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異世界へ
6.すくすくと成長しております
しおりを挟む――俺、アルフェン=ゼグライトが産まれてからすでに三年が経った。
あの書斎事件の後、俺は何度かリビングやベッドから脱出を図っていたんだけど、成長が早いと喜ぶ反面、動き回れるのは危険すぎると、ある日を境に厳重な警戒態勢を敷かれてしまい――
「奥様、お昼寝をどうぞ! ここはマイヤがアル様を見張っておきます!」
「お願いね。少し休むわねアル」
「あー(ごゆっくりー)」
「イリーナさん、代わるよ。書斎で抱っこしながら書類をするから」
「ありがとうございます旦那様。ですが、アル様はわたくしめがしっかりと見ておきますのでご安心を」
「ええー……!? 僕もアルフェンと遊ばせてくれよ! ほら、アル、パパと遊ぼうね」
「うー(断る、抱っこされるならイリーナさんの方が美人だし)」
「うわあああ、アルがそっぽを向いた! 最近仕事で顔を見せていなかったしパパだと思われていないのかも……! イリーナさん、やっぱり僕が遊ぶよ!」
「アル」
「アル様」
「アルフェン」
「アル様ぁ♪」
――こんな感じで、四六時中必ず誰かが一緒に居るという状況で、逃げ出すことは不可能なのであった。
まあ、ドアも開けられないし、どこになにがあるか分からない。外は危険そうだし、俺はぬくぬくとお乳をもらっては寝て、適当に遊び、読み聞かせてくれる本を聞きながらウトウトするという毎日を過ごしていた。
しかし、俺ももう三歳。
そうなると、意思疎通はでき、行動範囲は一気に広がる。
「アル様! どこですか!? 奥様に叱られますよ!」
「僕はこっちだよマイヤ」
「ああ!? またそんなところへ登って!」
「あはは、ごめんよ」
俺は木から降りてマイヤの前に立つと、口をへの字にして俺の両頬を引っ張りながら言う。
「怪我でもしたらどうするんですか! 私が怒られるんですからね」
「僕より保身かあ、マイヤは僕より自分が可愛いんだね」
「ま、た! どこでそんな言葉を覚えてくるんですか!? やっぱりパーティに連れて行くのは反対ですよ……」
「ぷぷ」
俺の手を引きながら屋敷に戻るマイヤの背中にほくそ笑む。
15歳になった彼女は段々とイリーナさんに似てきて美人な顔立ちをしてきたと思う。
16歳で成人らしいこの世界。引く手あまたになるかと思われるんだけど、彼女は俺が大きくなるまで面倒を見ると言って聞かない。
「あら、掴まえたの?」
「ええ! また木登りをしてました、旦那様と奥様はおっとりされているのに、アル様はやんちゃですよ」
「うふふ、ライアスも子供の頃は暴れ回っていたらしいわよ、お父様に連れていかれ等八歳の時の舞踏会の話、聞きたい?」
「あ、それ、興味あります! あいた!?」
両手を合わせて喜ぶマイヤに、イリーナさんがこめかみをぐりぐりとしながら優しく微笑みながら口を開く。
「マイヤ、奥様に失礼よ。申し訳ございません、大きくなっても子供みたいで」
「ううん、元気なのはいいことよ」
「へへ、怒られてやんの」
「ア~ル~? あなたもマイヤを困らせないの」
「痛い!?」
普段はおっとりだけど、母さんは怒ると容赦なく、首根っこを掴まれて引き寄せられると尻を何度か叩かれて悶絶する俺であった……。
まだまだ狭い世界の冒険だけど、前世のように殺伐とした生活から離れてのんびり暮らせる今はとても楽しい。
「痛かったぁ……それじゃ僕、今から父さんのところへ行くから!」
「お仕事の邪魔をしたらダメよ」
「うんー!」
そして俺は三年前のリベンジを果たすため、父さんの居る書斎へと向かう。
そう、魔法を唱えることができるようになったからだ。
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