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もうひとつのワンルーム
最終回 勇者と魔王のワンルーム!
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仁とアサギが異世界に来てすでに三年が経過していた。
あのクリスマスの日以降、大学の退学届けは取り下げられ美月はきちんと大学を卒業でき、今では立派に企業に勤める社会人。
礼二の居酒屋は月菜が辞め、卒業と同時に美月が辞め、追うように仁も辞めた。古谷と赤嶺も卒業し、今ではアサギだけが当時のメンバーとなってしまった。他は新しいメンバーだが、意外と上手くいっているそうだ。
他にも色々変わったことがあるのだが――
「帰ったぜー」
「あ、おかえりなさい! ご飯の前にお風呂に入ってくださいね」
「おう、助かるぜ。お前も仕事で疲れているだろうによ」
「うふふ、敦司さんの方が大変ですからねー。おじいちゃん、どうですか?」
「厳しい人だぜありゃあ……。でも、確かにあのグループを作るだけのことはある。しっかりしてんぜ? こき使われる方は大変だがよ。ったく、お前と結婚するためとはいえとんでもないことになっちまったぜ……」
「お前、じゃなくて美月ですよ敦司さん! でもまさか敦司さんが昔は天才少年と呼ばれていたのは驚きましたよ」
「……隠すつもりも無かったが、自分から言うことでもねぇしな。両親は優しかったけどよ、俺はどうしても道具として使われている感がぬぐえなくて、金髪にしたり……。まあ、ガキだったんだろう。俺を見て欲しかったんだ、多分な」
仕方が無かった、それだけだと敦司はスーツを脱ぎながら呟く。敦司は美月と付き合い、同棲していた。もちろん、あのワンルームで。仁とアサギはあのクリスマスの日からすぐに美月の部屋を出て行った。
「でも、その才能をおじいちゃんが知っていたのは意外でした。それに大学の成績は普通だって言ってましたよね?」
「本気を出すと目立っちまうから適当にしてたんだよ。高校のころはそれでハブられたりしたからな。で、俺の能力を知っていたカラクリは……五条だ。あいつが俺のことを知っていて、それで俺に目を付けたと会長が言っていたぜ。何で俺と美月の交際を認めたのかと思ったけど、そういう魂胆があったわけだ。ま、俺もお前の押しに負けちまったわけだけどよ……。というかどうして俺なんだ……? 正直な話、五条も真面目だし、相手としては絶好だと思うんだがよ」
「んふふー♪ 私はあの助けてくれた日からずっとこうなるだろうなって思ってましたよ、先輩!」
「お、懐かしいなそれ」
久しぶりに先輩と呼ばれてくすぐったくなり、赤い顔をして鼻の頭を掻く敦司。美月はにっこりと微笑み、目を細めてから言う。
「五条さんはいい人ですけど、やっぱり一緒に遊んだりしていた敦司さんが良かったんですよ。乱暴な物言いだけど、とっても優しい私の彼氏さんです!」
真っすぐにそう言われ、言葉を詰まらせる敦司が焦りながら口を開く。
「そ、そうか! お、俺も……お前が彼女で良かったぜ? ……ふ、風呂に入ってくる!」
「いってらっしゃい!」
着替えを持って風呂へ行く敦司の背中を見送りながら、美月が呟く。
「ふふ、実は敦司さんのことを助けられる前から知っていたって聞いたらどんな顔をするかな? ……でも、もし、あの時、あの公園でアサギさんと仁さんに会わなかったら、きっともっと早くおじいちゃんに連れ戻されていたかもしれません。運命だ、なんて言葉は陳腐かもしれないですけど、多分あなたとこうなるのは運命だったのかもしれませんね」
そう言って鼻歌を歌いながら美月は料理へと戻る。
あの日、美月は勇者と魔王と会った。それは些細な偶然だったが、本来は有り得なかった道へ足を踏み入れ幸せになれたのだ。もし、あの二人に会わなければ今頃、会長の重道によって物言わぬ人形になっていたか、ややもすると死んでいたかもしれない。
だが、敦司は美月の婚約者として二階堂グループのIT開発部門で天才と言われた頭脳を使い
そして、その運命を変えた勇者と魔王はというと――
◆ ◇ ◆
「メリークリスマス!」
「……はしゃぐな」
「いいじゃん! 今日は恋人同士のための日なんだから」
そう言って口を尖らすアサギにフッと笑いながらシャンパンのグラスをチン、と鳴らす。一口、グラスに口を付けた後にアサギが口を開く。
「まさか仁が二階堂グループのボディーガードになるとは思わなかったわね。店長が『たまには遊びに来いって言うとけや!』って言ってたわよ」
「そうだな。佐々木さんの喫茶店にも最近行ってないし、今度の休みは両方行ってみるか」
「うんうん! さあて、腕によりをかけたからどんどん食べてね!」
「ああ、から揚げも上手くなったな」
――結局、アサギの魔力は回復したがエレフセリアへ戻る選択肢は捨て、この日本で暮らすことに決めた勇者と魔王。
仁は二階堂グループのSPとして雇われ、立派に働いていた。勇者としての力をいかんなく発揮できるこの職業は天職とも言え、敦司を弟子にしたがっていた男と共に会長の直属となり幾度かの危機を救っていた。
アサギは礼二の居酒屋でまだ働いている。が、今は週二回くらいのシフトだったりする。何故かと言うと、今ふたりが住んでいるワンルームマンションは美月の父親の遺産の一つで、アサギが大家を頼まれたからである。
美月と敦司もこのマンションに住んでおり、アサギを尋ねに美月が遊びに来る。
美月が最初にアサギ達を助けられたのは他ならぬお金があったから。そして、孤独だった美月に『友達』ができると思い助けたのだ。
アサギ達は美月に助けられたが、美月もまた、アサギ達に助けられたというわけである。
「平和ねー」
「そうだな」
ケーキをつつきながらアサギが微笑むと、仁がイチゴを食べながら返す。
「……勇者として私の前に現れた時、すぐわかったのよ? あ、あの時の男の子ってさ。でもあんたは全然気づかなくてショックだったなあ」
「すまん……」
「いいって。結局こうして一緒にいられるわけだしね! でも、みんなどうしているかなあ」
「将軍たちか? あいつらは強かった。勇者の俺が最初はまったく歯が立たなかったくらいだし、国王の手は及ぶまい。新しい勇者が見つかれば話は変わるだろうが……」
「それもあるんだけど、多分お父様が地上に出るから行方不明の私を探すよう言いつけるかも?」
アサギは意地悪く、ひひひと笑い、将軍がどういう目にあっているか想像に難くなかった。それに対し仁は、
「もはやそれを確認することもできない。向こうは向こうで上手くやってくれることを祈ろう。……国王には手痛い返しをお願いしたいところだが」
「あははは! 仁も言うわね! さて、それじゃ……う!?」
「どうした!?」
笑い転げていたアサギが急に、苦しみだしダッシュでトイレへと向かい、仁も慌ててそれを追う。
「うげ……げぇぇ……」
「お、おい、大丈夫なのか……?」
先ほど食べた料理を吐き出すアサギの背中をさすりながら心配の声をかける。少ししてからアサギが口をすすぎ、仁の方を向いてほほ笑む。
「えっとね……できちゃった、かも」
「できた?」
その言葉に首を傾げつつ、身体は大丈夫そうだと安堵の息を吐く仁。そしてできたという意味を反芻し、やがて結論に辿り着いた。
「……本当か!?」
「うん! 明日病院へ行ってみるけど、間違いないと思うわ!」
◆ ◇ ◆
「わー! 可愛い赤ちゃんです!」
「しんどかったわ……美月ちゃんも覚悟しておいた方がいいわよ……」
クリスマスの日からしばらくし、アサギは元気な赤ちゃんを出産した。げっそりして疲れた顔に美月は笑い、隣で寝ている赤ちゃんに目を細める。
「俺の子か……」
「泣くなよ仁さん。これから育てるのが大変だぜ? っつっても今の給料なら余裕か」
敦司の言葉にアサギが得意気に口を開く。
「私も稼いでいるから余裕よ! この子はきちんと学校に行かせるの。まあ子供の自由は奪わない程度にね。あ、でも私のTシャツコレクションは受け継いでほしいかも」
自分が特殊な魔法を持っていたせいで、溺愛されたが独りになってしまったことを憂い、友達をいっぱい作って欲しいとアサギは語る。
「Tシャツは本人の意思次第だと思うぜ……。それにしても、勇者と魔王の子だから何か能力を持ってそうだよな」
「やめてくれ敦司。普通の子でいい……」
「あはは! 仁さんももうお父さんって感じですね! でも大丈夫ですよ。おふたりなら良い子に育ちます、きっと!」
美月の根拠のない言葉。だが、自分たちを助けてくれた人物の言葉。仁とアサギは苦笑しながら頷いた。その後、礼二や月菜、会長の重道などが出産祝いにやってきては、騒がしいくらいねぎらってくれた。
そして――
「ふふふ、よく寝てる。可愛い♪」
退院したアサギが、ベビーベッドに寝ている子を見ながら満面の笑みで言う。そこに仁がアサギの肩に手を置き、我が子を見ながら呟く。
「しかし、こうなるとワンルームも手狭になってくるな。大家用の部屋は広いらしい。ミツキがそっちへ移らないかと言っていたぞ」
「うーん、まだいいかな? ……なんだかんだ言って、美月ちゃんと一緒に住んでいたワンルームと同じ間取りの部屋に愛着あるしね。この子がもう少し大きくなったら考えましょ?」
「お前がいいなら、俺は構わん」
「うん。……ね、私いまとても幸せよ……」
アサギが目を瞑り、立ったまま仁の肩に頭を寄せてそんなことを言う。
「……俺もだ。誤解したままだったらこうはならなかっただろう。ロクでもない人生だったが、ここにきて奇跡というものを信じてもいい気になったよ」
「ふふ、堅物な勇者も丸くなったものね。さ、それじゃ退院祝いに、少し飲みましょ♪」
「そうだな」
そう言って、ふたりはテーブルで乾杯をし、いつまでも笑い合っていた。
――ひょんなことから異世界へ身を投じたふたりの物語はここで幕を閉じる。
ほんの少しでも何かがずれていれば訪れなかった生活。
仁とアサギ、そして美月と敦司はこれからずっと、小さな諍いと大きな幸せを繰り返しながら生きていくのだろう。
異世界から来た勇者と魔王が住んでいたワンルームの話は、ずっと語り継がれるのだ――
~Fin~
「もうすぐ一歳か、時が経つのは早いわねー」
「ミツキと敦司も結婚するし、あっという間だな」
2DKの部屋へ引っ越し、ひと部屋を子の部屋にしていた。ふたりはすやすやと眠る子の部屋を閉めてリビングへと戻る。
「あ、そうだ。結婚式に出るための服を買わないと! 今度行かない?」
「そうだな。子供用品ももっと欲しいし……」
「あんた、私より子煩悩よね……ま、旦那が育児に協力してくれるのは凄いって、最近は居酒屋で働き出した村上さんも言ってたから、感謝してる♪」
「そりゃ俺達の子だしとうぜ――」
ゴッ!
仁が言い終わる前に、部屋が大きく揺れふたりは中腰で立ち上がる。地震か? そう思った仁がアサギの姿を見て目を大きく見開いていた。
「アサギ! お前、その角は……!?」
「え!? あ!? 魔王の角……それに、この空気……濃い魔力の塊……」
「!? 隣の部屋か!」
ふたりは慌てて子供部屋へ入るとそこには――
「召喚の魔法陣だと!?」
「いけない! このままじゃ! ……きゃあ!?」
アサギがベビーベッドに手を伸ばすが、魔法陣の光に弾かれ尻もちをつく。ただごとではないと仁は聖剣を振り光を切り裂こうと振った。
ビキィン……!
「裂け目ができた! 今助ける……!」
仁は手を伸ばすが、魔法陣の中にあるものすごい圧力に腕が潰されそうになっていた。脂汗をかきながら子を引き寄せようとするも、その姿が薄くなっていく。
「……だ、ダメか!? クソ、一体なにが起きているんだ! お、俺の力をこの子に! う、うおおおおお!?」
「仁!? 無理しないで!」
アサギが叫んだ直後、仁は糸が切れたようにその場に崩れ、ふたりの子は光の中へ消えて行った――
「う、うそ……そんな……仁! 仁! 起きて!」
To be continued……
『魔王の娘をウチへ連れて帰ったら家を叩きだされたので、一緒に暮らすことにします』
◆ ◇ ◆
【あとがき劇場】
はい、作者の八神です!
ここまでお付き合いいただきまして本当にありがとうございました!
勇者と魔王の恋愛模様、いかがだったでしょうか?
今回のこのワンルーム、書籍一冊分の文字数できっちり終われるか? という目的をもって書き始めた作品で、だいたい10万から13万文字で完結が目標でした。
……一応、目標は達成しましたが、消化不良、というか説明不足が多く、やらかした感の方が強かったりします(笑)
でも、何が必要なのか? 削る部分は? という指標と分析ができたのでこの先の執筆に活かせるのではと考えています。
あまり人気が出なかったので少し残念ですが、最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました!
最後に続きとなるタイトルを記載していますが、その前に別の作品を予定しており、その後になるかと思います。
もし書いた時はまたお付き合いいただけると幸いに存じます。
それではまた別の作品でお会いしましょう!
あのクリスマスの日以降、大学の退学届けは取り下げられ美月はきちんと大学を卒業でき、今では立派に企業に勤める社会人。
礼二の居酒屋は月菜が辞め、卒業と同時に美月が辞め、追うように仁も辞めた。古谷と赤嶺も卒業し、今ではアサギだけが当時のメンバーとなってしまった。他は新しいメンバーだが、意外と上手くいっているそうだ。
他にも色々変わったことがあるのだが――
「帰ったぜー」
「あ、おかえりなさい! ご飯の前にお風呂に入ってくださいね」
「おう、助かるぜ。お前も仕事で疲れているだろうによ」
「うふふ、敦司さんの方が大変ですからねー。おじいちゃん、どうですか?」
「厳しい人だぜありゃあ……。でも、確かにあのグループを作るだけのことはある。しっかりしてんぜ? こき使われる方は大変だがよ。ったく、お前と結婚するためとはいえとんでもないことになっちまったぜ……」
「お前、じゃなくて美月ですよ敦司さん! でもまさか敦司さんが昔は天才少年と呼ばれていたのは驚きましたよ」
「……隠すつもりも無かったが、自分から言うことでもねぇしな。両親は優しかったけどよ、俺はどうしても道具として使われている感がぬぐえなくて、金髪にしたり……。まあ、ガキだったんだろう。俺を見て欲しかったんだ、多分な」
仕方が無かった、それだけだと敦司はスーツを脱ぎながら呟く。敦司は美月と付き合い、同棲していた。もちろん、あのワンルームで。仁とアサギはあのクリスマスの日からすぐに美月の部屋を出て行った。
「でも、その才能をおじいちゃんが知っていたのは意外でした。それに大学の成績は普通だって言ってましたよね?」
「本気を出すと目立っちまうから適当にしてたんだよ。高校のころはそれでハブられたりしたからな。で、俺の能力を知っていたカラクリは……五条だ。あいつが俺のことを知っていて、それで俺に目を付けたと会長が言っていたぜ。何で俺と美月の交際を認めたのかと思ったけど、そういう魂胆があったわけだ。ま、俺もお前の押しに負けちまったわけだけどよ……。というかどうして俺なんだ……? 正直な話、五条も真面目だし、相手としては絶好だと思うんだがよ」
「んふふー♪ 私はあの助けてくれた日からずっとこうなるだろうなって思ってましたよ、先輩!」
「お、懐かしいなそれ」
久しぶりに先輩と呼ばれてくすぐったくなり、赤い顔をして鼻の頭を掻く敦司。美月はにっこりと微笑み、目を細めてから言う。
「五条さんはいい人ですけど、やっぱり一緒に遊んだりしていた敦司さんが良かったんですよ。乱暴な物言いだけど、とっても優しい私の彼氏さんです!」
真っすぐにそう言われ、言葉を詰まらせる敦司が焦りながら口を開く。
「そ、そうか! お、俺も……お前が彼女で良かったぜ? ……ふ、風呂に入ってくる!」
「いってらっしゃい!」
着替えを持って風呂へ行く敦司の背中を見送りながら、美月が呟く。
「ふふ、実は敦司さんのことを助けられる前から知っていたって聞いたらどんな顔をするかな? ……でも、もし、あの時、あの公園でアサギさんと仁さんに会わなかったら、きっともっと早くおじいちゃんに連れ戻されていたかもしれません。運命だ、なんて言葉は陳腐かもしれないですけど、多分あなたとこうなるのは運命だったのかもしれませんね」
そう言って鼻歌を歌いながら美月は料理へと戻る。
あの日、美月は勇者と魔王と会った。それは些細な偶然だったが、本来は有り得なかった道へ足を踏み入れ幸せになれたのだ。もし、あの二人に会わなければ今頃、会長の重道によって物言わぬ人形になっていたか、ややもすると死んでいたかもしれない。
だが、敦司は美月の婚約者として二階堂グループのIT開発部門で天才と言われた頭脳を使い
そして、その運命を変えた勇者と魔王はというと――
◆ ◇ ◆
「メリークリスマス!」
「……はしゃぐな」
「いいじゃん! 今日は恋人同士のための日なんだから」
そう言って口を尖らすアサギにフッと笑いながらシャンパンのグラスをチン、と鳴らす。一口、グラスに口を付けた後にアサギが口を開く。
「まさか仁が二階堂グループのボディーガードになるとは思わなかったわね。店長が『たまには遊びに来いって言うとけや!』って言ってたわよ」
「そうだな。佐々木さんの喫茶店にも最近行ってないし、今度の休みは両方行ってみるか」
「うんうん! さあて、腕によりをかけたからどんどん食べてね!」
「ああ、から揚げも上手くなったな」
――結局、アサギの魔力は回復したがエレフセリアへ戻る選択肢は捨て、この日本で暮らすことに決めた勇者と魔王。
仁は二階堂グループのSPとして雇われ、立派に働いていた。勇者としての力をいかんなく発揮できるこの職業は天職とも言え、敦司を弟子にしたがっていた男と共に会長の直属となり幾度かの危機を救っていた。
アサギは礼二の居酒屋でまだ働いている。が、今は週二回くらいのシフトだったりする。何故かと言うと、今ふたりが住んでいるワンルームマンションは美月の父親の遺産の一つで、アサギが大家を頼まれたからである。
美月と敦司もこのマンションに住んでおり、アサギを尋ねに美月が遊びに来る。
美月が最初にアサギ達を助けられたのは他ならぬお金があったから。そして、孤独だった美月に『友達』ができると思い助けたのだ。
アサギ達は美月に助けられたが、美月もまた、アサギ達に助けられたというわけである。
「平和ねー」
「そうだな」
ケーキをつつきながらアサギが微笑むと、仁がイチゴを食べながら返す。
「……勇者として私の前に現れた時、すぐわかったのよ? あ、あの時の男の子ってさ。でもあんたは全然気づかなくてショックだったなあ」
「すまん……」
「いいって。結局こうして一緒にいられるわけだしね! でも、みんなどうしているかなあ」
「将軍たちか? あいつらは強かった。勇者の俺が最初はまったく歯が立たなかったくらいだし、国王の手は及ぶまい。新しい勇者が見つかれば話は変わるだろうが……」
「それもあるんだけど、多分お父様が地上に出るから行方不明の私を探すよう言いつけるかも?」
アサギは意地悪く、ひひひと笑い、将軍がどういう目にあっているか想像に難くなかった。それに対し仁は、
「もはやそれを確認することもできない。向こうは向こうで上手くやってくれることを祈ろう。……国王には手痛い返しをお願いしたいところだが」
「あははは! 仁も言うわね! さて、それじゃ……う!?」
「どうした!?」
笑い転げていたアサギが急に、苦しみだしダッシュでトイレへと向かい、仁も慌ててそれを追う。
「うげ……げぇぇ……」
「お、おい、大丈夫なのか……?」
先ほど食べた料理を吐き出すアサギの背中をさすりながら心配の声をかける。少ししてからアサギが口をすすぎ、仁の方を向いてほほ笑む。
「えっとね……できちゃった、かも」
「できた?」
その言葉に首を傾げつつ、身体は大丈夫そうだと安堵の息を吐く仁。そしてできたという意味を反芻し、やがて結論に辿り着いた。
「……本当か!?」
「うん! 明日病院へ行ってみるけど、間違いないと思うわ!」
◆ ◇ ◆
「わー! 可愛い赤ちゃんです!」
「しんどかったわ……美月ちゃんも覚悟しておいた方がいいわよ……」
クリスマスの日からしばらくし、アサギは元気な赤ちゃんを出産した。げっそりして疲れた顔に美月は笑い、隣で寝ている赤ちゃんに目を細める。
「俺の子か……」
「泣くなよ仁さん。これから育てるのが大変だぜ? っつっても今の給料なら余裕か」
敦司の言葉にアサギが得意気に口を開く。
「私も稼いでいるから余裕よ! この子はきちんと学校に行かせるの。まあ子供の自由は奪わない程度にね。あ、でも私のTシャツコレクションは受け継いでほしいかも」
自分が特殊な魔法を持っていたせいで、溺愛されたが独りになってしまったことを憂い、友達をいっぱい作って欲しいとアサギは語る。
「Tシャツは本人の意思次第だと思うぜ……。それにしても、勇者と魔王の子だから何か能力を持ってそうだよな」
「やめてくれ敦司。普通の子でいい……」
「あはは! 仁さんももうお父さんって感じですね! でも大丈夫ですよ。おふたりなら良い子に育ちます、きっと!」
美月の根拠のない言葉。だが、自分たちを助けてくれた人物の言葉。仁とアサギは苦笑しながら頷いた。その後、礼二や月菜、会長の重道などが出産祝いにやってきては、騒がしいくらいねぎらってくれた。
そして――
「ふふふ、よく寝てる。可愛い♪」
退院したアサギが、ベビーベッドに寝ている子を見ながら満面の笑みで言う。そこに仁がアサギの肩に手を置き、我が子を見ながら呟く。
「しかし、こうなるとワンルームも手狭になってくるな。大家用の部屋は広いらしい。ミツキがそっちへ移らないかと言っていたぞ」
「うーん、まだいいかな? ……なんだかんだ言って、美月ちゃんと一緒に住んでいたワンルームと同じ間取りの部屋に愛着あるしね。この子がもう少し大きくなったら考えましょ?」
「お前がいいなら、俺は構わん」
「うん。……ね、私いまとても幸せよ……」
アサギが目を瞑り、立ったまま仁の肩に頭を寄せてそんなことを言う。
「……俺もだ。誤解したままだったらこうはならなかっただろう。ロクでもない人生だったが、ここにきて奇跡というものを信じてもいい気になったよ」
「ふふ、堅物な勇者も丸くなったものね。さ、それじゃ退院祝いに、少し飲みましょ♪」
「そうだな」
そう言って、ふたりはテーブルで乾杯をし、いつまでも笑い合っていた。
――ひょんなことから異世界へ身を投じたふたりの物語はここで幕を閉じる。
ほんの少しでも何かがずれていれば訪れなかった生活。
仁とアサギ、そして美月と敦司はこれからずっと、小さな諍いと大きな幸せを繰り返しながら生きていくのだろう。
異世界から来た勇者と魔王が住んでいたワンルームの話は、ずっと語り継がれるのだ――
~Fin~
「もうすぐ一歳か、時が経つのは早いわねー」
「ミツキと敦司も結婚するし、あっという間だな」
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「あ、そうだ。結婚式に出るための服を買わないと! 今度行かない?」
「そうだな。子供用品ももっと欲しいし……」
「あんた、私より子煩悩よね……ま、旦那が育児に協力してくれるのは凄いって、最近は居酒屋で働き出した村上さんも言ってたから、感謝してる♪」
「そりゃ俺達の子だしとうぜ――」
ゴッ!
仁が言い終わる前に、部屋が大きく揺れふたりは中腰で立ち上がる。地震か? そう思った仁がアサギの姿を見て目を大きく見開いていた。
「アサギ! お前、その角は……!?」
「え!? あ!? 魔王の角……それに、この空気……濃い魔力の塊……」
「!? 隣の部屋か!」
ふたりは慌てて子供部屋へ入るとそこには――
「召喚の魔法陣だと!?」
「いけない! このままじゃ! ……きゃあ!?」
アサギがベビーベッドに手を伸ばすが、魔法陣の光に弾かれ尻もちをつく。ただごとではないと仁は聖剣を振り光を切り裂こうと振った。
ビキィン……!
「裂け目ができた! 今助ける……!」
仁は手を伸ばすが、魔法陣の中にあるものすごい圧力に腕が潰されそうになっていた。脂汗をかきながら子を引き寄せようとするも、その姿が薄くなっていく。
「……だ、ダメか!? クソ、一体なにが起きているんだ! お、俺の力をこの子に! う、うおおおおお!?」
「仁!? 無理しないで!」
アサギが叫んだ直後、仁は糸が切れたようにその場に崩れ、ふたりの子は光の中へ消えて行った――
「う、うそ……そんな……仁! 仁! 起きて!」
To be continued……
『魔王の娘をウチへ連れて帰ったら家を叩きだされたので、一緒に暮らすことにします』
◆ ◇ ◆
【あとがき劇場】
はい、作者の八神です!
ここまでお付き合いいただきまして本当にありがとうございました!
勇者と魔王の恋愛模様、いかがだったでしょうか?
今回のこのワンルーム、書籍一冊分の文字数できっちり終われるか? という目的をもって書き始めた作品で、だいたい10万から13万文字で完結が目標でした。
……一応、目標は達成しましたが、消化不良、というか説明不足が多く、やらかした感の方が強かったりします(笑)
でも、何が必要なのか? 削る部分は? という指標と分析ができたのでこの先の執筆に活かせるのではと考えています。
あまり人気が出なかったので少し残念ですが、最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました!
最後に続きとなるタイトルを記載していますが、その前に別の作品を予定しており、その後になるかと思います。
もし書いた時はまたお付き合いいただけると幸いに存じます。
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