異世界恋愛短編集

辺野夏子

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 レオ。

 レオ。

 レオ? そんなはずはない。いくらなんでも、レオはそんなバカな事はしない。

「この人たち、どんな人たちでした?」

 私の声は震えている。おそらくめちゃくちゃ変なやつだと思われた。


 非常に残念なことに、彼らは私の知っている人たちのようだった。一人でふらっとやってきた女性が、山に入ってしまった。自殺志願者なのかもしれないと伝えたところ、とんでもない勢いで彼女を追って山に入ってしまったらしい。

 一体、何が彼らをそんなロマンチックな行動に走らせたのかは、さっぱり分からない。

 私は走る。とりあえず走る。走るってか登る。

 やっぱり愛人になっておけばよかった。故郷に戻るって、家業を継ぐって、一体なんだった訳?

 馬鹿だ。馬鹿だ。私は馬鹿だった。変に意地を張って、スカした態度を取って、彼から離れてしまった。

 本当に──本当に、自分はどうしようもない女だ。
 冒険者のままなら、レオのままなら、そんな事、私ならさせなかったのに。

 整備されていても、山道は山道だ。私の足ではとても素早く登れない。

 ズズズ、と地響きがして、嫌な魔力を感じる。エンシェントドラゴンだ。

 ──とても勝てない。

 その圧倒的な魔力に私はビビって、ちょっと漏らしそうになった。

 でも、エンシェントドラゴンが暴れていると言う事は。

 今、戦っているのだ。

 行かなければいけない。ばかだ、本当にわたしはばかだった。

 お願い、レオ、生きていて。あなたがいなかったら、私も死んじゃうよ。お願いだから、どうか死なないで。五体満足じゃなかったとしても、私が養ってあげるから、とりあえず生きていて。ついでに、他の仲間も生きていて──


 熱風が押し寄せてきて、私はその勢いですっ転んだ。風圧が酷くて、立ち上がれないので這いずって山を登る。

 頭の冷静な部分と体がバラバラで、多分傍目から見たらとんでもなく変な動きをしていると思う。

 神様、お願いします。心を入れ替えて、真面目に──素直になりますから。どうか私からレオを奪わないでください。お願いします。

 今までの人生で一度もなかったぐらい、真剣に祈りながら、最後の岩によじ登る。

 とたんに視界が開けて、平らな地面に──多分、戦ったせいでそうなったんだろうけど──

 とにかくそこに、レオはいた。

 生きてる。立ってる。五体満足だ。他の仲間も生きてる。


「……レオ!! レオーーーーーー!!」


 自分でもびっくりするほどの大きな声が出た。

 世界がひどくゆっくりになって、全ての動きが止まったようになる。

 レオがこちらを振り向いた。

 頭のどこかで、しまった、戦闘の最中に話しかけるなんて、私はなんて足手まといな──むしろ、これ私が敗因になるんじゃ──と思ったが、なぜか全員の動きが止まって竜までこちらを見ている。

「……レオ」

 全員黙っていて、誰も動かないので私は仕方なく集団に近づいた。みんな真剣そのものの顔つきをしていて、私だけが場違いにべそべそしている。

「レオ、ダメだよ、レオ。勝てないから、帰ろうよっ。私を囮にしてもいいからっ」

「……もしかしなくても、こちらの人が、例の「アトリア」さんですか?」

 全然知らない魔術師、どう考えても「グリム」さんだろうけど、その人がめちゃくちゃ嫌そうな顔で私を指差してきた。

 レオはまっすぐ私に近づいてきて、頬をペチペチした後、右手にはめているバングルを確認し、その後竜の方を振り向いた。

「え?じゃあ、山に入った人って誰?」
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