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しおりを挟む家を追い出されてすぐ、さすがの私も精神がまいってしまい、することもなく教会の椅子に座ってぼへーっとしていた。
『大丈夫?』
その時声をかけてきたのがレオだ。普通に怪しいと思ったので、素っ気ない態度を取った。
しかし、私は次の日も同じ場所でぼんやりしていたので、レオは私に行くところがないのだと理解したみたいだった。
あんまりしつこく質問してくるので「家出」して行くところがない事、ちょっとだけ治癒魔法が使える事を教えた。
彼は仕事を紹介してくれた。教会が経営している救護院──身よりのない人が行く病院みたいなところ。
仕事はまあまあで、嫌なこともあったけど普通に感謝もされたので、うん、悪くはなかった。レオがたまに様子を見にきてくれたので、さすがの私も大分ときめいた。
でも救護院の経営状態は最悪で、寄付なんかじゃ到底追いつかないし、魔力もすぐに枯れてしまう。そこで私は、王都の外へ薬草を取りに行く事にした。
冒険者デビューってやつだ。思えば私は、本当に馬鹿だったのだと思う。
この辺じゃ滅多に出ないらしい猛獣が現れて、私は必死に逃げたけれど、腕に噛み付かれて、もうダメだ──と思ったその時。
一本の矢が「そいつ」を撃ち抜いた。
レオ……ではなくその仲間。現実はそこまでうまくハマるようにできていない。
もちろん、レオが遠くでとっくみ合いをしている私と猛獣を見つけて、頼んでくれたからなんだけれど。
私はボロボロの血みどろで、薬草を握りしめたまま運ばれて、手厚い治療を受けた。地獄の沙汰も金次第、とはよく言ったもので。傷はすっかり良くなった。
レオは寄付の金額が少ないせいで、私を危険な目に合わせてしまったと言った。
それとこれとは全く関係がないし、そんなことをレオがする必要もないのだが、その申し訳なさそうな顔を見て、私は彼のことがすごく好きになってしまった。我ながら、ちょろいと思う。いや、ちょろくもないか。
レオは、自分がいないときにお金に困ったら、と言ってどこかのダンジョンで拾ったと言う金のバングルをくれた。彼の瞳の色と同じペリドットが嵌っていて、魔除けの効果もあると言うご立派な代物だ。
この人、もしかして、私のことが好きだったりするのかしら。
そんな希望的観測を抱かないでもなかったが、見ている限りレオは誰にでも優しくてモテていたので、私の勘違いなんだなと思うことにした。
でも、彼の周りの女の子たちの中で、治癒魔法を使えるのは私だけだったので、商隊の護衛とか、魔物に襲われた村の救助とか、そう言った依頼の時に誘われるのは私だけで、その事実は私のみみっちい自尊心を満足させた。
それも全て、思い出だ。彼はきっと、遠い世界の人だった。神様がひねくれた私にくれた、生きていくための美しい思い出。それがレオだ。
彼はいなくなってしまった。いつ故郷に戻ったのか、私は知らない。
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