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午後、リリアローズはタケモトに誘われてもう一度ゴルフの練習をする事にした。左利きと右利き、つまりリリアローズは人とは反対の向きで練習するため、自然と向かい合わせになり、会話も弾む。
「君って、絶対才能あるよ」
「そ、そうかしら」
タケモトはとにかく、リリアローズを褒めちぎった。体幹がいいとか、パワーがあるとか、体力があるとか、ゴルフには精神力が重要なんだとか、いろいろである。
リリアローズは「あの見た目でリリアローズって」とたまに揶揄されてしまう容姿であった。背が高く、太っているわけではないが骨太で、確かに体力はある方だった。
「でも貴族令嬢としては、失格なのよね、私」
「絶対に、そんな事はない! いやむしろ貴族のシステム自体が俺には納得いかない!」
タケモトは、いかに女性が健康的な方が素晴らしいのかを、熱く語った。君はそのままでいい、むしろそのままでいてほしい。そう語る彼の顔は、真剣そのものである。
それを聞いているうちに、リリアローズの自尊心は完全に復活した。
日は暮れ始めている。ゴルフ練習場は営業を終了し、夕暮れを背に、ボールを回収する人々の様子を、二人はじっと見つめていた。
「タケモト君、今日はありがとう。来てよかった。また学校でね」
帰宅しようとするリリアローズの背に、タケモトは声をかけた。
「リリアローズ……さん。よかったら、夕食でも一緒にどう? もちろん、ご家族も一緒に。うなぎがあるんだ」
その言葉に、リリアローズは勢いよく振り返った。
「うなぎって、もしかしてゼリー寄せじゃなくて「うな重」のこと?」
「ああ。御馳走する。いくらでも。今夜はうなぎパーティーをしようじゃないか」
リリアローズの心は踊った。タケモトが開発した「蒲焼」によって、うなぎは爆発的に普及した。
最近は環境保護の名目で、出荷数が制限されているため、価格が高騰している。貴族とは言え、なかなか家族全員で気軽に食べられるものではない。
「本当っ!? 嬉しい。タケモトくんありがとうっ。一度、大盛りのうな重を食べてみたかったの」
「君に食べてほしい。やっと納得のいく味のタレを開発してもらえたんだ」
「素敵……」
日は沈み始めている。リリアローズとタケモト、お互いの頬が染まっていることを、二人は知らなかった。
「いやはや、同級生なのは知っていたがリヴァー伯爵のお孫さんにご招待いただけるとは」
リリアローズの両親は、汗を拭った。
一家は王都にある小洒落たレストランに移動していた。ここもまた、伯爵家が経営する店である。
全ての客席が個室になっていて、真面目な話をするにはうってつけと言う触れ込みだ。
「お待たせしました」
タケモトが入室してきたが、その背後には伯爵がいたために、リリアローズの両親は若干小刻みに震え始める。彼はこの国指折りの資産家である。
リリアローズの実家など、その気になればゴルフボールの様に、パコーン!とはじき飛ばされてしまうのである。
父と伯爵、そしてタケモトはうなぎそっちのけで何やら小難しい話を始めている。
リリアローズは難しい話には興味がないので、うなぎを食べる。ライスを埋め尽くすほどの大きさの蒲焼。それだけではない、ライスの中にも蒲焼が挟み込まれており、いわゆるサンドイッチ状態だ。
ついでにうどんも食べる。
この、ほんのちょっと冷たいうどんがついているのが、なんとも言えず素敵なのだわ。とリリアローズは微笑んだ。
「この子はよう食べるの」
突然、伯爵がそんなことを言い、場の空気は凍りついた。なにせ「令嬢のわりに食べ過ぎる」事で婚約破棄されたリリアローズである。
「君って、絶対才能あるよ」
「そ、そうかしら」
タケモトはとにかく、リリアローズを褒めちぎった。体幹がいいとか、パワーがあるとか、体力があるとか、ゴルフには精神力が重要なんだとか、いろいろである。
リリアローズは「あの見た目でリリアローズって」とたまに揶揄されてしまう容姿であった。背が高く、太っているわけではないが骨太で、確かに体力はある方だった。
「でも貴族令嬢としては、失格なのよね、私」
「絶対に、そんな事はない! いやむしろ貴族のシステム自体が俺には納得いかない!」
タケモトは、いかに女性が健康的な方が素晴らしいのかを、熱く語った。君はそのままでいい、むしろそのままでいてほしい。そう語る彼の顔は、真剣そのものである。
それを聞いているうちに、リリアローズの自尊心は完全に復活した。
日は暮れ始めている。ゴルフ練習場は営業を終了し、夕暮れを背に、ボールを回収する人々の様子を、二人はじっと見つめていた。
「タケモト君、今日はありがとう。来てよかった。また学校でね」
帰宅しようとするリリアローズの背に、タケモトは声をかけた。
「リリアローズ……さん。よかったら、夕食でも一緒にどう? もちろん、ご家族も一緒に。うなぎがあるんだ」
その言葉に、リリアローズは勢いよく振り返った。
「うなぎって、もしかしてゼリー寄せじゃなくて「うな重」のこと?」
「ああ。御馳走する。いくらでも。今夜はうなぎパーティーをしようじゃないか」
リリアローズの心は踊った。タケモトが開発した「蒲焼」によって、うなぎは爆発的に普及した。
最近は環境保護の名目で、出荷数が制限されているため、価格が高騰している。貴族とは言え、なかなか家族全員で気軽に食べられるものではない。
「本当っ!? 嬉しい。タケモトくんありがとうっ。一度、大盛りのうな重を食べてみたかったの」
「君に食べてほしい。やっと納得のいく味のタレを開発してもらえたんだ」
「素敵……」
日は沈み始めている。リリアローズとタケモト、お互いの頬が染まっていることを、二人は知らなかった。
「いやはや、同級生なのは知っていたがリヴァー伯爵のお孫さんにご招待いただけるとは」
リリアローズの両親は、汗を拭った。
一家は王都にある小洒落たレストランに移動していた。ここもまた、伯爵家が経営する店である。
全ての客席が個室になっていて、真面目な話をするにはうってつけと言う触れ込みだ。
「お待たせしました」
タケモトが入室してきたが、その背後には伯爵がいたために、リリアローズの両親は若干小刻みに震え始める。彼はこの国指折りの資産家である。
リリアローズの実家など、その気になればゴルフボールの様に、パコーン!とはじき飛ばされてしまうのである。
父と伯爵、そしてタケモトはうなぎそっちのけで何やら小難しい話を始めている。
リリアローズは難しい話には興味がないので、うなぎを食べる。ライスを埋め尽くすほどの大きさの蒲焼。それだけではない、ライスの中にも蒲焼が挟み込まれており、いわゆるサンドイッチ状態だ。
ついでにうどんも食べる。
この、ほんのちょっと冷たいうどんがついているのが、なんとも言えず素敵なのだわ。とリリアローズは微笑んだ。
「この子はよう食べるの」
突然、伯爵がそんなことを言い、場の空気は凍りついた。なにせ「令嬢のわりに食べ過ぎる」事で婚約破棄されたリリアローズである。
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