白い魔女に魅入られて

shimishimi

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第二章 時間は巡る

雑談

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 それからは、大人しく雑談を始めた。

「知ってるか?」
「知らない」

「おいおい! そこは何が? だろ?」
「だって、主語ないから。そりゃ、何を知っているかなんて知る術ないだろ?」
「つれねーなー」
 ははっと笑った。
律証館りっしょうかんって無駄に広いだろ?」
 聡太そうたは話し出した。
「うん?」
「だから、職員ですら管理出来ていない建物とかちらほらとあるみたいなんだ」

 なんていう適当さ。そんな意味ないものを建てる金があるなら、もっと違う所に金をかけろよ。学食のスペースとかさ。あそこ狭すぎて昼休みになると席の争奪戦が繰り広げられるんだよな。席取れなかったら昼飯抜きの危機が出るくらいに。
 マンモス校なら人が集まっても大丈夫なようにしろよ。
 てか、学費下げろ! 高い!

「ほう? それで?」
「誰も行けない建物があるみたいなんだ」
「何それ?」
「魔女の家ってのがあるらしいんだ」
「へー」
 オカルト系には興味ないね。
「魔女が住んでいそうな不気味な場所らしい。ほら、魔女のイメージって不気味な森をバックにした城にカラスの声が聞こえてきそうだろ? まさにあんな感じらしい」
「なんや、それ」
 関西弁で返してみる。
「しかも、別の日にもう一回行こうとしたら行けないみたいだってさ。同じ道を通っても。って、おいおい。もうちょっと興味もてよな」
 聡太はやれやれーと呆れた。
「うさんくさすぎる話だなーと思ってさ」
「つれねーなー」
 口を尖らせた。

「まぁ、実際にそんなことがあったら大問題だよな」
「そうか? 誰も行けないんだから関係ないだろ?」
「いや、だってさ、最初はそんな怪奇談で処理されるかもしれないけど普通に考えりゃ、管理が行き届いていない建物がありますよーってなるくね? それこそ、予算の無駄遣いだってなるだろ。 ほら、ここの大学って割と有名だろ?」
 聡太は続けて話す。

「それこそ、もしここの大学の生徒が誘拐される事件があっても、魔女の家があるんだから神隠しが起こってもおかしくないってうやむやになってマスコミに報道とかされると大学の評判もさがるだろ?」

 意外にも、見た目からは考えられない真面目な話をしてきた。
「それに今じゃ科学が発達してるからできることとできないことがはっきりとしたしな」
「そうだな」
「超自然が起きるわけねーって話」
「そうだな」

「あーあ。もっと大学生って、こうなんていう……毎日がパーティー騒ぎみたいなもんだと思ってたのになー。高校生と変わんねーでつまんねーの」
「それはそれで嫌になりそう」
「だな」
 聡太はおかしそうに笑った。

「話変わるけど、聡太はなんでこんな早い時間に来たんだ?」
「ん? あぁー、魔女の家を探しに」
「はぁ!? まじで言ってんの?」
「他学部の友達に言われてな。最初は肝試し程度にやるもんだと思っていたんだけど、朝からやるんだってよ。夜は危ないからって」
「そいつ、真面目か」
「まじで拍子抜け。おもんねーわ」
「それでもちゃんと来たんだな」
「あぁ、二時間の遅刻だけどな」
 わるはここにいた。
「肝試しがしたかっただけか」
「せーいかーい。なぁ、一限ってこの建物だよな?」
「多分な。ほんとここの大学の建物多過ぎてわからんわ」
 ほんと笑いがでるくらいに。
「そりゃ、魔女も出るわ」
 聡太が鼻で笑った。

 名前の知らない、建物に入った。そもそも覚える気もないが。
 携帯で講義の教室を確認しながら、教室に入った。
 大講義室だいこうぎしつって名前。センスのない、見たまんまの名前の大講義室だった。
「それで、悠矢はなにしにこんな時間に?」
「教授に呼び出された」
「そりゃ、おつかれさん」
 ってな感じのやりとりをして、聡太を大講義室に残して外へ出た。
 重い荷物も下ろせたから、気軽に事情聴取されに行ける。

 なんとなく昨日通った道を思い出しながら歩いた。しかし、同じような風景が変わることなかった。歩いても歩いてもたどり着かなかった。
 思い切って走ってみたりもしたが、元いた場所にたどり着いてしまった。
 事務所に行って聞いてみたりもしたが、昨日のおっさんに曖昧な返事だけだった。

「加藤シオリ先生? あー! 加藤先生ね。うん、うん。自分の研究室じゃない?」

 だから、研究室の場所を聞いているんですけど。
 まじで、事務所仕事しろよ。

 最終的に詩織にメールを送った。
 すみません。研究室までの道忘れてしまったので、教えてください。
 これで多分大丈夫だろう……後でもうもう一度謝ろう。

 大講義室へと小走りで向かった。
 大講義室に戻ると、学生もそれなりにいて騒がしかった。
 大講義室ってもんだからそれなりに学生は入るものだが、後ろの席に固まってしまっていて前の席はガラガラだった。

 俺も必然的に後ろの席に荷物を置いている。
 まわりにはクラスメイトがわらわらと座っていた。
 まぁ、そんなものだ。知った顔ぶれに集まるもんだしな。
「あれ? 聡太は?」
 誰と無く聞いた。
「さぁー?」
 近くにいた孝基たかもとがガタイのいい肩をすくめて反応した。
 まじで、いかついな。
「サボリやろ」
 後ろから大河の声が聞こえた。
 手ぶらだった。トイレにでも行っていたのだろう。
 大河たいがが俺の横を通る。
「生きていて良かった」
 通り際に大河の肩にポンっと手を置いて言った。
「ん? 大丈夫か?」
 首だけ回して訝しげな表情を浮かべた。
 それにしても、聡太はまだ探してんのか?
「あー、はいはい。もう始めますよ」
 教授の声がスピーカーから聞こえた。
 それに伴い、ざわめきが落ち着いてきた。

 まぁ、聡太はどうせサボリだろ。
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