上 下
8 / 11

第8話 女が薄汚れていくのは概ね男に原因があるという話

しおりを挟む
「奥さんと私、どっちが上手ですか?」

 え? なんて?
 必死なのは伝わってくるけど、ゴメン、意味不明だわ。

「三宅さんね、オレの奥さんとキミは比較の対象にはならないの。キミのアソコの色形とかフェラテクとか、オレは全然興味ないし。そもそもなんでオレなの? 二人のことはキミと須崎の二人で話し合えばいいじゃん」

 これって逆セクハラだよな、きっと。まさか、管理職が一般女子社員に逆セクハラされましたなんて、なかなか大声では言えないけど。

 ていうか、もし無理やり比較したとしても、アソコの色形に関しては理佐のほうが圧倒的に綺麗だし可愛いし、モノの咥え方や舌の絡ませ方、吸い付き方、すべてにおいて三宅さんは理佐の敵ではない。

「実は私、ショッピングモールでお会いしたときも、ショーツはつけてなかったんです……」

 なんと……ノーパンのまま、あのミニスカでモールを歩いてたのか。

「キミにはそういう……露出とか、ギリギリの状況を楽しむような趣味があるのか?」
「え……ええ。以前からではなくて、ここ2、3ヶ月のことです。須崎さんがだんだん私に対する興味を失っていくのが分かってきて……」
「というと? ……これはあくまでも相談を受けた前提で聞くんだが、セックスの回数が目に見えて減ってきたとか内容に変化があったとか、そういう意味と理解すればいいのか?」
「2、3ヶ月くらい前から、須崎さんはこれまでと違ってフィニッシュしなくなったり、途中で考え事をしていたり、といったことが多くなりました。はっきりとは分かりませんが、行為の最中もたぶんまともに私の顔を見ていないと思います」

 それは異常だな。マリッジブルーとかそういうレベルではない。

「それで焦って……無関係なオレを挑発したり、ストレスを露出に発散したり?」
「中野課長には申し訳なかったと思います。若くてとっても可愛い奥さんで、仲良しでいらっしゃって……それに引き換え自分はなんと惨めなんだろうと。それで奥さんが憎らしくなったので……」

 オレのことを好きとかいうならまだ分からなくもないが、そういう理由ってマジでムカつく。

「いや、困るよ。今日のこんなこと、奥さんどころか、誰にも言えないよ」

 ほんとうに男も女も、こういう偶発的な不可抗力みたいなのに遭遇した体験を、パートナーにちゃんと言えてないことが、きっとたくさんあるんだと思う。あとはもう努めて忘れるか、忘れられないなら記憶を墓場まで抱いていくしかない。

「ほんとうにごめんなさい。でも、婚約者にそんなふうにされると、不安になるのは分かりますよね? 私は魅力がないのかって、ずっと悩んでました。で、あるとき思い切って聞いてみたことがあるんです」
「なんて?」
「私のからだは誰かと比較して魅力がないの? あなたがもし風俗に通ってても文句は言わないから、正直に答えて? ……って」
「そしたらどんな返事が?」
「一瞬フッと冷たい笑いをしただけで、何も答えてくれませんでした」
「何も答えないって……」
「次第に電話にも出なくなって……もしかすると風俗じゃなくて他に好きな女の人が出来たのかもしれません。私、正直言って、もう須崎さんとの結婚は無理だと思います」

 そう言って彼女は少しだけ自虐的な笑い方をし、ほどなく嗚咽した。
 すまん。ほんとうにすまんが……オレ的には泣くより先にパンツ穿いてくれるほうが嬉しい。

 しかしまあ、その後、備品倉庫には誰も来ず、咥えられもせず没入もせず、なんとなく危機から離脱できたことをオレは神に謝する。

 席に戻ってみると、やはり須崎のキーホルダーは、さっき見た場所にさっき見た置き方で残っていた。

 そのまま終業まで待ったが、須崎は戻っても来ず、連絡もなかった。つまり彼は、自宅に帰れない事情があるか、もしくは帰る意思がないかのどちらかだ。

 オレは部下のことなので放置もできず、須崎の住んでいるマンションに来てみた。
 オレのボロアパートと比較してかなりちゃんとした新築で、いいとこ住んでるなーと思ったが、考えてみれば三宅さんを迎え入れる新居ということかも知れず、二人が結婚したらオレの給料よりかなり多くなるんだからなにも問題はない。

 いやマンションのことより須崎だ。

 部屋の前には誰もいなかった。むしろ当然のことで、ヤツが部屋の前で呆然としているはずもない。かといってインターホンを押しても何の反応もない。居留守を使われていたら分からないが、少なくとも表から見た雰囲気では誰もいない。もちろん、ヤツの部屋の灯りも確認できない。

 要するにどう見ても帰ってきた痕跡がゼロだった。

 ――もしかして。

 その時、オレは突然に動物的な勘が働いて、タクシーを捕まえて飛び乗ると……10分ほどで、もう二度と来ることはないと思っていたその特別な場所に降り立った。

 そう……廃校跡だ。
 あの教室に行けば須崎がいるような気がして、オレは一度だけ立ち寄ったことのあるⅢ-Cに向かった。

 もうそろそろ夜の気配が色濃く墨を流し始めていた。

「おや?」

 Ⅲ-Cではないフロアの教室に、ぼんやりと灯りがともっている。

「誰かいるのか?」

 オレは奇異に感じて、そっと覗いてみた。
 すると……。

「あっ……んっ……いいっ……」

 見知らぬオッサンが、見知らぬ女の子を後ろから突いている。女の子の制服は、理佐が着ていたものと同じだ。

 ――いったいこれは……。

 その場所を離れ、Ⅲ-Cに急いだ。しかし、また別の教室にも灯りがともっていて、覗いてみると今度はオッサンの竿を咥えている子がいる。見た感じ、結構可愛い。

 ――ぐちゅっ、じゅぼっ、ぐちゅっ、ぷぁぁ……。

 女の子は、やはり同じ制服を着ていて、年の頃は18くらいに見える。

 これはいったい……。もしかするとオレが知らなかっただけで、この廃校跡自体が巨大な売春宿になっているということではないだろうか。

 Ⅲ-Cに来てみると、やはり灯りがともっていた。
 オレは須崎がそこにいることを期待して、そっと中を覗いてみた。

 すると……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

翔太の冒険

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:966pt お気に入り:24

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:584

異文化の愛の旅

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:377pt お気に入り:3

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,888pt お気に入り:847

小さな怪獸

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:28

籠の鳥の啼く、

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:59

ネコ科男子は彼に孕まされたい!

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:226

処理中です...