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2話 魔王の力をいただきました
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頭がガンガンする。体も痛い。
なのに、活力だけは有り得ないほどに湧いてくる。
体の変調を自覚すると共に、自分がいまのいままで気絶していたことを思い出す。
ゆっくりまぶたを上げると、パアルちゃんと目が合った。
荒野に寝転んでいるにもかかわらず首から上だけ柔らかくて温かな感触に支えられているのは、彼女が膝枕をしてくれているからだ。
「ようやく起きたのです。レーナ、契約魔法は無事に完了したのです。我の力は全部、貴様に移ったのです。魔王の魔力も魔法も、貴様の思うがままなのです」
起きるまで待っててくれるなんて、なんて律儀な子なのだろう。
苦肉の策のハッタリとはいえ、手酷く脅しをかけたのが本当に悔やまれる。
逃げも襲いもせず、あまつさえ丁寧な説明まで添えてくれた。魔王なんて名乗ってるけど、きっと根は優しいに違いない。
「それじゃあ、パアルちゃんはただの女の子になったってこと?」
「貴様はバカなのです? 無限の魔力を持つ我が、ただの女の子なわけないのです」
憐れむような、蔑むような、呆れるような声で、シンプル極まりない罵声を吐かれる。
「魔力も全部くれたんじゃないの?」
「やっぱりバカなのです。魔神の末裔たる我にとって、無限の魔力は体質のようなものなのです。譲渡したとはいえ、なくなった分だけ補充されるだけなのです」
「なるほどね」
ゆっくりと立ち上がり、制服に付着した砂埃を払いつつ納得したように頷く。
すべて理解したような態度を取ってみたものの、当然ながら実際のところはよく分かっていない。
「それじゃあ、我はもう帰るのです。約束は果たしたのですから、絶対に追いかけてきちゃダメなのです」
「うーん、どうしようかな。気が変わったから、頭から食べちゃおうかな」
「ひっ!? もっ、もう二度と貴様の前には現れないのです! その辺で野垂れ死にすればいいのです! うわぁああぁぁああぁんっ!」
バカにされた仕返しに軽くからかったつもりが、本気で怖がられてしまった。
パアルちゃんは地味に酷い捨て台詞を吐き、大泣きしながら脱兎のごとく逃げ出す。
溜飲が下がるどころか、またしても罪悪感に襲われる。
「さて、と」
思考を切り替えるべく、頬をパンッと叩く。
魔王の力を譲渡されたというのは、まず間違いない。
全身にみなぎる活力は、無限の魔力によるもの。
魔法なんてラノベやゲームでしか触れてこなかったのに、自分が扱える魔法、必要な魔力、使い方などなど、およそ発動に必要な知識は余さず頭の中にある。
威力もなんとなく把握できているけど、こればかりは実際に使ってみないと明確にならない。
脳に直接データを移されたような、なんとも不思議な感覚だ。
頭や体の痛みが和らいでいくのは、魔王の力が浸透して馴染んだ証なのだろう。
異世界に召喚されて、魔王と出会って、奴隷にされそうだからハッタリで脅して、力を全部もらって。
経過した時間や一連の流れはひどく短いのに、内容の濃さと言ったらこれまでの人生の比ではない。驚きのあまり、一周回って平常心を保てている。
「くくく、これからは私が魔王だ」
上体を逸らし、左手を顔に当て、不敵に笑う。その姿はまさに、中二病をこじらせた女子高生。
せっかくだから、なんて思ったのが間違いだった。これは痛い。人の目がないのは幸いだけど、一人きりだからこそ余計に恥ずかしい。
部屋で自撮りの練習しているところをお母さんに見られたときより、何倍も恥ずかしい!
「【ファイア】!」
なんかもういたたまれなくなって、ヤケクソ気味に魔法を使ってみる。
照準を合わせるように右手を少し離れたところに向けて名前を叫ぶと、手のひらからハンドボールサイズの炎が飛び出した。
私が扱える魔法の中では、最も弱い。使ったのは初めてだけど、漠然と分かる。パンチよりデコピンの方が弱い、というような認識の仕方に近いだろうか。
火の玉は銃弾のような速さで進み、やがて百メートルほど先の地面に衝突する。
刹那、大地が爆ぜた。爆風が巻き起こり、轟音が耳をつんざき、地面を構成していた物質が粉々になって宙を舞い狂う。
「けほっ、けほっ」
砂埃を吸い込んで思わず咳き込んでしまうものの、逆に言えば咳き込む程度で済んでいる。
鼓膜が破れることもなく、火傷も負わず、かすり傷一つない。目立った被害で言うと、制服が汚れたぐらいだ。
とはいえ、目の前に生まれたクレーターと比べたら、多少の汚れなんて被害のうちに入らない。
これも魔王の力の恩恵なのだろうか。見た目に変化はないけど、前と比べて体がとてつもなく丈夫になっている。見知らぬ世界で生活することを考えると、すごく助かる。
まぁ、それはそれとして。
弱小魔法だと思っていた【ファイア】の破壊力がこれほどとは……。
「魔法、あんまり使わないでおこうかな」
私は大きく抉れて赤熱する地面を眺めながら、誰にともなくつぶやいた。
なのに、活力だけは有り得ないほどに湧いてくる。
体の変調を自覚すると共に、自分がいまのいままで気絶していたことを思い出す。
ゆっくりまぶたを上げると、パアルちゃんと目が合った。
荒野に寝転んでいるにもかかわらず首から上だけ柔らかくて温かな感触に支えられているのは、彼女が膝枕をしてくれているからだ。
「ようやく起きたのです。レーナ、契約魔法は無事に完了したのです。我の力は全部、貴様に移ったのです。魔王の魔力も魔法も、貴様の思うがままなのです」
起きるまで待っててくれるなんて、なんて律儀な子なのだろう。
苦肉の策のハッタリとはいえ、手酷く脅しをかけたのが本当に悔やまれる。
逃げも襲いもせず、あまつさえ丁寧な説明まで添えてくれた。魔王なんて名乗ってるけど、きっと根は優しいに違いない。
「それじゃあ、パアルちゃんはただの女の子になったってこと?」
「貴様はバカなのです? 無限の魔力を持つ我が、ただの女の子なわけないのです」
憐れむような、蔑むような、呆れるような声で、シンプル極まりない罵声を吐かれる。
「魔力も全部くれたんじゃないの?」
「やっぱりバカなのです。魔神の末裔たる我にとって、無限の魔力は体質のようなものなのです。譲渡したとはいえ、なくなった分だけ補充されるだけなのです」
「なるほどね」
ゆっくりと立ち上がり、制服に付着した砂埃を払いつつ納得したように頷く。
すべて理解したような態度を取ってみたものの、当然ながら実際のところはよく分かっていない。
「それじゃあ、我はもう帰るのです。約束は果たしたのですから、絶対に追いかけてきちゃダメなのです」
「うーん、どうしようかな。気が変わったから、頭から食べちゃおうかな」
「ひっ!? もっ、もう二度と貴様の前には現れないのです! その辺で野垂れ死にすればいいのです! うわぁああぁぁああぁんっ!」
バカにされた仕返しに軽くからかったつもりが、本気で怖がられてしまった。
パアルちゃんは地味に酷い捨て台詞を吐き、大泣きしながら脱兎のごとく逃げ出す。
溜飲が下がるどころか、またしても罪悪感に襲われる。
「さて、と」
思考を切り替えるべく、頬をパンッと叩く。
魔王の力を譲渡されたというのは、まず間違いない。
全身にみなぎる活力は、無限の魔力によるもの。
魔法なんてラノベやゲームでしか触れてこなかったのに、自分が扱える魔法、必要な魔力、使い方などなど、およそ発動に必要な知識は余さず頭の中にある。
威力もなんとなく把握できているけど、こればかりは実際に使ってみないと明確にならない。
脳に直接データを移されたような、なんとも不思議な感覚だ。
頭や体の痛みが和らいでいくのは、魔王の力が浸透して馴染んだ証なのだろう。
異世界に召喚されて、魔王と出会って、奴隷にされそうだからハッタリで脅して、力を全部もらって。
経過した時間や一連の流れはひどく短いのに、内容の濃さと言ったらこれまでの人生の比ではない。驚きのあまり、一周回って平常心を保てている。
「くくく、これからは私が魔王だ」
上体を逸らし、左手を顔に当て、不敵に笑う。その姿はまさに、中二病をこじらせた女子高生。
せっかくだから、なんて思ったのが間違いだった。これは痛い。人の目がないのは幸いだけど、一人きりだからこそ余計に恥ずかしい。
部屋で自撮りの練習しているところをお母さんに見られたときより、何倍も恥ずかしい!
「【ファイア】!」
なんかもういたたまれなくなって、ヤケクソ気味に魔法を使ってみる。
照準を合わせるように右手を少し離れたところに向けて名前を叫ぶと、手のひらからハンドボールサイズの炎が飛び出した。
私が扱える魔法の中では、最も弱い。使ったのは初めてだけど、漠然と分かる。パンチよりデコピンの方が弱い、というような認識の仕方に近いだろうか。
火の玉は銃弾のような速さで進み、やがて百メートルほど先の地面に衝突する。
刹那、大地が爆ぜた。爆風が巻き起こり、轟音が耳をつんざき、地面を構成していた物質が粉々になって宙を舞い狂う。
「けほっ、けほっ」
砂埃を吸い込んで思わず咳き込んでしまうものの、逆に言えば咳き込む程度で済んでいる。
鼓膜が破れることもなく、火傷も負わず、かすり傷一つない。目立った被害で言うと、制服が汚れたぐらいだ。
とはいえ、目の前に生まれたクレーターと比べたら、多少の汚れなんて被害のうちに入らない。
これも魔王の力の恩恵なのだろうか。見た目に変化はないけど、前と比べて体がとてつもなく丈夫になっている。見知らぬ世界で生活することを考えると、すごく助かる。
まぁ、それはそれとして。
弱小魔法だと思っていた【ファイア】の破壊力がこれほどとは……。
「魔法、あんまり使わないでおこうかな」
私は大きく抉れて赤熱する地面を眺めながら、誰にともなくつぶやいた。
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