207 / 258
サンディラス国の戦い
200.交戦と不信感
しおりを挟む化けの皮が剥がれた水神へ一斉攻撃を仕掛ける俺達。
強さとしては『英雄』の一歩手前ということなので、この人数で倒しきれるかどうかというところ。
最悪、この場を逃れるためだけでもいいのでダメージを取っておきたい。
「だぁりゃぁぁぁぁ!!」
『小癪な! ぐ……!?』
「敵はディカルトだけじゃないぞ! くらえ!」
『馬鹿な、これほどたやすく我が体を斬るとは……! む」
「顔を狙え!!」
『小賢しいわ!』
口からジェット噴射のような水流を吐き出してマクシムスさん達が吹き飛び、着弾と同時に水しぶきが上がる。
直撃はしなかったが地面が切り裂かれているのを見る限り、触れたら骨ごと断たれそうな勢いだった。
「ディカルト、吐き出した水に当たると死ぬぞ」
「分かってるって! 邪魔な腕から斬り落としてやる」
『させるか!』
ディカルトの大剣を打ち払い爪で追い打ちをかけようとする水神の腕にアイシクルダガーを打ち込み、俺自身は水神の顎をマチェットで斬りつける。
高さがあるので薄皮一枚。
さらに全身を覆う体液が防御幕の役割を果たしているのでいまいち効果が分からないのが厄介だ。
ならばと俺は懐に潜り込んで一番力の入る高さの胴体へ一撃を加える。
『がああああああ!?』
「手ごたえあり……! どわ!?」
肉にまで刃が達し、血飛沫が上がる。
慌てて返り血を浴びないように避けた後、傷口へファイアランスを叩き込んでやると体をくねらせて俺とディカルトに体当たりを仕掛けてきた。
「うお!?」
「いってぇぇぇ!?」
「アルフェン君、額から血が出てるよ!?」
「回復魔法を使うから気にしなくていい! ロレーナ、気をつけろよ!」
「オッケー!」
血を舐めながら周囲を確認すると、マクシムスさん達がのたうち回る水神へ畳みかけているのが見えた。単独で戦うディカルトはヤツの爪をへし折っていて戦いに関しては真面目に強いとつい口笛を吹く。
『お、のれ……!』
「ぎゃあ!?」
「うあああ!?」
「ぬう!?」
いい感じに攻めていたがやはり地力はあるか……!
サンディラスの兵士たちが牙と水流で徐々に血まみれになり、ディカルトも笑顔だが傷だらけだ。
俺は回復魔法を自分にかけてからロレーナに声をかける。
「火薬の準備をしといてくれ、恐らく――」
「……なるほどね。任されたわ」
彼女は純粋な戦闘力だとリンカとあまり変わらないが火薬という特殊な武装により戦えていたりする。
さて、正念場だとマクシムスさんを食らおうとした水神の顔にファイアランスを投げつけながら一気に間合いを詰める。
『チッ、小僧……!!』
「もらった!」
『貴様から食われたいか!!』
マクシムスさんを食べるため地面すれすれまで顔を下げていた水神が、滑るように地面をつたい、俺に向かってくる。
それはそれで好都合だと真正面からマチェットを振る……のではなく、斜め前に移動する。
こうすることで小回りの利かない頭の横へ回り込ことができ、そして――
「うりゃあああ!」
『ぐあああああああ!? 口が裂ける!?』
「まだ終わりじゃないからな!」
口の端から引き裂くように剣を入れた後、口の端を踏みつけて眼前へ。
「うらぁ!」
『ぎゃぁぁぁぁぁ!? 目をぉぉぉ!?』
「トドメ!!」
俺が眉間にマチェットを突き立てようとした瞬間、暴れられて一息のところで振り落とされ、血まみれの顔のまま水神はロレーナへ向かう。
『女……貴様だけでも!』
「っと、そうはいかないのよね。そんな大口を開けてたら危ないわよ?」
『なん――』
水神は最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。なぜなら口に投げ入れられた火薬とファイアの魔法により大爆発を起こしたからだ。
『――!』
「……っ奮発したなずいぶん……!?」
「調合もちょっと違うからね! 後はお願い!」
ロレーナはいつの間に移動したのか鉄格子扉がある場所の向こう側に立って手を振っていた。あそこなら首は入れないから安心だ。
『お、のれ……貴様等、許さん……だが、ここは一度引かせてもらう……』
「逃がすとでも思ってんのか?」
『水の中までは追ってこれまい! サンディラスの王よ、貴様の娘は我が必ず食らってやる! 小僧共も必ず……! 必ずだ!!』
「ディカルト止めろ!」
「チッ、速ぇ!」
ズルルルル……と、物凄い勢いで首を引っ込ませていく水神に、魔法をぶつけながら追う俺と、途中を切断しようとするディカルト。
しかし――
「くそ、あと一息だったのに!!」
「しょうがねえ、ロレーナちゃんのアレを食らって気絶しなかったしな。あんだけ痛めつけてあの速さ……タフすぎるぜ」
「くっ……」
俺は地面を蹴った後、怪我をしたサンディラスの人達の傷を癒してからマクシムスさんに話しをする。
「あいつの行方はだいたい分かっている。このまま王都へ戻ろう、出兵が始まる前にダーハルを止めないと。ベッカードさんにも追いつけると思う」
「君は一体……?」
「いいから行こう、もうこの地底湖に戻ってくることはないはずだ」
「う、うむ。皆の者、ご苦労だった、ベッカードを追って王都へ戻るぞ」
それでいいと迅速な動きに小さく頷く。
ロレーナとディカルトも準備をし、クリスタリオンの谷を後にする。
『ブック・オブ・アカシック』の話では決戦は王都付近らしい。
龍脈を通って水のある大地ならどこにでも出ることができるとのことだ。
「……なあ、ロレーナにディカルト」
「ん?」
「なんでい」
「二人は龍脈って知ってる?」
「なにそれおいしいの?」
「聞いたことねえなあ」
「そっか」
「「?」」
二人は顔を見合わせて首を傾げていたが特にそれ以上ツッコまなかった。
マクシムスさんに龍脈について聞いてみるもやはり知らないという回答だったので、そういうものだろう。
「……」
それについて気になることはあるが今はいい。
この騒動が終わってからゆっくり考えるとするか。そう思いながらラクダを歩かせるのだった。
2
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる