ダチュラの魔女

山﨑ヒカル

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 僕は、ウォーカー侯爵家の後継だ。幼い頃から教養を叩きこまれ、期待に応え続けなければならなかった。

 そんな中、僕に安寧をくれたのは君だけだった。

「どうしてそんな暗い顔をしているの? お腹が痛いの?」

 陽気な声で君は聞いてきた。でも、その時の僕は機嫌が良くなかった。しかも、今みたいに感情の制御が上手くなかった。

「僕に話しかけてこないでくれる?」

「何で怒っているの? あなた、怒りん坊? そういうの器が小さいっていうのよ」

「僕の機嫌が悪いことを知った上での発言かい? 火に油を注ぐことが趣味なのかな?」

「うぅ……そんなに睨まないで。怖い」

 僕がきつい言葉を言ったせいで君は泣いてしまった。そういえば、君は昔から泣き虫だったね。

「す、すまない……僕が悪かった。だから、泣かないで」

「……こちらこそごめんなさい。そうだ! 私のお菓子を分けてあげるわ! はい! これで笑顔になるでしょう?」

「え? なんで僕に?」

「あなたの顔すごーーく怖いから、甘いもの食べれば怖く無くなるかなって」

 君に初めて気づかされたんだ。僕がこんなにも切羽詰まっていたことに……僕自身気づかなかった。

「……僕、そんなに険しい顔をしていた?」

「ええ、すごーーく!」

「そう……君にお返しをしたいから君の名前を……」

「あーー! お花の水やりを忘れていたわ!! お母様に怒られちゃう! ……コホン、これにて失礼させて頂きますわ」

 君はぎこちない会釈をして去っていった。僕の手に粉々になったクッキーを置いて……

    ◇

 それから数年後、僕はお見合いを頻繁に行っていた。どの令嬢と話しても、無味乾燥としたもので退屈だった。

「次の令嬢は、ルイス侯爵家のレイラ嬢だ。器量がいい娘だと聞いている。……お前の気に召すかは分からないけどな。一体、どれくらいの令嬢を泣かせる気だ? 我が息子よ」

「僕は誰でもいいです。侯爵が決めて下さい」

「今まで苦労をさせたからこそ、結婚ぐらい自由に決めさせたいんだよ。分かってくれ、この親心を」

「侯爵の許可した範囲内で、でしょう? 偽善者を演じたいなら、もっと上手くやって下さい」

 僕は、誰も信用できなかった。なぜなら、他人は僕を駒としか見ていないと感じたから。

   ◇

「いやーーよかった、よかった! これで、お前の婚約者の件もひと段落だ。これで、お父さんも安心して寝床につける」

「侯爵のいびきはうるさいので、婚約を撤回します」

「それだけは勘弁してくれ。お前の部屋から離れた部屋で寝るから」

「冗談ですよ。ところで、体調が優れないので自室に帰ってもよろしいでしょうか?」

「確かに顔が赤いな……医師を呼ぼうか?」

「結構です。侯爵もお休み下さ……」

「オリバー!! 大丈夫か⁈ しっかりしろ!!」

 僕は急な高熱で倒れてしまった。君は何が起こったか分かるだろう?

    ◇

「オリバー様、昨日倒れられたとお聞きしましたが大丈夫ですか?」

「ああ、大したことはない。それより、君はどうしてここに……」

 そう言いながら、僕は君の方へ振り向いた。そこには、見覚えのあるが立っていたんだ。

 

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