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2話 ゼウスの事情

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 ゼウスはこちらをじっと見つめている。
 それがなぜなのかわからない訳ではない。
 マルグロは雷神ゼウスを使役してしまったのだ。
 前方には巨大な門がある。
 きっとその扉の向こうにはさらなる強敵がいるのだろう。


「そうして少年は旅にでるのよ、うふふ」


 そんな事をゼウスが言いながら、なぜかどこからともなく取り出した電気網で肉を焼いていた。ゼウスの雷撃の力により黒焦げになってしまうのではないだろうかと、危惧したマルグロであったが、ゼウスもバカではなく、雷加減を調整していた。


「ほれ、少年よ、あんたの中身が少年でない事くらい分かるわよ、それでも爺くさい匂いが薄れてきているけどね、はぁん、いつまで女の気持ちになってればいいのかしらねん」

 ゼウスは独り言のように愚痴をこぼした。
 マルグロは石で出来た床に座ると、おそらく牛肉を食べていた。
 入れ歯ではなく、自らの歯で食物を食べる喜びをマルグロは思い出していた。


「あんたさ、悩める神様のお話でも聞いてくれないかしら?」
「うむ、ぜひともお聞きしたいです」

「そうね、いろいろあったわ、祖父のウラノスが親父の鎌によりピーを両断されたのよ、祖父はどこかに消えてしまったわ、親父のクロノスは子供達に倒される事を心配して片端から飲み込んでしまったの、そうして、ゼウスの伝説が始まるのよ、それがいまじゃオカマになってるなんて、息子娘達や兄弟達にばれたらどうしようかしら、うふふ」

 
 ゼウスが語ったのは、彼の神話であった。
 ウラノスはクロノスにピーを両断され玉座を追われた。
 そしてクロノスは子供に倒される事を心配して子供たちを吸い込んだ。
 だがゼウスは変身しており、クロノスを倒し、兄弟達を救い出したのだ。


 それがマルグロが知っているギリシャ神話の顛末だ。
 まだまだギリシャ神話には沢山の伝説がある。

 
 それはここでは語らぬと、マルグロは思ったのだ。
 それから奥さんであるヘラの悪口を述べまくり、突然真顔になった。


「いい、マルグロは筋がいいから言うけど、この神の迷宮にて神を使役するなんて聞いた事がないのよん、神を倒したらただ力を得るだけ、あなたは力も得るし神を使役できる。すごい力を秘めているわ」
「それは喜んでいい事なのでしょうか?」
「もちろん喜んでいい事よん、あなたは地上に出たとき、何がしたいか今考えておく事をおすすめするわ、どんな絶望的な状況でも夢や希望があればなんとか乗り越える事が出来るわよ」

 ゼウスはどこからともなく取り出した酒瓶でごくごくとお酒を飲んでいた。

「あんたは見た目が少年だから酒は禁止よ」
「それは当然だが」

「それとこのあたくしゼウスを使役したからといって次の部屋であたくしを使う事は出来ないわよ、あなたが地上に出たとき、このゼウスをこき使ってくれていいのよ、まぁ、脱出出来るか分からないけどね」


 ゼウスはげらげらと笑いながら、お酒と食物を飲み食いしていた。
 マルグロは目の前に聳える巨大な扉を凝視していた。
 ゆっくりと手の平で大事そうに触れると。
 扉はまるでダンボールのように軽く動き出した。


 風が向こうからたなびき始める中。
 ゼウスの部屋が何も無い四角い部屋なら。
 この部屋は草花と木々に溢れていた。
 なにより真ん中には泉があった。

 
 後ろのドアの向こうにいるゼウスがこちらに向かって手を振っている。
 後ろの扉はゆっくりと閉じられた。
 まるで二度と後ろに戻らせないようにするかのようだった。

 
 大きな丸太の上に1人の老人が座っていた。
 魔道士のようなハットとローブを身につけ、だぶだぶのマントを羽織っていた。
 右の肩と左の肩にはカラスが二羽止まっていた。
 
 
<さっそく鑑定をする事をおすすめします>
「ああ、そうだな」

――――――賢王オーディン――――――
スキル不明
武器グングニル
防具英知のローブ
―――――――――――――――――――

 まぁゼウスが出てくる事からオーディンが出て来るのは予想出来たけど。
 オーディンは遠いい眼で泉を眺めていた。
 右目には眼帯がしてあった。

 まるで泉そのものと会話しているみたいであった。
 オーディンは丸太からゆっくり立ち上がった。
 次にまっすぐとした左目でこちらを見ていた。

 オーディンは無表情を貫きながら、こちらに長大なグングニルを突きつけた。

「お主は何やつかのう、見たところ少年であろうが、この魔眼には90歳過ぎのクソ爺にしか見えぬぞい」
「そのとおり、わしはこの世界に転生してきた」
「はん、転生者など何度も挑んできた。まぁゼウスでやられていたがな、大抵はここまでは来れなかったのじゃ」
 

 しばらくの沈黙が続くと、オーディンの右肩と左肩に座っていたカラスが何事かと鳴き声をあげた。

「フギンとムニンよ少し空に飛んでいってくれぬか、ソレガシはこのクソ爺を殺す必要があるのでな」

 フギンとムニンと呼ばれたカラスが鳴き声をあげながら、空へと飛翔して行った。
 オーディンは右手だけで長大なグングニルを構えた。
 ぶんと地面に叩きつけるだけで、振動が迸った。
 
 オーディンは小声で何事かを呟くと、それが魔法である事が分かった。 
 次の瞬間、幻想の天井からおびただしい火の矢が降ってきた。

 
 それに唖然とみていると避ける事も防ぐ事すら考え付かず、全身を炎の矢で貫かれた。


「はん、ここまで来るからましな人間かと思ったがのう」

 
 そうしてマルグロは復活ポイントにて蘇る事となったのだ。

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