雇われ聖女となったシーフ娘はやがて世界を救う?

八神 凪

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第四十四話

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「ぶは……」
「目が覚めたかい?」

 フランツがタイドに水を飲ませると、彼はむせながら上半身を起こした。目を細めて周囲を確認した後、フランツの顔に焦点が合う。

「……! お前、フランツ! ついに見つけたぞ!」
「っと」
「うおわ!?」

 タイドがフランツに掴みかかろうとしたが、サッと回避されてベッドから転げ落ちた。
 フランツは苦笑しながらすんでのところでキャッチし、またベッドへ戻す。

「酔っているんだから無理しない方がいいよ。……で、アリアを探しに来たってことでいいかな?」
「……当たり前だ。そうでなければこんなところにエルフが来ることは無い。どこに居る?」
「教えると思うかい?」
「……」

 タイドの言葉にフランツは涼しい顔で返していた。しばし無言の時が流れる。
 そして最初に口を開いたのはやはりタイドだった。

「ふん、護衛をしていた時とは随分雰囲気が違うじゃないか。そっちが本性というやつか?」
「いや、そうでもないよ。むしろアリアを守ってここまで来るにはそれなりの覚悟が必要ってわけ」
「まあ、そうだろうな。あの我儘お嬢様を連れて旅などよくできたものだ」
「できなかったから、今は僕一人なんだけどね?」
「なに……?」

 そこでフランツが肩を竦めてアリアは居ないと主張すると、当然ながらタイドが訝しむ。

「さっき、クランに居るって言っていただろう? 覚えていないかもしれないけど。今はそこにお世話になっている」
「で、では聖女はどこへ……!」
「さて、どこだろうね。逆に僕から質問なんだけど、聖殿は今、どうなっているんだい? やっぱりパニックに?」
「多分な」
「多分?」

 そこでフランツが食いついたと目を光らせる。残り二人の話を聞いてみないと分からないが、これは『知らない』と見ていいと考えを巡らせる。

「私達も戻っていないから状況は見えない。特に見つかったという報告も無いし、もし聖殿に先代が来られたとしても調査者である我々に通達が来ることはない」
「それもそうだ。まあ、あの隠匿性が嫌で逃げ出したからね、アリアは」
「……」
「なあタイド、あそこに協力するのは辞めないかい? 聖女なんてもう時代遅れなのさ」
「それは――」

 フランツがごく自然に『聖殿と聖女は必要ない』と口にし、タイドがなにかを言いかけて口ごもる。

「精霊たちだって何百年もあそこに縛られている。君達の上位存在であるシルファーさんなんかも解放できると思うんだ」
「……」

 不敵に笑うフランツの目を黙って見つめるタイド。真意を測りかねていると、そこで隣のベッドに寝ていたディズがゆらりと上半身を起こす。

「……」
「ディズさんも起きたのか。なにか言いたいことがありそうだね?」

 ディズが睨むような目つきでフランツをじっと見る。彼も表情を崩さずに彼女に尋ねる。

「き……」
「き?」
「ぎもぢわるい……」
「「……!?」」

 するとディズが青い顔になり、やばい一言を発した。そこで二人は慌てて駆け寄り、抱え上げてトイレへと連れて行った。

「おろろろろろ……」
「ふう……危なかった」
「すまんな。待っている間に飲みすぎたようだ」
「僕は別に構わないけど。で、エルフとしてはどう思う? 僕は好意もあるけど、やっぱりアリアが不憫だと思った」
「むう……」

 タイドはなおも食い下がってくるフランツに唸る。酔っているとはいえ、どうも強気に出てくると思っていた。

「……お前が聖女を隠しているとして、このまま逃げ切れると思うのか? それと、聖殿をどうにかする算段があるとでも? 正直、何年も何百年も縛られるのはおかしいと私も思っている」
「まあ、そうだよね。だからこれは君達にもチャンスだと思うんだ。僕はしばらくクランで生活する。そしてアリアは隠し通す。勝負どころは、先代が聖殿に来たタイミングでアリアが居ないと分かればなにかしらアクションがあるはず」
「しかし、捜索しろという話にしかなるまい」
「……どうかな? 精霊たちは優しいけど、先代はアリアが居なくなったことを責めると思う。そこでイフリーさんあたりは怒るなりしそうじゃない? というか自分達で探せって思わない?」
「……確かに」

 いつの間にかフランツの話に耳を傾けていた。フランツ自身、あの制度はおかしいと感じていたし、精霊たちを縛っていることに不満を持っているタイド達は頷ける要素がある。
 そもそも、聖女が居なくなったからといってエルフやドワーフ達が探す必要はない。
 精霊たちが責任を感じて指示を出しているが、逃げたのはアリアの意思なので出し抜かれたからといってそこまでの責は無いはずである。
 故にこの制度を壊し、色々なものを開放するチャンスだとフランツは告げる。

「考えはあるのか?」
「というほどではないけどね。シンプルに僕達を無視してくれればいい。できれば聖殿の様子を見てくれると嬉しいかな? 僕達を捕まえるよりも、いい結末になると思うよ」
「ディズとミンク次第、だな」
「まあ、今はそれでもいいかな。シーフクランを通じてギルドで依頼をしているから、声をかけてくれ」
「承知した。逃げるつもりは……本当に無いのか……」

 まったく焦る様子を見せないフランツは本気で聖殿を潰す気だと冷や汗を流す。
 話をするたび、アリアと連れて行くメリットが無いということに気付いたというのもある。
 いつか必ず聖女が居なくなったことはバレる。そして精霊たちが責められたとしても、人間以上の力を持つ、イフリーやシルファーをどうこう出来ることは無い。
 簡単な話、精霊たちの善性に甘えているだけなのである。タイドはいつの間にか酔っていた頭がスッキリし、そういった考えを巡らせることが出来ていた。

「それじゃ、いい返事を期待しているよ」
「わかった」
「おろろろろろ……」
「はは、飲みすぎに注意しなよ? エルフは高く売れるって言われているしね」

 フランツはトイレのディズにそう言ってからこの場を後にした。
 残されたタイドはその背を見送り、ひとまず一息つくことにした。そしてシラフに戻った二人にフランツの提案を話す。
 三人は夜通し話し合い、指針を決めることとなった。

◆ ◇ ◆

「早かったね」

 一昼夜の後、ギルドでフランツを待ちかまえていた三人。

「三人で話し合った。我々はお前に協力しよう」
「ありがとう。それじゃ、今後の話をしようか――」

 フランツはにっこりと微笑んでから三人をテーブルに誘う。
 そして舞台は再びリアの居る聖殿へ――
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