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第二章:異世界を駆ける

その30 おやめください陛下

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 「リク殿、これはどちらへ?」
 「ああ、それは店舗でお願いします。あ、それは家の中で」
 「分かりました」
 「庶民のお引越しってわくわくしますわね」
 「はは、大変ですよ。……!?」

 リーザ様が楽しそうに荷物を持って歩いているのを見て俺は180度ほど回る勢いで首を動かし、慌てて段ボールを取り上げる。

 「なにやってんすか!? 王妃様は働かなくていいんですよ!」
 「でも、皆さん動いていらっしゃいますし、夫も、ほら」
 「え?」

 「サリア君、これはどこへ持って行けばいい?」
 「えーっと……倉庫で……」
 「お待ちなさい!?」

 俺はさらに慌ててソリッドさんが持つもう一つの段ボールをかっさらい、地面に置いてから口を開く。

 「国王様が働いたらダメですって!」
 「いや、異世界のアイテムとかあったら見たいな、と」
 「素直ですね」
 「サリア、そういう問題じゃないっての……。とにかく、見せられそうな物なら後で積み荷を降ろし終わってからにしてください」
 「「ええー……」」
 
 はもるなアクティブ夫婦。
 とりあえず二人にはよく冷えた、お土産として積まれていたであろう瓶のグレープジュース(他の味あり4本セット)を渡し、庭にテーブルセットを作って待ってもらうことに。

 「うおお! あのジュースめちゃうめえええ!」
 「マジか! 毒見役いいなああ!!」
 「私のジュースが半分しか入っておらぬ……!?」
 「あらあら」

 よくはねえよ、下手したら死ぬんだぞ。あいつら頭んなかどうなってんだ?
 ツッコミが追いつかないので早く荷下ろしを終わらせよう……。

 「さすがプロは違いますね、この重さを一気に持つなんて」
 「コツがあるんですよ。ここにマジックで中身を書いていて、重いものを下にしているから、だったりね」
 「ほう、面白いもんだな」

 手伝ってくれる騎士達は変なヤツもいるがこういう真面目な人も多い。自分のやっている仕事を褒められるってのはむずがゆいものだが嬉しいもんだ。

 しばらくしてコンテナの荷物が全て出し終わり、気が付けば昼を回っていたため昼飯を食べてから開封しようとなった。

 「ありがとうございました! 後は開封だけなので俺とサリアだけで大丈夫かと思います。お昼、俺がごちそうしますよ。って出前とかないんだっけ?」
 「頼めば届けてくれるお店があるんじゃないですかね?」

 このまま帰ってもらうのは申し訳ないのでお昼くらいはと思ってサリアと財布を手に声をかけるが、その前にリーザ様が笑ながら口を開く。

 「わたくしの毒見役がすでに手配しておりますわ。今日のヒサトラ様とサリアさんはお客様ですもの、これくらいさせていただきますわ。ですわね?」

 すると騎士達は「おお!」となんか笑顔でポーズを決めていた。ノリのいい国だな……。少々心配になるが。

 「なんかすみません、なにからなにまで……」
 「いいのよ。夫も言ってたけど、とらっくは新しいものをこの国に与えてくれるかもしれませんもの」
 「そうですかねえ……」

 リーザ様が確信めいてそういうが、俺はよく分からず頬をかきながら生返事を返す。
 どちらかといえば迷惑をかけそうで怖いんだが……

 あれ? その夫であるソリッド様の姿がみえねえな。

 「むう……」
 「なにやってんすかソリッド様」
 「この箱はなんというのかね?」
 「段ボールですね。この世界には無いんですよね」
 「そうだな。これをひとつ貰うことはできるだろうか?」
 「え? こんなものどうするんです?」
 「なんとなく惹かれるものがあるのだ、どうだろう?」

 そういやソリッド様って眼帯をしてないけど某潜入するゲームのあの人に似ている気がする。名前だけじゃなくて声も。ソリッドに段ボール……大丈夫か?

 「ま、まあ、たくさんあるのでひとつくらい大丈夫ですよ」
 「そうか! ではこれを頂いていこう。おい、丁寧に扱えよ」
 「ハッ!」

 人が入れそうな大きさの空段ボールを騎士に命じて別の場所へ移動させるのを横目に『やはり入るのだろうか?』と脳裏に浮かんだが、国王がそんなことをするはずもないかと頭を振る。

 やがて出前とは思えぬオードブルが届き、倉庫にありったけのテーブルと段ボールを机にしてバイキング形式の昼食が始まり、俺とサリアも頂くことに。

 「お、この肉団子美味いな」
 「こっちの温野菜も歯ごたえがあっていいですよ」
 「この国は野菜が特によく育つ土地でな、家畜も居るが肉は別の国の方が上手い。もちつもたれつだな」
 「魚はやっぱり難しいんですか?」
 
 前に魚を食べたいと言っていたが、オードブルには魚が存在するので気になって聞いてみる。すると、なるほどという答えが返って来た。

 「湖や川にはもちろん魚は居るが、海の魚ということだ。新鮮なら生で食べられるとも聞く、一度でいいから味わってみたい」
 「ここからどれくらいなんですか?」
 「馬車で10日ほどの場所にある町だ」

 10日……そりゃ帰ってくる間に腐るな。
 でも氷の魔道具みたいなものがあれば持つんじゃないかと思ったのだが――

 「魔力がもたんらしい。10日連続で昼夜込め続けると鼻血を出して倒れるようだ」
 「そこまではできませんね……」

 そうか、魔力の問題か。
 俺はトラックに乗っている限り魔力ほぼ無限だし、気にしたこと無かった。魔道具は結構魔力を食うらしい、魔法が苦手な人の為に作られているけど制限はいろいろあるみたいだな。

 「そうだ、少し落ち着いたら商工ギルドへ行くといい。この運送屋の開業手続きは私ではできん。話は通してあるから気楽にな。冒険者ギルドも宣伝で顔を出しておくといいぞ」
 「はあ」

 根回しが良すぎる。
 が、ソリッド様が自分の欲を満たすためと思えば、まあこれくらいはするかと苦笑する俺。
 その後、昼食を終えて残りの作業を終えるのだった。
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