【完結】追憶と未来の恋模様〜記憶が戻ったら番外編〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です

文字の大きさ
21 / 59
第一部〜ランゲ伯爵家〜

突入〜オスヴァルト⑫〜

しおりを挟む
 
 騎士団の突入から遡る事数時間前。

 辺境伯領の東の端に、白い外観の貴族の館があった。
 月明かりがその館の窓に陰を映す。

 服をはだけさせた男が、二階にある窓から外を見ている。
 そこは寝室で、ベッドには女がうつ伏せ寝ていた。
 その身体に掛布を纏い、身動ぎするとさらりと髪が流れシーツが音を立てる。

 やがてぼんやりと目を開けて隣に誰もいない事に気付いた女は、ぱちりと目を覚まし身体を起こした。

 窓辺に立つ男の存在を認め、だがまるで消え行きそうな空気に思わず顔を歪めた。

「起きていたのか」

「……ああ、目が覚めた」

「想い人でも待っているのか?」

 男はじろりとベッドの上で欠伸をする女を見やると、再び目線を外に向けた。

「待っても来るわけないだろう。──もう、この世にはいない」

「……そうかい」

 女がベッドから降りると、しゅるりと掛布も床に落ちた。
 昨夜脱ぎ捨てた服を身に着け始めると、窓辺にいた男が近寄る。

「近日中に辺境伯邸に火を点ける。それで全て終わりだ」

 そう言うなり着替え始めた女の手を取り、無表情に組み敷いた。女の髪がシーツに散らばる。

「……辛いなら止めてもいいんだぞ」

 女はそっと、男の頬に触れた。
 本気なら、近日中と言わず今すぐにでも手を掛ければいいのだ。だが男は未だにこんな場所でグズグズしている。
 迷いがある証拠だと女は思った。

 だが女の言葉に男は応えず、身体を触り始めた。

 二人の間に情けは無い。
 女が熱に浮かされても、男の表情はいつも無い。
 こんな虚しい事をしても、男の気持ちが満たされる事も無い。

 それでも女は、この哀れな男に身体を差し出した。
 行為の間は一時的にでも、男を苛む苦しみから逃れられるならば、と。



「───ーゼ……」

 自分では無い、誰かを呼ぶその声が、とても悲しく聞こえたから。

 荒く息をする男は、じっと女を抱き締める。
 女の肌に落ちるのは、汗か、──別のものなのか。

 女はそっと、男の頭を撫で続けていた。




 辺境伯領の東の端。
 陽は傾き、辺りは薄暗くなりかけていた。

 森を分け行った先に周りとは似つかわしく無い建物があった。
 そこから少し離れた拓けた場所で、オスヴァルトらは待機していた。

 見張り役から中に人がいる事を告げられる。
 それは確かにアーベル・トラウトと盗賊団首領。

 そして数名の辺境騎士やまだ大勢の盗賊団員がいるとの事だった。

「私が先陣を切りましょう」

 ディートリヒが告げる。

「テレーゼ様達はトラウト卿をよろしくお願いします」

「元よりそのつもりです」

 言いながらテレーゼは自身の腰に付けた布袋に手をやる。
 そこにはアーベル・トラウトへ渡そうと持って来たものが入っていた。

「では、行きましょう」


 全てを終わらせる為に。



 バン!と扉を蹴破る音がして、屋敷内にいた男達は厳戒態勢に入った。

「だっ、誰だ!」

「奇襲だ!!」

 扉が蹴破られたエントランス付近にいた盗賊団員達は臨戦態勢に入ったが、憤怒を宿した王国騎士団副団長によって次々と倒されていく。

「相変わらず強いな…」

 あまりにも副団長が露払いとして蹴散らしていくものだから、後から入って来た団員達は討ちもらした者達を相手にするだけで良かった。
 手の空いた者は縛りあげていく。

「オスヴァルト、一階は任せろ!お前達は上に行け!」

 剣を振りながらディートリヒが叫ぶと、オスヴァルトらは階段を駆け上がる。
 沢山ある扉からは辺境騎士や盗賊団員たちが下の騒ぎを聞きつけ次々と出て来た。

「トラウト卿はどこだ!!」

 テレーゼが叫ぶ。

「おっと、団長のとこには行かせませんよ、テレーゼ様」

「裏切り者!道を開けなさい!!」

「そう言われてすんなり開けるなら、裏切って無いでしょうがっ!!」

 ガキン!と剣戟が舞う。両者一歩も引かず睨み合う。

「あなたはそれでも辺境騎士団かっ!!」 

「辺境騎士団のくせに実力を無視した采配に不満がある者です」

「トラウト卿は素行が悪い!」

「酒場で呑んだり女を買うのは誰でもするでしょう!」

「汚らわしい!それでも騎士かっ!!」

「お綺麗なお嬢様には分かるまいよ!!」

 二人は一歩も引かず、鍔迫り合い。
 互いに隙を伺いながら剣をぶつけ合う。

「騎士が高潔だ何だのは一昔前の話だろう、よっ!!」

 キィン!!

「ぐっ……」

 テレーゼと対峙していた騎士は、見出した隙を突き彼女の持っていた剣を弾き飛ばした。
 と同時によろめきドサリと尻もちをついたテレーゼの首筋に剣を当てる。

「見逃してくれませんかね、お嬢様。俺達にはまだやる事があるんでね」

 冷たく見下ろすかつての仲間を睨みながら、テレーゼは震えまいと拳を握り締めた。

「見逃さない。あなたたちを見逃せば、それこそ騎士団の風紀が乱れる!」

「そうかい、元団長と一緒で融通の利かない事ですか。
 では先に逝っててくださいよぉ!」

 振り下ろされる剣を、テレーゼはスローモーションで見ていた。


(ああ、私はここで終わるのか……)


 どこかぼんやりと、その軌道を目に映す。




 だが。


「諦めるのはまだ早いでしょう!?」

 ガキン!と剣がぶつかり合う音にハッとするテレーゼの瞳に映ったのは。


「オス……ヴァルト……さま……」


 出逢ってそう時間が経たないのに、何故か自然に自身に入り込んで来ていた男の後ろ姿だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

処理中です...