雇われ聖女となったシーフ娘はやがて世界を救う?

八神 凪

文字の大きさ
36 / 57

第三十六話

しおりを挟む
「応急処置だけだと不安になるわね」
「村だとよくあるんだよ。すぐに建て直せるほど若い人が居なかったりすると特に」

 アリアのお願いで家屋の外に出た二人はブルグラップに破壊された外壁に来ていた。
 応急処置でレンガと木の板で穴を塞いでいるが、アリアの言う通り心もとない見た目をしていた。

「一度壊れたところを直しても脆くなってしまうから、結構大変なんだ」
「詳しいわね。フランツも村に居たことがあるの?」
「……ああ。王都で騎士になる前は村で暮らしていたんだ」
「そういえば初めて聞いたかも……」

 困った顔で肩を竦めるフランツにアリアはハッとする。何故なら――

「そう言えば私ってフランツのこと、あまり詳しく知らない……というか聞いたことが無い」
「あー、そうかもしれない。けど、あまり面白い話はないからなあ。君の境遇と比べたら自由だったけど」
「ふうん……でも、聞いてみたいかも」
「ええ? どうしたんだいア……リア。そんなことを言うのは初めてだ」
「うーん……あそこに居た時はフランツが居ればいいと思っていたけど、こうやって追手を撒いて自由に行動できているじゃない? だから考えがクリアになっている気がするのよね」
「へえ……我儘ばかりだったのになあ」
「まあ、そうかも……って、そんな風に思ってたんだ!?」

 急なカミングアウトにアリアが激昂する。そこでフランツが『あっ』っと呟いた後、頭を掻きながら言う。

「いやあ、はは……僕は好きだし、いいんだけどシルファーさん達は大変そうだったなって」
「むう。でも、そうだったかも。みんないい人達だったし、お母様には悪いと思うけどやっぱりあのしきたりはおかしいわ」
「そう、だね」

 聖女のしきたりのことだと瞬時に理解したフランツが言葉に詰まる。この件については罪悪感と恋心の二つがひしめき合うからだ。
 実際、アリアはともかくフランツが捕まれば極刑もあり得る。だからこそ必死で逃げている側面があった。

「逃げ切れると……いえ、絶対逃げ切るわ」
「ああ、もちろんだよ」

 小声でそんな話をしながら二人は決意を新たにしていた。この変装で依頼を受けているのはリスクが高いが得るものはあるはずだと。

「さて、私達のことはいいとして、この壁を破るってことを考えると危険な魔物ね」
「慣れるとそうでもないんだけど、まあ見たらびっくりすると思うよ」
「弱点とかは?」
「えっと……って、戦う気!?」
「知っておいた方がいいんじゃない? 私もせいれ……あの人達に色々と教えて貰っているから。それに戦えた方が『私』だって認識されにくいかと思うの」
「うーむ」

 その言葉を聞いてフランツが少し考える。戦闘をする気になっているのは微妙だからだ。
 剣はもとより、魔法の腕もそれほど高くないので戦いに参加させるのは不安しかない。
 だが、彼女の言う通り戦いをしているとなれば追手の目は欺きやすい。特に精霊達はアリアが自分から戦うなど考えていないからである。

「(許可だけしておいて、僕が先に倒してしまえばいいか。ジャネットさんやランキーさんもいるからアリアが手を出す前に終わらせられるだろうし)」

 フランツはそう結論付けてから頷くと、アリアへ言う。

「わかったよ。アリアがやりたいことなら手伝う。元々、色々とやりたいことを見つけるために旅立ったしね」
「フランツ……うん! それじゃ早速、畑へ行ってみましょう」
「わかった」

 アリアはドヤ顔で頷き、次は畑へ行くように頼み二人はこの場を後にした。

「村は初めて来たけど随分と貧しい感じがするわね」
「そういうことは村の人の前で言わないでくれよ? ふざけるなって絡まれるから」
「あ、うん」
「あ、冒険者さん」
「「……!?」」

 移動中、村の人に出会った。たった今、良くない話をしていたので二人は飛び上がって驚く。

「こ、こんにちは! いいお天気なので散歩をちょっと」
「ああ、そうですね。……それで、魔物は倒せそうですか? 畑を荒らされてしまうと、味をしめて何度もやってくるんです。ここの野菜が無くなれば次は別の畑が……」
「そっか、倒さないと何度でも来るのね」
「うん。だから冒険者は腕を上げてこういった依頼に対応できるようにするってわけだ」
「その通りです。頼りになるのはあなた方だけ……よろしくお願いいたします」
「はい!」

 アリアが元気よく返事をすると、村人は微笑んでからお辞儀をして立ち去った。
 気づけば荒らされている畑の前へとやってきていて、状況を見たアリアが困った顔で口を開く。

「うわ、穴だらけ……」
「こりゃ酷い……」

 どこもかしこも穴だらけで葉っぱ一枚残っていなかった。食いつくされかけた畑はまたすぐに利用するのは難しいほどだ。

「まだ残っているわね、お野菜」
「食いつくすと自分も困るから魔物も考えているんだよ」
「なるほどね」

 アリアはなんとも言えない表情で呟く。フランツは気になって彼女に尋ねる。

「どうしたの? なにか心配事?」
「んー、そういう訳じゃないんだけどね。ほら、私のところへ来ていた人達が居たじゃない?」
「うん」

 謁見のことだなとフランツが理解して頷く。アリアも小さく頷いてから小声で続ける。

「悩みとか、お土産を持くるみたいなのが多かったじゃない? なんであんなことするのかなーって思ってたんだけど……外の世界はみんな困っているんだなって」
「……」
「あの毎日は退屈で、聖女をありがたがって来る人達はなんなんだろうって感じていたわ。だけど――」

 そこでアリアはここに冒険者である自分達が来なければいつまで経っても解決しなかった。
 相談に来た人間もそういう切羽詰まった状況を話しに来ていたことをポツリと言う。

「もしかしたら、今みたいに私が助けることもできたのかなって思ったのよ」
「それは……あったかもしれないけど、あそこから出られるのは町に行く時だけだったから仕方ないよ」
「まあ、そうなんだけどね。聖域って本当に隔離された楽な場所だったなって思ったわ」
「戻ってみたいとか?」

 フランツはアリアの素直な感想を聞いて尋ねてみる。すると首を振ってから笑う。

「まさか! あそこに戻る選択肢はもう無いわね。お金を貯めて一緒に暮らすのよ!」
「それもそうか。今戻ってもいいことは無いだろうし、もっと厳重になるかもしれない。ひとまず過去のことは置いといて未来を考えようか」
「うん!」

 その後、アリアとフランツは村を適当に見回って小屋へと戻った。

 ちなみに散歩をしている際、村の人からブルグラップを頼みますと本気でお願いされていた

 そして夜――
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎
ファンタジー
こんにちわ!!私はティファ。18歳。 ある国で軽い気持ちで兵士になったら気付いたら最強騎士になってしまいました!でも私、本当は小さな料理店を開くのが夢なんです。そ・れ・な・の・に!!私、仲間に裏切られて敵国に捕まってしまいました!!あわわどうしましょ!でも、何だか王様の様子がおかしいのです。私、一体どうなってしまうんでしょうか? *小説家になろう様にも掲載されております。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...