでいた。
「歩きにくい……離れろ」
「嫌よ! 男の人が多いんだもん!」
「だもんはないだろう魔王……。そういえば、女性は平気なのか?」
美月とは公園ですぐ打ち解けていたことを思い出し聞いてみると、アサギはこくりと頷き答える。
「そりゃあ同姓は当たり前でしょ。ほら、最初の夜にあったおっさんとか怖いわ……」
「しかし、敦司とは意気投合していたじゃないか?」
「あれは助けてくれたからね。あんたとおな――い、いや、なんでもないわ!」
あっぶな、と小さく呟くのが聞こえたが、仁には聞こえずそのままデパート内を散策するふたり。目当ての洋服売り場を発見すると目当ての『鉄槌』Tシャツを購入し、同時にその場にあった『無頼』というTシャツも購入。ホクホク顔で洋服屋を出るアサギ。
「用事も終わったし帰るか」
「えー!? この中上の階もあるし面白そうじゃない! まだ時間もあるし、いいでしょ?」
「……はあ」
「露骨なため息!?」
仁は面倒だと思いつつも、アサギの弱点を探るチャンスでもあるかと考え直し行動を共にすること決める。アサギが手を引きあちらこちらへとウロウロしていると、デパート内でよくあるタイプのゲームセンターを発見した。
「おー、なんかガチャガチャうるさいところー!」
「まったくだな。ここはなんだ……?」
「おおお!」
辺りを見渡していたアサギが急に走り出し、とあるUFOキャッチャーの前に釘付けになった。中にはアサギの上半身くらいの大きさをした熊のぬいぐるみが入っていた。片目に傷を模した縫い目があり、目も凶悪で正直あまり可愛くはない。
「こ、これ欲しいー!」
「ガラスの箱に入っているとなると貴重な品なんじゃないか?」
「高いかな……?」
「聞いてみればいいだろう」
「……男しかいない……」
仁は仕方ないなと、近くにいた店員へと声をかける。
「すまない、この中にある品はいくらだろうか?」
「え? えっと、UFOキャッチャーをご存じでは、ない?」
「ゆうふぉおきゃっちゃあ?」
仁の間延びした言い方とは裏腹に顔は怖かった。店員は冷や汗をかきながら、UFOキャッチャーの話を仁にする。
「――という訳なんですよ。それではごゆっくりどうぞ」
「なるほど。だ、そうだ」
「わかったわ! 早速100円、イン!」
チャリン、と小気味良い音と共にプレイ回数が『1』と表示され、教えてもらった通りに矢印のついたボタンを操作するアサギ。
――そして
「ぜんぜん取れないよぅ……」
1000円ほど使ったところでめそめそと泣き始める。しかしそれも無理はない。UFOキャッチャーというのはお店にもよるが『設定』というものがあるからだ。
ある程度の金額が入らなければアームの力が強くならない、というのが通説である。もちろんそういう設定をしないお店もあるのだが、最初にいくらかつぎ込んで見極めるのが鉄則である。アサギのようにむやみに突撃してはいけないのだ。
(1000円あれば牛のこま切れ肉とみそ汁が作れる)
仁がそんなことを考えていると、アサギが仁に泣きついてくる。
「お前、ミツキから借りたお金を大事に使わないでどうする? これはこういうものだ。見ていると、他にも取れなくて悔しがっている人もいるから、これはこういうものなんだろう。諦めろ」
「ううう……あれ欲しいのに……」
この不細工な熊のぬいぐるみの何がこいつをそうさせるのか? しかし口ではああいったものの、仁もUFOキャッチャーに興味はあった。それに帰った時、美月に告げ口されたら何を言われるかわからないと、仁はため息を吐きながら呟いた。
「……一回だけだからな」
「! いけー勇者!」
仁の戦いが始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる