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里はとんでもない大騒ぎになっており、両親が私の捜索を依頼するために神龍に会いに行こうとしているところだった。
しこたま怒られたし、私を攫った人間たちに報復すると里の大人たちは息巻いていたけれど、お土産のお菓子や果物を見せたらご機嫌になった。面倒くさいから買いにいかないだけで、本当は珍しい食べ物が欲しいんだよね、みんな。
火の魔石は族長に献上して、コタツを作ってもらうつもり。
桃の種は食べ終えた後綺麗に洗って、家の近くに埋める。
桃栗三年、柿八年。
毎日ゴロゴロしていると、時はあっと言う間に過ぎていく。
何年経ったんだっけ? そんな事を考えながら、桃の木に登って実をもぐ。
ケット・シーの里のショップで売っている桃は食べると体力が全回復する。理由はわからん。
勇者パーティーが訪ねてきたら売ってあげてもいいけれど、一向に世界が危機になる兆しはない。平和でよろしい。
「今日もありがとうございます。私をケット・シーに転生させてくださって」
ナムナムと神に感謝して。桃の実をそっと泉に沈め、魔の森に送り込む。
魔力を帯びているので腐ることもないし、森でレベル上げ中の冒険者たちが食べて生き延びればいいと思う。魔物が食べて強力になっている可能性もあるけどね……。
「ん?」
水面が、魔力の波動で揺れている。
誰かが里に侵入しようとしている。
『……見つけた!』
……おいおい、まさか、今も記憶の片隅に残るこの美声は……。声がわり、した?
『ミヤコ! ここにいるのか!?』
出入りするための泉の位置は、族長に頼んでクラウスが発見した場所から変えてもらった。相当にレベルが高くないとここまで来れないはずだ。
「その声は、リチャード?」
流石に同じボケを二回繰り返す気にはならなかった。
泉の底から這い上がってきたのは、すっかり大きくなり、きらんきらんの王子様スタイルになったリチャードだった。まぶしっ。
「ミヤコ! 会いたかった! 本当に、会いたかった……」
十八歳くらい? ってことは、まだゲーム開始前かな~。しかし、後ろから仲間がついてくる気配はない。まさか一人で来たのかしら。まさかね。
「身長も伸びたし、声変わりもしたし、レベルも上げたから、会いに来た」
すっごいキラキラの顔で言われても。ゲームの時のシリアスで影のある感じが台無しでなんかちょっと解釈違い感あるかも……まあ、本人が元気そうだからいいけれど。
「いや~、強くなれってのはね、来るべき魔王復活にむけてね。ほら、大臣を操っていた黒幕がいるじゃん?」
「魔王? もう倒したけど。それがどうかした?」
「マジで!?」
知らない間にゲーム終わってた。始まってなかったとも言える。さすが魔族からすると赤ちゃんみたいな年齢で四天王まで上り詰めた男。
あ、やばい。ステータスがカンストしてる。これ一人旅で隠しボスとか倒しに行くレベルのやり込み。
「ミヤコが送ってくれる桃を食べながら、魔の森で修行を続けたんだ。デュークもクラウスもアベラールも途中までは付き合ってくれたんだけど、皆飽きたって言って。最近は城下町の冒険者たちとパーティーを組んだりしてたんだ。そうこうしてるうちに父上に呼び出されて。それですぐ行ってきたよ」
「あ、はは……そうなの」
「当面の敵もいないみたいだし、どうにかできるぐらい強くなったかなと思って試しにきたんだ」
「えっ」
子どもの白虎が私のことをどうにかできるわけがないと言われたのを彼は覚えていた。
だから逃げても捕まえられるぐらい強くなってから迎えに来た、と言う。
もしかして私、実力行使されて誘拐されちゃう? それってもしかしなくても、もうリチャードが魔王みたいなもんなのでは……。
リチャードはそっと手を差し伸べて、私を瞳の高さまで持ち上げた。
「助けてもらった。幸せにはなれた。でも、ミヤコがいないと満足できない」
推し声優と同じ声で喋るリチャードは、戦闘服じゃなくて、王子様みたいな服を着ていて。さらさらな銀の髪に、もう魔族じゃないからほとんど黒に近い藍色の目をしているけれど、よく見たら瞳の縁が金色で。
「世界を見て回ったけど、欲しいものなんて特になかった。いくら強くなったところで、大事なことは他にある」
私の記憶と全然違うリチャードは、孤独じゃないのに。それでもまだ、ケット・シーをそばに置きたいのだと言う。
「魔の森に住みたいなら継承権を捨てて移住するし、他の国を見たいならついていく。魔王城に住みたいなら改築する」
ぎゅっと抱きしめられ、後頭部に顔をうずめられる。いわゆる『猫を吸う』構え。この感情、女子枠なのかペット枠なのか判断に困るところ。
「いやいやいや。私、ケット・シーですよ?」
「でも人化できるだろう。僕だって白虎になれる」
そう言って、リチャードはポンと白銀の虎になった。
「一緒にお城に行こう。皆、ミヤコに会いたがっている」
「まあ、せっかくなので。顔を見せるだけなら」
このままここに移住されると、守護神を失った国の人から顰蹙を買いそうだし、突然現れた来訪者に村はパニックに陥って、誰も家から出てこないし。
子猫みたいに首の後ろを掴まれて、私は里を出て、お城へゆく。それだと威厳がないので、白虎を従えているみたいに、背中にでも乗ろうか。
「ミヤコに一緒にいてもらうために、僕は何をすればいい?」
四天王ではないリチャードと、はぐれではないケット・シーの私。
魔王がいなくなり、ゲームが始まらなかった世界で、これから何か、やるべき事があるのだろうか? いや、ない。
「おきらくに過ごせばいいんじゃない? どうせ、修行ばっかりでろくに遊んでないんでしょ」
「確かに」
未来はわからない。まあ、適当に遊ぶか。どうせ、時間は沢山あるのだし。
しこたま怒られたし、私を攫った人間たちに報復すると里の大人たちは息巻いていたけれど、お土産のお菓子や果物を見せたらご機嫌になった。面倒くさいから買いにいかないだけで、本当は珍しい食べ物が欲しいんだよね、みんな。
火の魔石は族長に献上して、コタツを作ってもらうつもり。
桃の種は食べ終えた後綺麗に洗って、家の近くに埋める。
桃栗三年、柿八年。
毎日ゴロゴロしていると、時はあっと言う間に過ぎていく。
何年経ったんだっけ? そんな事を考えながら、桃の木に登って実をもぐ。
ケット・シーの里のショップで売っている桃は食べると体力が全回復する。理由はわからん。
勇者パーティーが訪ねてきたら売ってあげてもいいけれど、一向に世界が危機になる兆しはない。平和でよろしい。
「今日もありがとうございます。私をケット・シーに転生させてくださって」
ナムナムと神に感謝して。桃の実をそっと泉に沈め、魔の森に送り込む。
魔力を帯びているので腐ることもないし、森でレベル上げ中の冒険者たちが食べて生き延びればいいと思う。魔物が食べて強力になっている可能性もあるけどね……。
「ん?」
水面が、魔力の波動で揺れている。
誰かが里に侵入しようとしている。
『……見つけた!』
……おいおい、まさか、今も記憶の片隅に残るこの美声は……。声がわり、した?
『ミヤコ! ここにいるのか!?』
出入りするための泉の位置は、族長に頼んでクラウスが発見した場所から変えてもらった。相当にレベルが高くないとここまで来れないはずだ。
「その声は、リチャード?」
流石に同じボケを二回繰り返す気にはならなかった。
泉の底から這い上がってきたのは、すっかり大きくなり、きらんきらんの王子様スタイルになったリチャードだった。まぶしっ。
「ミヤコ! 会いたかった! 本当に、会いたかった……」
十八歳くらい? ってことは、まだゲーム開始前かな~。しかし、後ろから仲間がついてくる気配はない。まさか一人で来たのかしら。まさかね。
「身長も伸びたし、声変わりもしたし、レベルも上げたから、会いに来た」
すっごいキラキラの顔で言われても。ゲームの時のシリアスで影のある感じが台無しでなんかちょっと解釈違い感あるかも……まあ、本人が元気そうだからいいけれど。
「いや~、強くなれってのはね、来るべき魔王復活にむけてね。ほら、大臣を操っていた黒幕がいるじゃん?」
「魔王? もう倒したけど。それがどうかした?」
「マジで!?」
知らない間にゲーム終わってた。始まってなかったとも言える。さすが魔族からすると赤ちゃんみたいな年齢で四天王まで上り詰めた男。
あ、やばい。ステータスがカンストしてる。これ一人旅で隠しボスとか倒しに行くレベルのやり込み。
「ミヤコが送ってくれる桃を食べながら、魔の森で修行を続けたんだ。デュークもクラウスもアベラールも途中までは付き合ってくれたんだけど、皆飽きたって言って。最近は城下町の冒険者たちとパーティーを組んだりしてたんだ。そうこうしてるうちに父上に呼び出されて。それですぐ行ってきたよ」
「あ、はは……そうなの」
「当面の敵もいないみたいだし、どうにかできるぐらい強くなったかなと思って試しにきたんだ」
「えっ」
子どもの白虎が私のことをどうにかできるわけがないと言われたのを彼は覚えていた。
だから逃げても捕まえられるぐらい強くなってから迎えに来た、と言う。
もしかして私、実力行使されて誘拐されちゃう? それってもしかしなくても、もうリチャードが魔王みたいなもんなのでは……。
リチャードはそっと手を差し伸べて、私を瞳の高さまで持ち上げた。
「助けてもらった。幸せにはなれた。でも、ミヤコがいないと満足できない」
推し声優と同じ声で喋るリチャードは、戦闘服じゃなくて、王子様みたいな服を着ていて。さらさらな銀の髪に、もう魔族じゃないからほとんど黒に近い藍色の目をしているけれど、よく見たら瞳の縁が金色で。
「世界を見て回ったけど、欲しいものなんて特になかった。いくら強くなったところで、大事なことは他にある」
私の記憶と全然違うリチャードは、孤独じゃないのに。それでもまだ、ケット・シーをそばに置きたいのだと言う。
「魔の森に住みたいなら継承権を捨てて移住するし、他の国を見たいならついていく。魔王城に住みたいなら改築する」
ぎゅっと抱きしめられ、後頭部に顔をうずめられる。いわゆる『猫を吸う』構え。この感情、女子枠なのかペット枠なのか判断に困るところ。
「いやいやいや。私、ケット・シーですよ?」
「でも人化できるだろう。僕だって白虎になれる」
そう言って、リチャードはポンと白銀の虎になった。
「一緒にお城に行こう。皆、ミヤコに会いたがっている」
「まあ、せっかくなので。顔を見せるだけなら」
このままここに移住されると、守護神を失った国の人から顰蹙を買いそうだし、突然現れた来訪者に村はパニックに陥って、誰も家から出てこないし。
子猫みたいに首の後ろを掴まれて、私は里を出て、お城へゆく。それだと威厳がないので、白虎を従えているみたいに、背中にでも乗ろうか。
「ミヤコに一緒にいてもらうために、僕は何をすればいい?」
四天王ではないリチャードと、はぐれではないケット・シーの私。
魔王がいなくなり、ゲームが始まらなかった世界で、これから何か、やるべき事があるのだろうか? いや、ない。
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