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第十五話
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「では授業はここまでにしましょうか。夕飯の支度をしなければいけませんので」
「うぐあ……」
昼ごはんを食べてからディーネの授業が始まり、陽が暮れるかというころに終了した。
教養、というやつをずっと詰め込まれてあたしの頭はもうダメになり、机に突っ伏すことに。
「ぐぬぬ……挨拶の角度とかどこで役に立つんだよ……」
「貴族との食事やパーティとなどですね。身代わりとはいえ、いつアリア様が戻ってくるか分かりませんし」
「それは早く見つけてくれよ……」
「見つけてください、ですよ」
「アリアを早く見つけてくださいまし!」
「結構」
やけくそでさっき覚えた喋り方をすると、ディーネは満足気にふふんと鼻を鳴らしていた。
「ったく、そういうパーティーとかを回避するように動いてくれればいいだろ?」
「それも限界がありますからね。アリア様が早く見つかるのを祈っておいてください」
「聖女だけにってか」
「ふふ」
あたしがそう言って肩を竦めると優しく微笑んでいた。授業は厳しいけど融通は利くんだよなあ、ディーネって。
食堂へ向かうため、彼女と一緒に廊下へ出る。少し歩いたところでディーネが話しかけて来た。
「リアはまだ若いですし、いずれ恋人を作ったり結婚をしたりするでしょう。その時、きっと役に立ちますよ」
「そう? 結局、本性を隠して付き合っても後で困る気がするぜ……じゃない、困る気がするわ」
「……中々、面白いことを言いますねリアは。授業中にも感じましたが、本質というのを理解している気がします」
「どういう意味……かしら」
「今の本性を隠して……みたいなことですよ。人間は心でそう思っていても、相手に良く見られたいという欲が先に出るものですから」
「あー」
そう言われて確かにそうかもと腕組みをする。
例えば好きな男や女に声をかけたりする奴は裏の顔を隠している場合が多い。といったような話だ。
「良い顔をしてもいつか本性が知られる時がくる。親父は『自分を誤魔化すな』ってよく言ってたよ」
「なるほど。クランの頭領という責任のある立場であれば、そういう教えもありそうですね」
「まあ、現状は聖女の身代わりをやっているから親父の言うことは守れていないんだけどな」
「それは悪かったですって」
あたしは両手を頭の後ろに組んで笑って言うと、ディーネが苦笑しながら返事をしてくれた。
まあ、これは依頼だからそこまで深刻になる必要はないんだけど。相手を騙すってことにはなるけど、事情が事情だし仕方がない。
「リアさんは口を開かなければ、男性からのアプローチは引く手あまたでしょうね」
「うーん、今は仕事をしている方が面白いからどうでもいいけどな? そういや、聞きそびれていたんだけど、聖殿って精霊以外に他の人間は居ないのか?」
食事はディーネかシルファーが持ち回りで作っているとのことで聞いてみた。
今は自室と庭、食堂と風呂くらいしか移動していないけど、人の気配はどこにも無い。
シーフとして育って来たから気配に敏感だ。そのあたしが、この聖殿では人の気配をまるで感じない。
「……」
「なんですか?」
さらに言えば精霊四人の気配も分からないのである。こうやって一緒に居る時はそんなことないけど、やっぱ人間じゃないんだなと感じたなあ。
「あまり人間を生活させておくと、どこから裏切り者が出るかわかりませんからね。昔からこの態勢でやっていますよ」
「なるほどなあ」
「言葉遣い」
「……なるほどですわ」
結果としてアリアはフランツと駆け落ちしたわけだから、その懸念はあっていたというわけだ。
誘拐とか難しいと思うけど、人が多く集まればやりようはありそうだからな。
「あなたは能力が高いのでどうにかなるとは思えませんが、気を付けてくださいね、リアさん」
「オッケー。それじゃ、美味しい晩御飯をよろしくお願いしますわ」
「はいはい。こういう時だけ調子がいいんだから」
食堂の前であたしがディーネに丁寧な言葉でキッチンへ見送ると、呆れた顔で肩を竦めて歩いて行った。
さて、晩飯ができるまでシルファーと遊んでいようかな?
「む、リア殿か」
シルファーを探しておしゃべりでもしようかと思っていたら、ディーネと入れ違いでノルム爺さんが姿を現した。
「あ、ノルム爺さん」
「どうですかな? いえ、まだ二日ですしわかりませんな」
「まあね。でも、シルファーは可愛いし、ディーネの姉ちゃんも優しいし不満はないかな? 町にも行けるんだろ?」
「うむ。まあ、言葉遣いがしっかりするまで喋らせるわけにはいかぬがな」
「うへえ」
「真顔で言われるとヘコむなあ。まあ、聖女のイメージが悪くなるのはわかるけど……」
「アリアは言葉遣いだけは良かったからのう……」
「へえ……って、そうだアリアのことを聞かせてくれよ。どんな奴か把握しとけば真似しやすいだろ」
「そうじゃな。アリア殿のことも知っておいてもらった方が良いな」
「飯時にでも頼むよ」
どちらかと言えば真似のためというより、同じ顔をしたアリアがどんな性格でどう過ごしていたかの方が気になる。
あ、そうそうフランツのこともだ。少しだけしか話しをしていないけど、あいつは優しそうな奴だった。駆け落ちを考えるかなと今なら疑問を覚えるところだ。
「それも話をしておこうか。まったくあの男……アリア殿がどうしてもというから護衛としておいていたのに……!」
「まあ、ボチボチかねえ……」
ノルム爺さんがカリカリしだしたので、あたしは頬をかきながら言葉を濁す。
「おっと、愚痴っぽくなってしまったな。歳をとるといかんのう。あの二人はなるべく早く見つけてみせるわい。では、また後でな」
ノルム爺さんがそう言ってこの場を立ち去った。
文字通り飯のタネが出来たなと、あたしは食堂でみんなを待つことにした。
「うぐあ……」
昼ごはんを食べてからディーネの授業が始まり、陽が暮れるかというころに終了した。
教養、というやつをずっと詰め込まれてあたしの頭はもうダメになり、机に突っ伏すことに。
「ぐぬぬ……挨拶の角度とかどこで役に立つんだよ……」
「貴族との食事やパーティとなどですね。身代わりとはいえ、いつアリア様が戻ってくるか分かりませんし」
「それは早く見つけてくれよ……」
「見つけてください、ですよ」
「アリアを早く見つけてくださいまし!」
「結構」
やけくそでさっき覚えた喋り方をすると、ディーネは満足気にふふんと鼻を鳴らしていた。
「ったく、そういうパーティーとかを回避するように動いてくれればいいだろ?」
「それも限界がありますからね。アリア様が早く見つかるのを祈っておいてください」
「聖女だけにってか」
「ふふ」
あたしがそう言って肩を竦めると優しく微笑んでいた。授業は厳しいけど融通は利くんだよなあ、ディーネって。
食堂へ向かうため、彼女と一緒に廊下へ出る。少し歩いたところでディーネが話しかけて来た。
「リアはまだ若いですし、いずれ恋人を作ったり結婚をしたりするでしょう。その時、きっと役に立ちますよ」
「そう? 結局、本性を隠して付き合っても後で困る気がするぜ……じゃない、困る気がするわ」
「……中々、面白いことを言いますねリアは。授業中にも感じましたが、本質というのを理解している気がします」
「どういう意味……かしら」
「今の本性を隠して……みたいなことですよ。人間は心でそう思っていても、相手に良く見られたいという欲が先に出るものですから」
「あー」
そう言われて確かにそうかもと腕組みをする。
例えば好きな男や女に声をかけたりする奴は裏の顔を隠している場合が多い。といったような話だ。
「良い顔をしてもいつか本性が知られる時がくる。親父は『自分を誤魔化すな』ってよく言ってたよ」
「なるほど。クランの頭領という責任のある立場であれば、そういう教えもありそうですね」
「まあ、現状は聖女の身代わりをやっているから親父の言うことは守れていないんだけどな」
「それは悪かったですって」
あたしは両手を頭の後ろに組んで笑って言うと、ディーネが苦笑しながら返事をしてくれた。
まあ、これは依頼だからそこまで深刻になる必要はないんだけど。相手を騙すってことにはなるけど、事情が事情だし仕方がない。
「リアさんは口を開かなければ、男性からのアプローチは引く手あまたでしょうね」
「うーん、今は仕事をしている方が面白いからどうでもいいけどな? そういや、聞きそびれていたんだけど、聖殿って精霊以外に他の人間は居ないのか?」
食事はディーネかシルファーが持ち回りで作っているとのことで聞いてみた。
今は自室と庭、食堂と風呂くらいしか移動していないけど、人の気配はどこにも無い。
シーフとして育って来たから気配に敏感だ。そのあたしが、この聖殿では人の気配をまるで感じない。
「……」
「なんですか?」
さらに言えば精霊四人の気配も分からないのである。こうやって一緒に居る時はそんなことないけど、やっぱ人間じゃないんだなと感じたなあ。
「あまり人間を生活させておくと、どこから裏切り者が出るかわかりませんからね。昔からこの態勢でやっていますよ」
「なるほどなあ」
「言葉遣い」
「……なるほどですわ」
結果としてアリアはフランツと駆け落ちしたわけだから、その懸念はあっていたというわけだ。
誘拐とか難しいと思うけど、人が多く集まればやりようはありそうだからな。
「あなたは能力が高いのでどうにかなるとは思えませんが、気を付けてくださいね、リアさん」
「オッケー。それじゃ、美味しい晩御飯をよろしくお願いしますわ」
「はいはい。こういう時だけ調子がいいんだから」
食堂の前であたしがディーネに丁寧な言葉でキッチンへ見送ると、呆れた顔で肩を竦めて歩いて行った。
さて、晩飯ができるまでシルファーと遊んでいようかな?
「む、リア殿か」
シルファーを探しておしゃべりでもしようかと思っていたら、ディーネと入れ違いでノルム爺さんが姿を現した。
「あ、ノルム爺さん」
「どうですかな? いえ、まだ二日ですしわかりませんな」
「まあね。でも、シルファーは可愛いし、ディーネの姉ちゃんも優しいし不満はないかな? 町にも行けるんだろ?」
「うむ。まあ、言葉遣いがしっかりするまで喋らせるわけにはいかぬがな」
「うへえ」
「真顔で言われるとヘコむなあ。まあ、聖女のイメージが悪くなるのはわかるけど……」
「アリアは言葉遣いだけは良かったからのう……」
「へえ……って、そうだアリアのことを聞かせてくれよ。どんな奴か把握しとけば真似しやすいだろ」
「そうじゃな。アリア殿のことも知っておいてもらった方が良いな」
「飯時にでも頼むよ」
どちらかと言えば真似のためというより、同じ顔をしたアリアがどんな性格でどう過ごしていたかの方が気になる。
あ、そうそうフランツのこともだ。少しだけしか話しをしていないけど、あいつは優しそうな奴だった。駆け落ちを考えるかなと今なら疑問を覚えるところだ。
「それも話をしておこうか。まったくあの男……アリア殿がどうしてもというから護衛としておいていたのに……!」
「まあ、ボチボチかねえ……」
ノルム爺さんがカリカリしだしたので、あたしは頬をかきながら言葉を濁す。
「おっと、愚痴っぽくなってしまったな。歳をとるといかんのう。あの二人はなるべく早く見つけてみせるわい。では、また後でな」
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