22 / 37
帰還のために
22. 進捗
しおりを挟む「ただいまー……」
「あ、おかえりなさい! クーラー入ってますよ」
「ありがとうー……。それにしてもニホンってこんなに暑くなるの? ファイヤードラゴンの巣がある火山みたいな暑さよこれ?」
「あ、あはは……」
火山はわかるけど、ファイヤードラゴンの巣はきっともっと暑いんだろうなと思いながら麦茶を用意する美月。
仁とアサギが日本へ来てからすでに四か月が経ち、生活にも慣れてきたころ、梅雨からの夏というダブルショックに見舞われ、
「し、死ぬ……」
季節の変化が乏しいエレフセリア出身の仁とアサギはその変化に対応しきれていなかった。仕事は安定し、貯金もわずかだができるようになってきたが、一難去ってまた一難というところである。
しかし、わずかながら分かったことも有る。
「きゃー!? 仁さん!? 冷やしてアサギさん!」
「あいよ! <フリーズ>!」
ヒュォォォ……
「おお……」
「はあ……はあ……」
「……助かった。後はクーラーで涼めば平気だろう」
「だいぶ長持ちするようになりましたね、魔法!」
「まあね! これも慣れよ! げふ……」
そう、魔法が少しずつ使えるようになってきたのだ。
あの日、アサギの言うとおりぶつかり合った力が空間に穴を開けたのなら、同じ現象を出せばいいのでは理論をやってみるため、できるだけ魔法を使って生活をするようになった。
結果、今のように氷魔法を使っても、少し頭痛がするだけでのたうち回るほどではなくなってきた。
「フリーズか……結構使えるようになってきたな」
「まあねー! なんて言うんだろ……使うと馴染んでいく感じ? 魔力がこの世界に合って無いのを合わせようとしているって感じなのよね。だから使えばそのずれが補正されていくみたいな」
「なるほどな……」
仁も聖剣を握り魔力を込めると、果物ナイフくらいの魔力剣が出現する。仁の額には脂汗が滲んでいるが、以前ライトを使った時のように転げまわることは無かった。
「……ふう」
「お疲れ様ー」
美月に麦茶を貰い一気に飲み干す。それを横目に、アサギは頬杖をつき、指先に小さな火を出しながら呟く。
「恐らく魔力の総量が下がってるんでしょうね。この世界に来た頃は考える余裕も、魔法を使うような必要もなかったから気にしていなかったけど、こうやって小さい魔法を使うと、魔力が枯渇するような倦怠感があるもの」
「そうなんですね。おかわりは?」
「もらおう」
にこっとほほ笑みながら麦茶を注ぐ美月が魔法について考えるように口を挟む。
「でも、あまりパーッと使えないのも困りますね。もっと広い場所とかで使ったら魔力の総量があがるとか?」
「有り得なくはないわね。でも、この辺りは……」
「……あの公園くらいしか広場が無い。後は、ミツキの大学か」
「あはは。大学は人目に付きやすいからダメかなあ。うーん……」
「ま、気長にいきましょ♪」
能天気なアサギがそう言ってごろりとソファへ寝転がりテレビを見はじめ、ゆっくりとした時間が流れた。
そんな昼下がりを経て、居酒屋へ仕事に行く仁。
「暇やなぁ……」
「木曜日はこんなものじゃないか?」
「まあなあ」
「たまにはこういう日もいいんじゃないですか?」
本日、木曜日は大変暇だった。スタッフは仁と月菜、そして礼二だけであるが、これでも余るくらい人が来ないため駄弁る時間があったりする。
「月菜ちゃんはもう夏休みなんやろ? どっか遊びにいったりせえへんの?」
「うーん、わたしは就職活動は終わっているんですけど、友達はまだ内定が決まってないんですよねー。だから冬まで遊びはお預けだと思いますよ」
「就職活動……。ミツキが言っていたが、相当苦しいものらしいな? ギルドの試験よりもつらく険しいものだと聞いた」
「え? い、いや、ギルドの試験が何か知りませんけど、きちんと通っていれば受かると思いますよ?」
「そうなのか? ミツキによると試験に落ちると奴隷のような仕事しかできなくなると聞いたが……。ブラックとか言っていたか」
「そんなことはありません! もう、美月ちゃん何を教えているんだろ……」
月菜が困惑顔で呟くと、腕組みをして考えていた礼二が不意に口を開く。
「せや! 店のみんなで海にいかへん? 8月に入ったばかりやし、海水浴日和やろ! 車はワゴン出すからみんな乗れるで!」
「海水浴?」
「あ、いいですね。店長とわたし、美月ちゃんとアサギさん、仁さんに古谷君と赤峰さんですね」
「せやな。仁君、帰ったらふたりに言うてくれんか? 月曜日に海水浴や!」
「よくわからんが、分かった」
毎週月曜日は定休日なので、礼二はその日を提案したのだ。結局その日は客足は伸びず、礼二はトホホ顔で閉店すると『頼んだで!』と仁に声かけていた。
「戻ったぞ」
「おふぁえりー」
早足で仁は家へ戻ると『仁義』と書かれたTシャツを着てソファで寝転がっているアサギが片手を上げて出迎えてくる。
「また薄切りのじゃがいもを食べているのか」
「ポテチね。美月ちゃんがお風呂入っているから、ごはんはもう少し待ちなさいよ」
「ああ」
ぶっきらぼうに答えて仁は適当に座ると、しばらくして美月が風呂から出てくる。
「あ、おかえりなさい仁さん!」
「ただいま。今日、礼二からふたりに次の月曜日に海水浴へ行かないか、と言われたんだが、どうする?」
すると、美月が笑顔でポンと手を叩きながら言う。
「海! いいですね! 私、最近海とかプールに行ってないから楽しみです! もちろん行きます!」
「私も行ったことがないから気になる! 仁も無いわよね?」
「そうだな、俺達の国は内陸だったから湖くらいしかなかったし、気にはなる。では、礼二にはそう言っておこう」
「あ、私とアサギさんがシフトだから伝えておきますよ? ……そうだ! 先輩も連れて行こう! 古谷君と赤嶺さんがいるから男性同士友達になれるかも」
いそいそとスマホを片手に敦司へとメッセージを打っていた。その直後、着信音が鳴り響く。
「あ、先輩! そう、そうです……はい、多分大丈夫――え? いいじゃないですか、行きましょうよう」
甘えた声を出す美月に、電話の向こうで敦司が焦っている様子が目に浮かぶようだと仁は少し羨ましく思いながら見ていた。
「……魔性の女ね、美月ちゃん……幹部に相応しい……」
「なんだそれは」
ごくりと唾を飲み込むアサギに首を傾げつつ、仁は風呂へ向かう。電話を終えた美月は上機嫌でアサギの手を掴んで言う。
「明日はお昼からデパートへ行きますよ!」
「ふえ?」
「水着、買わないと!」
図らずも明日の予定が決まる一行であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる