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「わっ!」
リチャードは驚いたのか、後ろに後ずさり、竹藪に隠れてしまった。そりゃそうだろうな。
「わっ、わっ、わっ」
なんとなくドラマチック感を演出したくて了承を得ずにやってしまったけれど、前世の日本人的感覚に当て嵌めたらダメなやつだったな。しかし私は強キャラ設定を崩さない。強キャラは謝らない。
「私が突然男の子にキスする変態ではないってこと、そろそろあなたも実感してくれていると思うんだけど」
「えっ……あれ、本当だ」
リチャードは竹藪から戻ってきて、その場で足踏みをし、今度はぐるぐる回り始めた。
「ざわざわするのが落ち着いてきた……」
魔王の眷属にされていた所を、無理矢理私の眷属にしたのだ。私が人間を害するな、と願えばリチャードはそのままだ。ケット・シーは気まぐれで排他的だけれど、基本的には善寄りの存在だ。
「ありがとう」
リチャードはすっかり明るい声で、私に服従の印か、頭を擦りつけてきた。まだ何も解決していないのだけれどね。
「お座り」
強制力があるわけではないが、リチャードは素直にお座りした。
「今度は肉球と肉球を合わせて。私の中の魔力が動いているのがわかる?」
「うん」
「目を閉じて、私の魔力の流れをそのまま真似してみて。そう、あなたは人間に戻る」
ピンクの肉球と黒い肉球を合わせて『人化』の術を使う。リチャードがなんとか真似をしようとするのを、魔力を流し込んで補助してやる。
「……よし!」
ぱちっと目を開けると、そこには人間の姿に戻った少年のリチャードがいた。
「……治った!」
あ、声変わり前なのね。虎の時はイケボだったのに。てか全裸だな。まあ、人間には魔力を織って服っぽく見せかける、なんてできないか。
「……あなたはミヤコ?」
私もちゃんと人間のメイドに化けられているみたいだ。顔だけ猫のままとか、そんなオチはないっぽい。
「知らない間に違う人にすり替わってたらびっくりしない?」
「お姉さんなんだ」
全裸のリチャードがもじもじし始めたので、魔力を編んで、見せかけの簡単な服を作ってやる。ケット・シーは万能なのだ。
「練習すれば自在に人間と白虎を使い分けられるはずよ」
おそらくゲームのリチャードは魔王軍に加入してようやくその術を身につけたのだけれど、周囲のサポートがあれば大丈夫だろう。
「もう、虎にはなりたくない……」
「うまくやれば仲間を守る力になるし、なんとか呪いを剥がしたところで、次の犠牲者が出るかもしれないから、あなたが王子として責任を持って管理すべきだと思うわ」
「……そっか。うん、そうだね」
真面目な顔をしたリチャードのお腹がぐううと鳴った。先程の包みを改めて差し出す。
「食べられそう?」
「……うん」
リチャードは落ち着いた様子で食事をとり始めた。てっきり、がっつくかぼろぼろ泣き出すのかと思っていたけれど、大物になる素質は備えているということね。
リチャードは目を閉じ、ゆっくりと咀嚼し、ハーブティを飲み干した。
「ミヤコは食べないの?」
「さっきご馳走してもらったから大丈夫」
もう睡眠薬入りのお茶はいらないな。間違えて飲まないよう、植物由来なのでこのまま木の根元に流してしまおう。
「さて、とりあえずはクラウスのところに戻りましょうか」
腹ごしらえをしたら、いよいよ反撃のターンよ、と告げると、リチャードは静かに頷いた。
あわや大惨事、転落人生の一歩手前。設定上は温厚なリチャードとは言え、到底許す事はできないはずだ。
しかし、今大臣の罪を追求したところで、王子とは言え子供のリチャードの証言ぐらいしか証拠がなく、私に関してはただの怪しい女だし……。
他の味方を集めるところから始めないといけないのかしらね? リチャードが手を繋いで欲しいというので快く了承する。心細いだろうからね。
リチャードは驚いたのか、後ろに後ずさり、竹藪に隠れてしまった。そりゃそうだろうな。
「わっ、わっ、わっ」
なんとなくドラマチック感を演出したくて了承を得ずにやってしまったけれど、前世の日本人的感覚に当て嵌めたらダメなやつだったな。しかし私は強キャラ設定を崩さない。強キャラは謝らない。
「私が突然男の子にキスする変態ではないってこと、そろそろあなたも実感してくれていると思うんだけど」
「えっ……あれ、本当だ」
リチャードは竹藪から戻ってきて、その場で足踏みをし、今度はぐるぐる回り始めた。
「ざわざわするのが落ち着いてきた……」
魔王の眷属にされていた所を、無理矢理私の眷属にしたのだ。私が人間を害するな、と願えばリチャードはそのままだ。ケット・シーは気まぐれで排他的だけれど、基本的には善寄りの存在だ。
「ありがとう」
リチャードはすっかり明るい声で、私に服従の印か、頭を擦りつけてきた。まだ何も解決していないのだけれどね。
「お座り」
強制力があるわけではないが、リチャードは素直にお座りした。
「今度は肉球と肉球を合わせて。私の中の魔力が動いているのがわかる?」
「うん」
「目を閉じて、私の魔力の流れをそのまま真似してみて。そう、あなたは人間に戻る」
ピンクの肉球と黒い肉球を合わせて『人化』の術を使う。リチャードがなんとか真似をしようとするのを、魔力を流し込んで補助してやる。
「……よし!」
ぱちっと目を開けると、そこには人間の姿に戻った少年のリチャードがいた。
「……治った!」
あ、声変わり前なのね。虎の時はイケボだったのに。てか全裸だな。まあ、人間には魔力を織って服っぽく見せかける、なんてできないか。
「……あなたはミヤコ?」
私もちゃんと人間のメイドに化けられているみたいだ。顔だけ猫のままとか、そんなオチはないっぽい。
「知らない間に違う人にすり替わってたらびっくりしない?」
「お姉さんなんだ」
全裸のリチャードがもじもじし始めたので、魔力を編んで、見せかけの簡単な服を作ってやる。ケット・シーは万能なのだ。
「練習すれば自在に人間と白虎を使い分けられるはずよ」
おそらくゲームのリチャードは魔王軍に加入してようやくその術を身につけたのだけれど、周囲のサポートがあれば大丈夫だろう。
「もう、虎にはなりたくない……」
「うまくやれば仲間を守る力になるし、なんとか呪いを剥がしたところで、次の犠牲者が出るかもしれないから、あなたが王子として責任を持って管理すべきだと思うわ」
「……そっか。うん、そうだね」
真面目な顔をしたリチャードのお腹がぐううと鳴った。先程の包みを改めて差し出す。
「食べられそう?」
「……うん」
リチャードは落ち着いた様子で食事をとり始めた。てっきり、がっつくかぼろぼろ泣き出すのかと思っていたけれど、大物になる素質は備えているということね。
リチャードは目を閉じ、ゆっくりと咀嚼し、ハーブティを飲み干した。
「ミヤコは食べないの?」
「さっきご馳走してもらったから大丈夫」
もう睡眠薬入りのお茶はいらないな。間違えて飲まないよう、植物由来なのでこのまま木の根元に流してしまおう。
「さて、とりあえずはクラウスのところに戻りましょうか」
腹ごしらえをしたら、いよいよ反撃のターンよ、と告げると、リチャードは静かに頷いた。
あわや大惨事、転落人生の一歩手前。設定上は温厚なリチャードとは言え、到底許す事はできないはずだ。
しかし、今大臣の罪を追求したところで、王子とは言え子供のリチャードの証言ぐらいしか証拠がなく、私に関してはただの怪しい女だし……。
他の味方を集めるところから始めないといけないのかしらね? リチャードが手を繋いで欲しいというので快く了承する。心細いだろうからね。
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