6 / 8
転生して。
「おじさん!早く早く!」
可愛らしい少女が男の腕をグイグイ引張っている。
晴れ渡る青空の元、男は花束を持つ手を緩めないように苦笑しながら少女に引っ張られていた。
「リコリー、待て。転んでケガするぞ」
男が言ったそばから少女は足を縺れさせ、前のめりになった。
だが少女は転ばなかった。
通りかかった少年が少女を支えたからだ。
「少年、助かった。ありがとう。
リコリー、ほら落ち着けって」
男の礼に対して、少年は「いえ」と小さく笑った。
「ごめんなさい、おじさん。早くお母さんに会いたかったの。……お兄さんもありがとう」
少女──リコリーはぺこりと頭を下げた。
「いいんだよ。お母さんも君に会いたいだろう。早く行っておあげよ」
くすくす笑って頭をぽんと撫でる。
リコリーは大人以外にそうされた事に驚き、はにかみながら微笑んだ。
「良かったらお兄さんも一緒に行かない?」
リコリーは少年を誘った。
リコリーに引っ張られていた男は目を見開きリコリーを窘める。
しかしリコリーは頑なに譲らなかった。
少年も困ったように微笑むが、リコリーは少年の腕を掴んだまま離さなかった。
「お墓参りだもの。賑やかな方がお母さんたちも喜ぶわ」
寂しそうに笑う少女から目を離せず、少年は「迷惑でなければ」と柔らかく笑った。
男は複雑そうな顔をしながらしぶしぶ了承した。リコリーには弱かった。
見晴らしの良い丘には沢山の墓が並んでおり、その一角に、リコリーの両親の墓があった。
「私のお母さんはね、おじさんのお姉さんだったの。乗ってた辻馬車が崖から落ちて……。
お父さんも後を追うようにして……
その後おじさんが私を引き取ってくれたの。だから寂しくは無いのよ」
両親の墓の前で、ポツリと漏らしたリコリーの表情は「寂しくは無い」と言う顔では無かった。
だが少年は何も言わずに聞いていた。
頭をぽんぽんと優しく撫でる。
リコリーは目頭が熱くなっていた。
リコリーのおじさんは別の墓の前にいた。
きれいに掃除された墓の隣には、小さな墓が建っている。
新しい花が置かれているので誰かが献花したのだろう。
おじさんは手に持っていた小さな花束を添えた。
「お前の両親は足腰弱って中々来れねぇだろうにな。誰が供えてんだろうな」
笑いながら墓の前に座り込んだ。
墓に刻まれた名前を見ると今でも後悔が押し寄せる。
あの時反対してれば。
───いや。
ある時までは幸せそうにしていた。
それを見れば反対などできなかった。
だが反対していれば、後の悲劇は防げたのではないかと、そう思えばやるせない気持ちになる。
墓に刻まれた名前────
"リーゼ・アレンシア"
男にとって、妹のように思っていた女性だった。
「……お知り合いですか?」
少年が男に話し掛けた。
「妹みてぇなもんだ。……若くして死んじまった」
「大事な人だったんですね」
少年はそのお墓を見て目を細めた。
「竜人と付き合っててな…。ある日竜人に番が現れて………
俺が反対してりゃ、って今でも思うわ」
「……俺も、竜人じゃなければ良かったって思った」
独り言のように呟かれた少年の言葉に男は顔を上げた。
少年はリーゼの墓を切なげに見ていた。
「竜人じゃなければ。番とか分からなければ。
彼女を傷付けずに済んだのに。
番が現れて、全てがそっちに行って。
彼女が死んで。
そしたら、本当の番は………」
少年は目は潤み赤くしている。
男はその姿を呆然と見ていた。
「縁を歪められて、彼女を死なせてしまった。
竜人じゃなければ、番とか関係無かったのに。
俺が、死なせた。
リーゼを。
リーゼが、本当の、番だった………」
「お前……スオウか…」
呆然と少年を眺め続けている男に向かって、少年はとうとう泣き出しその場に崩折れた。
「ラクス、すまない。俺は………
俺がリーゼを殺した。
俺が番なんかに囚われたせいで、リーゼを、傷付けた。
こんななら、出会わなければ……
俺は、リーゼに会っちゃダメだったんだ…………」
ラクスは混乱して泣きじゃくる少年に近寄り、背を撫でた。
「ごめん、ラクス。お前まで悩ませて苦しませてたなんて……」
『ごめん』と『すまない』を繰り返し呟く少年の背をラクスはずっと撫でていた。
暫くそうしているうちにリコリーが二人の所へやって来た。
「あっ、おじさんお兄ちゃん泣かせてる!色男なんだー!」
リコリーの一言に拍子抜けしたラクスは、「いや使い方違うだろ」と頬をぽりぽり掻いた。
少年はようやく収まってきた涙を拭い顔を上げた。
「どっか痛いの?よしよし」
リコリーの小さな手が少年を包み込む。
不思議とその手に触れられる度に気持ちが落ち着いてきた。
「おじさん、そろそろ帰ろう。お兄ちゃんも家に来てね。そんなお顔じゃお家に帰せないわ」
ふわりと微笑み少年の手を引いていく。
「おじさんもいいでしょ?」
「……そうだな」
ラクスも微笑み、三人はラクスの家へと向かって行った。
あなたにおすすめの小説
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
貴方の運命になれなくて
豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。
ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ──
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
裏切りの街 ~すれ違う心~
緑谷めい
恋愛
エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定
それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。