雇われ聖女となったシーフ娘はやがて世界を救う?

八神 凪

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第二十一話

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「親方ー、リアが帰って来たよ」
「大丈夫かなあ……」

 アリアとフランツはリアの知り合いと思われる女性に案内され、町はずれにある大きな建物へやって来た。

「ふうん、聖殿ほどでは無いけれどかなり大きい建物ね」
「それなりのクランみたいだからね」

 大人数が暮らせそうな建物は宿のようにも見える。アリアは聖殿と近くの町しか行ったことが無いため、興味津々できょろきょろと周囲を見渡していた。
 女性が入口の両扉を開けると、二人も後に続いていく。

「あ? なんだってジャネット? リアが帰って来たって?」

 入ってすぐのところはホールになっていた。そこには数人の男女が集まっており、その中でも特に体が大きく、熊のような男が入口の女性に顔を向けて口を開いた。
 アリア達を連れてきたジャネットという女性はそのまま話を続ける。

「そうなんだよ親方。ちょうど町に買い出しに行ったら居てさ」
「いや、今はヨグライト神聖国に行っているはずだぞ。俺がギルドの依頼状況を調査するように頼んだし……」
「あの人がリアのお父様なのね。……きゃあ!?」
「うわ!」

 熊のような男が親方と呼ばれたので、アリアは手をポンと打ってリアの話を思い出していた。
 そこでジャネットが後ろに控えていたアリアとフランツの後ろに回り込み、背中を押して前に出した。

「ほら、しかも男連れで!」
「なに!? リア、お前は隣国へ行ったんじゃなかったのか!? し、しししししかも、お、男を連れて帰ってくるとは!?」
「あら、やっぱり分からないのね」
「髪を切ったとはいえ、リアさんほど短くはなっていないからだと思うよ」

 リアだと思っている親方はフランツとアリアを見比べて酷く動揺していた。そんな中、アリアは動じず、フランツは頭を振ってため息を吐いていた。

「おい、お前! リアとはどういう関係だ! パパに挨拶をせんか!」
「パパって……」
「親方落ち着けって!」
「ええい放せ! リアはまだ嫁にはやらんぞ!」
「ふふ、面白いおじさん! でもこのままじゃ話ができないし、早いところ打ち明けるとしましょうか」

 暴走する親方を抑えるクランの仲間たち。それを見てアリアはころころと笑っていた。
 しかし、このままでは話ができないとアリアは手を前に出して親方を制止する。

「お待ちください。よく似ていますけどあなたの娘さんではありません。私の名前はアリアといいます。こっちは――」
「僕はフランツです。アリアの言う通り、僕達はあなたの娘さんとは関係ない旅人です」
「な、なに……? いや、どう考えてもリアだろ……?」
「確かに髪は少し長い、か?」
「ええー? どう見てもリアだよ!」

 親方が焦りながら目を細め、その場に居たジャネットを含むクランの者達がざわめき始めた。

「まあ、そう言われても違うとしか言えないんだけどね? えっと、親方さん申し訳ないんだけど落ち着いて話せる場所が無いかしら?」
「リ、リアが落ち着いた話し方を……」
「別人だって言ってるけど……」
「む、むう……」

 にこりと微笑むアリアに一同が困惑する。親方は唸った後、ため息を吐いてからクランのメンバーへと指示を出し始めた。

「……俺は二人を話をする。ジャネット、休みだったところ悪いが俺の代わりに依頼へ行ってくれるか?」
「うへ、やぶへびだ!? まあ、いいけど、マジでリアじゃないんだ?」
「ええ」
「それは間違いなく」
「オッケー、なら親方に任せるよ。みんな、依頼に行こうぜ」
「あいよー!」

 ジャネットの言葉にアリアとフランツが即答すると、別の男が肩を竦めて指示を出した。
 そのままその場にいた全員が外へ出ていき、ジャネットも装備を整えるため部屋へと向かう。
 残されたアリアとフランツは微妙な表情をしている親方と目が合う。

「……こっちだ。なんだかおかしな感じだぜ……」

 親方は頭を掻きながら背を向けて着いてくるように促す。二人は顔を見合わせて頷き、後を追った。
 到着したのはテーブルに椅子が四つだけしかないシンプルな部屋で、フランツは来客があった際に使うのだろうと推測する。
 座るように促されて向かい合わせになる。最初に口を開いたのは……アリアだった。

「改めてご挨拶するわ。私はアリア・エトワールと言います。以後、お見知りおきを」
「フランツです」
「ああ、俺はギルフォード。このシーフクランの運営をしている者だ。……本当にリアじゃねえんだな?」
「ふふ、嘘はついていませんよ。それにしてもリアさんと私はそっくりみたいですね」
「だなあ。まさか別人とは思わんよ」
「……」

 アリアはリアに会ったことを隠して話を進めていた。なにか考えがあるのか? と、フランツは成り行きに任せていた。
 ギルフォードはアリアの顔をまじまじと見ながら返事をする。まだ信じられないといった感じの様子である。

「私達は旅の者で、これから隣国へ向かおうと思っています」
「へえ、話し方からして、いいところのお嬢さんみたいだがまたどうして」
「それが――」

 そこでアリアが『きた』というように目を光らせた。

「実は私達、とある連中に追われておりまして隠れながら移動をしているんです」
「ほう」
「このまま隣国へ行くと国境で捕まってしまいそうでして。これもなにかのご縁……もし良ければ少しの間ここで匿っていただくことはできませんか?」
「なんだって?」
「アリア、それは――」

 訝しむギルフォード。そして提案の内容に驚くフランツ。しかしアリアは臆することなく、続けた。

「報酬はもちろん差し上げます。そうですね……ひと月ほどお部屋を貸していただけると助かるのですが」
「報酬だって?」
「ええ、これなんていかがでしょう?」
「もう、仕方ないなあ……」

 フランツはアリアに合図されてカバンから宝石を一つ取り出す。価値が分かる者ならこれ一つでひと月の衣食住は十分に足りると判断できるはずだ。

「こいつは……確かに本物だ。売ればしばらくスイートルームに泊まって路銀もできるぞ」
「宿は危ないので。冒険者のあなた方ならわかるのでは?」
「……なるほど」

 追われているなら宿は逃げ場が無くなり、他人にも迷惑がかかるかと、ギルフォードは瞬時に悟る。

「しかし、その追手が我々に迷惑をかける可能性がある」
「そこは私をよく似ている娘だと言ってくれればいいと考えます」

 ギルフォードにあっさりと返すアリア。その辺りは織り込み済みと言った様子で笑っていた。
 彼は腕組みをして少し考えた後、口を開く。

「滞在は一か月。それ以上は無理だ」
「ありがとうございます! パパ!」
「や、やめろぉ!?」
「うーん、大丈夫かな?」

 自分の娘に似ている相手には強く出られず、少し気にかかることがあったがギルフォードは承諾した。
 フランツはアリアの選択に難色を示していたが、一か月ならいいかとひとまず受け入れることにするのだった。
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