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第三章:最強種と

その40 一歩前進?

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 ――サリア――


 「よく眠っていますねえ。さっきは惜しかったですけど、ヒサトラさんが意識してくれているのが分かったから嬉しかったですけど」

 私がこの人についていくのはルアン様のこともあるけど、あの時助けてくれた彼に惚れてしまったからに他ならない。だってそうでしょう? ゴブリンに囲まれて絶対絶命のピンチに、偶然とはいえ助けてくれたし、その後、アグリアス様にも私にも手を出すことなく、そのまま安全に町まで運んでくれた。
 そんな紳士みたいなヒサトラさんをカッコよく思ったのよね。

 さらに異世界からやってきた女神様の使者で、トラックもカッコいいし、この人についていこうと旦那様とアグリアス様に頼んで一緒に居られるようにしたというわけ。
 ここまでずっと生活してきたけど……

 「この人、ホントに手を出して来ないんですよねえ。凄くいい人なんですけど、恋愛には疎いのかな?」

 まあお母様のことが最初に来るのでそこはあまり考えられないのかもしれない。マザコン、というよりは過去に苦労をさせていたことを悔いていて、さらにもうあまり長くないことに焦っているような気もする。
 とりあえずこっちに来てもらい、薬を見つけるまではと思っていたけど、さっきはいい雰囲気になったからついキスを求めてしまった。

 ……邪魔されたけど。

 でも、恋人には昇格できたみたいだから今日のところはこれでいいかなと私は眠るヒサトラさんの頬にキスをするのだった。
 
 「あ、でもさっき言ってたことをやってみようかな?」

 ……早く薬を見つけたいですね、ヒサトラさん。


 ◆ ◇ ◆

 
 さて、宿はロイヤルスイートのような部屋……はさすがに遠慮して、俺とサリアはトラックで……というのはソリッド様にさらに止められて一応の部屋を取らせてもらった。

 「ふあ……16時か……」
 「おはようヒサトラさん♪ お買い物に行く?」
 
 サリアがそんなことを口にして驚き、一気に眠気が吹き飛んだ。
 敬語ではなく、普通に話しかけてきたからだ。

 「サリア、お前……」
 「さあさ、行きましょう行きましょう」
 「お、おい、引っ張るなって!? ……ふう、いくか」

 顔が赤いのでサリアも照れているようだ。なんとなく微笑ましいと思いながらベッドから降りて背伸びをする。
 特にやることもないので、当初の予定通り適当に商店街をぶらつくことに。

 海辺の町ということで家屋は通気性のいい小屋のような店が立ち並んでいて、自宅とは別に店がある感じだった。田舎の駄菓子屋みたいな店といえば伝わるかな?

 「これとかいいかも」
 「それにすっか。おばちゃんこれを頼むよ」
 「あいよ、揚げ物でもするのかい?」
 「ああ、調味料も欲しいんだけど、あるかい?」
 「ウチにゃねえ。三件先のブナさんとこで買いな」

 というわけで店の一つで雑貨屋を見つけたので入り、鍋とトング、それとおろし金を購入。箸もフォークもある世界なのは俺にとってなじみがあっていい。
 さらに別の店で小麦粉、卵を購入し、パン屋で適当なパンを買ってからもう一度市場へ。

 「おう、また来たのか兄ちゃん」
 「ちょっと夕飯で試したいことがあってな」
 「あんまり残ってねえけど、さっき釣りに行った息子が少し取って来たやつがあるぜ」

 そういうおっさんの生け簀を見ると、アジとサンマが増えていた。

 「やっぱアジフライか……?」
 「なんです?」
 「ああ、料理な。お、さっきは気づかなかったけどエビもいるな。……よし」

 俺はすぐにアジとエビを包んでもらい、別の店舗で貝類を少し買ってからまた宿へ戻る。
 
 「それ、どうするんですか?」
 「はは、もう元に戻ってんな。ま、嬉しかったぜ。とりあえず、厨房を借りて処理した後で浜辺で揚げようかなと思ってな。外で食う飯も悪くないぜ」
 「なるほど、それじゃ私も手伝うね」

 サリアがニコニコしながら俺の手を取って歩く。ちょっといい雰囲気になって来たなと思っていると、どこからか視線を感じ、俺は周囲を見渡す。

 「……あそこか……!?」
 「凄い見てる……」

 宿の最上階の窓からソリッド様達が俺達を見ていることに気づきそそくさと中へ入った。他人の色恋沙汰になんで興味津々なんだあの夫婦は……。

 そんな調子で宿の厨房を借り、魚を処理を。

 「兄ちゃんいい手際だな。料理人か?」
 「いや、一人暮らしが長かったのと、金が無かったから自分でさばいた方が安上がりだったんだよ。悪いね貸してもらって」
 「今日のディナーの下準備は終えているからな。キレイに使ってくれたら構わんよ」
 「貝はどうします?」
 「砂を出したら身を剥がしといてくれ」

 話の分かる料理長で助かるぜ。
 
 「そりゃなんだ? パンを……おろし金で粉々に!?」
 「パン粉ってねえみてえだから自分で作ろうと思ってな」
 「……料理人じゃないのか本当に?」
 
 訝しむ料理長が俺のやっていることをまじまじと見ていたが、やがてフライの下準備が終わり、俺達は厨房を片付けて外へ行く。

 そこでソリッド様達とすれ違った。

 「おお、ヒサトラ。どこへ行くのだ? もう夕食だぞ」
 「ああ、サリアと一緒に外で飯を食おうかと思いまして。浜辺で料理を」
 「……ふむ? 揚げ物、か?」
 「ええ、俺の世界の料理をご馳走しようかと。庶民の食べ物ですけどね」
 「まあ、異世界の? わたくし、興味があるわ」
 「いや、でも料理長が張り切ってましたよ……? 食べてあげた方が……」
 
 俺がそう言うと、ソリッド様が腕を組んで唸りをあげ、しばらくした後で手を打ち、名案だと口を開いた。

 「そうだ! 我々も外で食べようではないか。キール、テーブルセットを用意できないか聞いてくるのだ。ヒサトラよ、すぐに合流する。それまで待っておいてくれ……!」

 そう言いながらバタバタとこの場を去っていき俺とサリアは顔を見合わせて肩を竦めるのだった。
 まあ、賑やかなのはいいことだけど……そう思いながら浜辺で準備を始める――
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