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「……お前が俺のボーイとしてやる事は3つ」

 俺が一人でぽかんと拍子抜けしていると、鵺雲さんは指を3本立て話し始めた。

「1つ、俺の客のオーダーは全部お前がとれ。お前が聞いて、お前がさっさと持って来い。客のグラスの中身がなくなりそうになったら促せ。他の卓の客は一切無視で良い、俺の卓だけ見てろ」

「は、はい……!」

「2つ、さっきも言ったが掃除をきちんとしろ。俺の卓には一つの汚れも残すな。見えないところでも死ぬ程磨け。……で、最後に……」


 俺の頭の中でふとさっきの一夏さんの生々しい一言が頭を過ぎった。

 ーー性欲の処理。

 そ、それだけはいくら500万の借金を背負っているったって無理だ……!

 ケツなんて絶対痛いし、俺は女の子が好きだし、好きな子としかしたくないし!

「俺のヘルプとしても働け」

「セックスだけは無理です!」

 鵺雲さんと俺の声が重なり、俺たちはお互い間の抜けた顔でお互いを見つめる。


「……は?セックス?」

 鵺雲さんに聞き返され、俺の顔に段々と熱が集まってくるのを感じた。

「あ、いや、その、一夏さんから……ボーイはキャストさんの性欲処理もしなきゃいけない、って」

 段々と声が小さくなっていく俺に対し、鵺雲さんは小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「お前みたいな奴、金積まれたって抱かねえよ」

 俺は鵺雲さんに目の前で中指を立てられ、かぁあ、と顔が爆発しそうな程に熱くなるのを感じながら口元をヒクつかせた。

 ……どうしようもない屈辱と安堵。

 俺の頭の中はこの二つの感情で爆発寸前だ。

「お前を抱いて俺のパフォーマンスが上がるっつーなら話は別だけど、そうとは思えねえし」

「わ、悪かったですね……」

 ーー俺だってこんな俺様男にケツ犯されるなんて御免だ!

「セックスなんかより、お前は俺のサポートを全力でやれ。俺が卓を移動する時なんかはお前が残ってる客の相手をしろ」

 俺が不貞腐れた様子になっていると、鵺雲さんは再び淡々と話し始めた。


「で、でも俺ホストなんかやった事ないからそんな話せないですよ……?」

「うるせえ、俺がやれっつってんだからやれ」

「んな事言われても……」

 強引な鵺雲さんはそれ以降の俺の反論など全く聞き入れる様子がなかった。


「取り敢えず今日はもう少しで開店だから、ドリンクの作り方を教えてやる」

 気が付けば、時間は開店の20分前。

 先程控室にいたナンバー入りキャスト達もフロアに出てきて、暗かった店内はキラキラとしたライトに照らされ昨日見た煌びやかな世界へと変わっていく。

 
 ーーもうすぐ俺の、咲《さき》としての初めての夜が始まる。
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