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「リベルタス家始まって以来の天才と呼ばれたシュシュリアに癒しの力が備われば引く手あまたですね」
流石のヴォルフラムも視力が回復したことに喜びを隠しきれないらしく、あれからわたくしにゴマをすってくる様になった。なんだか微妙に落ち着かない時もあるけれど、このまま永久にわたくしに頭が上がらないようにさせてやるわ。
「そうね。前線に出ないで後方支援に回れるからわたくしの生存確率はうなぎのぼりよ」
「僕が敵将だったら後方部隊から叩きますが。シュシュリアは目立つし、挑発すれば前線に出てきそうだし」
「……やる気がそがれるような事言わないでくれる?」
……ヴォルフラムの目は治った。けれど、命がなくなってはどうにもならない。わたくしの次なる目的はさらなる禁呪──蘇生魔法を覚える事だ。
蘇生魔法と言っても万能ではない。肉体に生命を維持できるだけの機能が残っていて、まだ本人の魔力が残っている場合にしか効果がないし、常に術者の魔力が届く範囲に居なくてはいけない。
崩れ行く体から離れゆく魂を魔力でつなぎとめる。術者にもたらす負荷は生半可なものではない。
「術者の魔力ではなく、多数の生け贄をもって魔力の供給源とすることができる、か……」
研究がなかなかはかどらなくて、苦し紛れに本の内容を読み上げると、ヴォルフラムはぎょっとした様子で顔を上げた。最近のヴォルフラムは眼鏡がなくなったので、意外と表情が豊かだ。
「シュシュリア。まさかあなた、領民を生け贄にして何か蘇生させようと考えているのではないでしょうね。例えば、魔王とか」
「失礼ね。わたくし、誇り高いのよ」
──そう。わたくしは誇り高い令嬢。そのことを、沢山の仲間から教わった。彼らともう会うことはないけれどね? まあ元は同国人なのだから、その内部下として目をかけてやってもいいわね。
「シュシュリア。あなたが生け贄を使わずに蘇生魔法を使用するなら──それはあなたの生命力をむしばむ事ですよ」
「わかってるわよ」
「そんなに必死になって、何を生き返らせようと言うんです」
ヴォルフラムはなんでもかんでも聞きたがる。世界が広がって、旺盛な好奇心が爆発しすぎているのよね。無視しても食いさがるので、わたくしはしぶしぶ口を開いた。
「あなたよ。あなたが生きていれば、わたくしは安全だから」
ヴォルフラムはかっと目を見開いた。そのまま瞳が零れ落ちてしまいそうだけれど、大丈夫なのかしらね?
「……そうしたら、僕がずっとそばに居る事になりますよ。それでいいのですか?」
ヴォルフラムの妄言を、鼻で笑う。
「私の魔力の有効範囲がわからないの? ここから王宮の端あたりまでよ」
「わかりますけど……いや、わからない。シュシュリア、あなたはいつの間にそんなに先へ……」
ヴォルフラムは珍しく悔しそうな顔をした。わたくしに才能で劣っているとは思っていなかったのだろう。ああ、いい気分だわ。愉快、愉快。バラ色の人生とはこのこと。……もしかして、私が死に際に見ている都合のいい夢だったりしないわよね。
「僕……負けません、から」
「どうぞぉ。まあヴォルフラムには回復魔法は無理だから、叔父様のように魔法剣でも覚えたらいかがかしら?」
「僕が剣を?」
「そうよ。魔力が切れたり、術が効かない相手が居たら困るでしょう? もしそんな時に、自分の身一つでなんとかできなければあっと言う間にあの世行きよ」
「僕は死なないですよ。……僕が死ぬような事があれば、シュシュリア、多分あなたも無事ではすまない」
「わかっているわよ」
分かっているからこうしているのよ。
「剣についてはお義父様に相談の上、検討します。……僕が、あなたを守ります。だから……そういう、反動の大きい術は、使わなくて、いいです」
「わたくしに指図しないでくれる?」
ヴォルフラムが強くなるのはありがたい。……それでも、わたくしにはやらなきゃいけない時が、あるじゃない? いざって時に向こうが禁呪を使えてわたくしが使えないのでは意味がないし。
別にヴォルフラムのためじゃないわ、自分のためよ。
流石のヴォルフラムも視力が回復したことに喜びを隠しきれないらしく、あれからわたくしにゴマをすってくる様になった。なんだか微妙に落ち着かない時もあるけれど、このまま永久にわたくしに頭が上がらないようにさせてやるわ。
「そうね。前線に出ないで後方支援に回れるからわたくしの生存確率はうなぎのぼりよ」
「僕が敵将だったら後方部隊から叩きますが。シュシュリアは目立つし、挑発すれば前線に出てきそうだし」
「……やる気がそがれるような事言わないでくれる?」
……ヴォルフラムの目は治った。けれど、命がなくなってはどうにもならない。わたくしの次なる目的はさらなる禁呪──蘇生魔法を覚える事だ。
蘇生魔法と言っても万能ではない。肉体に生命を維持できるだけの機能が残っていて、まだ本人の魔力が残っている場合にしか効果がないし、常に術者の魔力が届く範囲に居なくてはいけない。
崩れ行く体から離れゆく魂を魔力でつなぎとめる。術者にもたらす負荷は生半可なものではない。
「術者の魔力ではなく、多数の生け贄をもって魔力の供給源とすることができる、か……」
研究がなかなかはかどらなくて、苦し紛れに本の内容を読み上げると、ヴォルフラムはぎょっとした様子で顔を上げた。最近のヴォルフラムは眼鏡がなくなったので、意外と表情が豊かだ。
「シュシュリア。まさかあなた、領民を生け贄にして何か蘇生させようと考えているのではないでしょうね。例えば、魔王とか」
「失礼ね。わたくし、誇り高いのよ」
──そう。わたくしは誇り高い令嬢。そのことを、沢山の仲間から教わった。彼らともう会うことはないけれどね? まあ元は同国人なのだから、その内部下として目をかけてやってもいいわね。
「シュシュリア。あなたが生け贄を使わずに蘇生魔法を使用するなら──それはあなたの生命力をむしばむ事ですよ」
「わかってるわよ」
「そんなに必死になって、何を生き返らせようと言うんです」
ヴォルフラムはなんでもかんでも聞きたがる。世界が広がって、旺盛な好奇心が爆発しすぎているのよね。無視しても食いさがるので、わたくしはしぶしぶ口を開いた。
「あなたよ。あなたが生きていれば、わたくしは安全だから」
ヴォルフラムはかっと目を見開いた。そのまま瞳が零れ落ちてしまいそうだけれど、大丈夫なのかしらね?
「……そうしたら、僕がずっとそばに居る事になりますよ。それでいいのですか?」
ヴォルフラムの妄言を、鼻で笑う。
「私の魔力の有効範囲がわからないの? ここから王宮の端あたりまでよ」
「わかりますけど……いや、わからない。シュシュリア、あなたはいつの間にそんなに先へ……」
ヴォルフラムは珍しく悔しそうな顔をした。わたくしに才能で劣っているとは思っていなかったのだろう。ああ、いい気分だわ。愉快、愉快。バラ色の人生とはこのこと。……もしかして、私が死に際に見ている都合のいい夢だったりしないわよね。
「僕……負けません、から」
「どうぞぉ。まあヴォルフラムには回復魔法は無理だから、叔父様のように魔法剣でも覚えたらいかがかしら?」
「僕が剣を?」
「そうよ。魔力が切れたり、術が効かない相手が居たら困るでしょう? もしそんな時に、自分の身一つでなんとかできなければあっと言う間にあの世行きよ」
「僕は死なないですよ。……僕が死ぬような事があれば、シュシュリア、多分あなたも無事ではすまない」
「わかっているわよ」
分かっているからこうしているのよ。
「剣についてはお義父様に相談の上、検討します。……僕が、あなたを守ります。だから……そういう、反動の大きい術は、使わなくて、いいです」
「わたくしに指図しないでくれる?」
ヴォルフラムが強くなるのはありがたい。……それでも、わたくしにはやらなきゃいけない時が、あるじゃない? いざって時に向こうが禁呪を使えてわたくしが使えないのでは意味がないし。
別にヴォルフラムのためじゃないわ、自分のためよ。
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