雇われ聖女となったシーフ娘はやがて世界を救う?

八神 凪

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第五十四話

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「おお、聖女様の馬車だぞ」
「いらっしゃるとは珍しい……」
「ふふ」
「お、愛想良くしている……明日は雨かなー」

 ――ギュスター伯爵の謁見から数日。あたし達はギュスター伯爵の招待を受けて屋敷へとやってきた。
 町へ入ったところで野次馬が集まり、ゆっくり進む中手を振られ、噂話などを聞いていた。

「宣伝したみたいだな」
「そのようじゃ。招待状を送ってきおったから確実に来るように手を打ったというところかのう」
「まあ行くって言った以上、嘘はつけないし構わないわね」
「ああ、言葉遣いでバレませんように……」
「その時はその時だって♪」

 ディーネは別の意味で心配していたけど、肩を叩いて笑いかけてあげた。
 さて、こちらの考えの答え合わせができるな。このまま何もなくパーティが終わればそれはそれで良し。
 だけどあたしの推測が正しければ、伯爵に必ず動きがあるはずだ。

「よし、馬車を厩舎へ置いて来るから待っていてくれ」
「分かったわ」

 入口まで来てからイフリーはあたし達を降ろし、馬車を厩舎へ持っていくとこの場を去った。
 残されたシルファー達と一緒に待つことになった。

「さて、少しだけ待ちましょうか」
「あれが聖女様……」
「初めて見ましたわ……」
「確かにお美しい」

 周囲から声が聞こえてきたので視線を向けると、立派な服を着たおっちゃんやおばちゃん、お姉さんなどがあたしを見て声を上げていた。
 美しいとか言われるのはむずがゆいわね? ……冗談はさておきあたしはディーネ達に小声で話す。

「意外と話しかけてこないものですね」
「そうですね。聖女様は謁見以外で話すことが恐れ多いと考えている方は多いと思います」
「そうじゃのう。パーティが始まれば気が大きくなるから少しは話しかけてくる者もおるじゃろうがな」
「なるほど、そういうことですか」

 ディーネとノルム爺さんから納得のいく答えをもらい、あたしは頷いた。
 こうやって大勢の前に出ると聖女という存在が特異だというのがよくわかる。
 アリアもそうだったと思うけど、あたしはここにいる貴族たちと同じ人間なのよね。
 謁見でも考えるけど、そんなに大層なものじゃないのは承知の通り。なんせあたしは聖女ではないからだ。
 精霊達はともかく、あたしもアリアもそれほど凄い人間じゃない。回復魔法が使える程度で、あんな豪勢な聖殿をもらえるのはやはり変だなと改めて感じたな。

「ま、歴代の聖女が頑張った結果だよねー。貴族もそれほど大きなことをしていないけど上に立っているし」
「そう言われるとそうなのですがね」

 シルファーがあたしの考えを見透かしたように言う。そういう意味では貴族並みの待遇はわかるけど、冒険者のあたしとしては疑問が残るね。

「よ、戻ったぜ!」
「おかえりなさい、イフリー。それでは聖女様、参りましょう:
「ええ」

 ディーネがあたしの手を取りお辞儀をした後に歩き出す。そしてシルファーが左、ノルム爺さんが右へ移動し、イフリーが背後についた。
 周囲の警護を兼ねた布陣で屋敷の中へと入っていく。ホールや廊下にも人が集まっており、談笑しているのが見える。
 パーティらしい装飾もしているため、かなり気合いが入っていることが伺える。
 さて、今日の主役であるギュスター伯爵の姿はどこかねえ?

「聖女様! 来ていただけましたか」

 あたしがそう考えていると、階段の上から声が聞こえて来た。見上げるとギュスター伯爵とウェンターが居た。

「ウェンター様だわ、かっこいいわ!」
「お付き合いできないかしら」

 周囲で若い女がウェンターを見て頬を染め、黄色い声が上がっていた。当の本人は笑顔で手を振っていた。
 イケメンってやつだろうけど、あたしの好みじゃないので適当に手を振り返しておく。
 理由は色々あるけど――

「聖女様こちらへ。特別な席を設けております」
「……承知しましたわ」
「まあ、特別……」
「聖女様だしな」
「お相手は……やっぱりそうなのだろうか」
「王子を差し置いては考えにくくないか?」
「それは聖女様次第ってことでしょう?」

 あたし達が階段を上がっていると、ひそひそとそんな話が聞こえて来た。
 ただの噂か伯爵が吹聴しているのかわからないけど、聖女との結婚が有力とされているような感じがある。
 そのまま二階の廊下を歩いて行くと、一番奥にパーティ会場が開かれていた。
 謁見の間のような広い場所にたくさんの丸テーブルが設置され、料理が次々と運ばれていた。
 そして会場の最奥には豪華な椅子が一脚だけあった。

「あちらになります。どうぞお掛けください」
「……彼等の分は無いようですが?」
「従者である精霊様はいつでも動けるように立ったままでは?」
「そうですよ、聖女様ー。わたし達には構わずにどうぞ座ってくださいねー」
「わかりました」

 シルファーが笑顔でそう言い、あたしはすぐに椅子に座る。シルファーやノルム爺さん達が横と背後に立ち、頼もしさを感じる。
 笑顔だったけどシルファーの顔は『そういうものだから』と言っているような気がした。
 下手に突っ込んであたしが偽物だとバレるのを防ぐためである。

「では聖女様がいらっしゃったのでパーティを開始するとしよう! ウェンター、頼むぞ」
「はい!」

 ギュスター伯爵が大きな声で会場に合図をしてウェンターを呼んだ。笑顔で頷いた彼はあたしの斜め前に立ち、咳ばらいをすると話し始めた。

「今日は私、ウェンター・トロメイアのためにお集まりいただきありがとうございます! 剣術のランクが上がった祝いですが、楽しんでいってください! まだまだ修行をしていきたいと考えています」
「頑張ってください!」
「爵位も上がるといいですわね!」

 ウェンターが口上を述べると、静かになっていた会場から拍手が沸き起こった。
 ふん、いいところのお坊ちゃんって感じだな。ギュスター伯爵に比べると素直に育ったんだろうなって印象を受ける。

「聖女様、労いの言葉をお願いします」
「ええ」

 次にあたしに目を向けたギュスター伯爵は労いの言葉をウェンターへかけろと口にした。
 ……これは招待状に書いていたお願いだ。読んだ時はどうしようかと思ったけど、謁見と同じだと思って受けることにした。
 あたしは座ったまま片手を上げると、ウェンターがこちらへやってきた。そこで片膝をついてから次の言葉を放つ。

「ウェンターさん、この度は剣術ランクが上がったとのこと。努力が実ったのは良かったですね」

「は、はい!」

「これからも精進し、平民からの信頼を勝ち取ってくださいね。冒険者だけでは解決できないことを一緒に成すなど視野を広げるといいでしょう」

「ありがとうございます!」
「ギルドと協力……?」
「平民のことを気にかけている。お優しいことだ」
「しかし――」
「……聖女様、ありがとうございました。では、皆さんグラスを手にしてください!」

 少し眉根をひそめたギュスター伯爵がウェンターを立たせて自身の隣へ移動させた。
 不穏なひそひそ話が聞こえてくるが、グラスを掲げてから乾杯の挨拶をする。

「乾杯!」

 ここでようやくパーティが始まる。さて、どう出て来るかな?
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