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第二章/ユリアーナの幸せ
19.可愛い我が子
「それでは、ユリアーナ様。国の成り立ちを復習いたしましょう」
「はい、先生」
「この国カシミニアは、王家と六つの公爵家が中心となって統治されています。公爵家の直系は役目があり、その血を受け継がねばなりません。
理由は?」
「はい。王家を中心として、直系の六公爵家が紡ぐ魔法陣により国の防壁を賄っている為です」
「そうですね。六公爵家の直系はその血をもって国の保護を担っています。当主は血を繋ぎ次世代を残さなねばなりません。王家も同じです」
ユリアーナはまっすぐに家庭教師を見る。
小さな手で大きな分厚い教科書を持ち、しっかりと受け答えをしている。
まだ六歳なのに、さすが一度は王太子妃を目指した子だわ。表情が違うもの。
「ユリアーナ様も光のブランシュ公爵家の血が流れておりますね。お身体大事になさってくださいね」
「はい、ありがとうございます、先生」
ゔゔ、先生の言葉が突き刺さる……
私のせいでユリアーナは……ゔぅ……
「それでは今日はここまでにいたしましょう。
きちんと復習と予習もしておいてくださいね」
「今日はありがとうございました」
ユリアーナは立ち上がり、スカートを持ち上げて一礼をした。
かっ……可愛いーーーー!!!!
まだ六歳なのに立ち振舞いは完璧。それでいて愛らしささえ滲む姿に時間を戻してくれた全神様に感謝を申し上げたい。
時を戻る前の記憶はだいぶおぼろげだ。
死んで幽体だった分、意識が薄かったせいもあるのかもしれない。
覚えているのはユリアーナの幸せだけを願う気持ち。
でもそれだけあればいい。私が生きる理由だから。
「ユリアーナ、お疲れ様。先生もありがとうございました。よければお茶を準備させますのでゆっくりされてください」
「まあ……ではお言葉に甘えさせていただきますね」
家庭教師のアマランス侯爵夫人はゆったりとした笑みを浮かべた。
前回の家庭教師はティアナとロッテが招いた素行の悪い下位貴族夫人だった。名前も思い出せない。仮にも王太子の婚約者に対して下位の爵位夫人を充てがうなどあり得ないことだ。
とりあえず家庭教師をつけた体裁を保っていただけだろう。
家政のことは二人が取り仕切っていたし、カールハインツは手出しもしていなかった。
でもユリアーナはきちんと淑女らしくいた。
きっと天性の才能があったのだろう。
うちの子やっぱり大天才かもしれない。
「ユリアーナ様はマナーもしっかりしていらっしゃいますね」
「ありがとうございます」
ユリアーナは、はにかみながらもじもじと俯いた。
照れた姿も可愛らしい。
考え方は大人寄りだけれど、年相応の仕草もする。そのギャップがまた萌える。
萌えるという言葉は死んでいた間に通りすがりの幽体から教えてもらった言葉。
可愛らしさが突き抜けた子に対して使うらしい。
まさにユリアーナにぴったりの言葉だ。
「ところで、ユリアーナ様はご友人はおできになられましたか?」
「はい。ベルンシュタイン伯爵家のエルナ様とノワール公爵家のシュバルツ様と親しくさせていただいてます」
カップを持つ手がぴたりと止まった。
ノワール公爵家のシュバルツといえば、ラルス殿下の友人としてあの断罪の場にもいたはず。
彼はどうしていたかな。
思い出そうとしても、もやがかかる。
「お二人とも大変素地のよいお方ですね。ユリアーナ様はよき縁に恵まれましたね」
夫人の言葉にユリアーナは再びはにかんだ。
今まで褒められたことがなかったからそれだけで嬉しそうに笑う。
ユリアーナが最初はできなくて、沢山練習してできるようになったことは他にもあるはずなのに。
その一つ一つが褒められることだったのに。
「お母さまが私が思うように交流していいとおっしゃってくださったので、お茶会のときに何名かの方とお話をさせていただきました。
もっとお話してみたいな、と思ったのがお二人でした」
後悔にまみれていると、ユリアーナに微笑まれた。
私の言葉で素晴らしい友人に出会えたと言ってくれるのか。
「お二人に出会えたのはお母さまのアドバイスのおかげなのです。ありがとうございます、お母さま」
「ユリアーナ……」
ああ、本当にこの子は……
誰よりも清らかな心の持ち主だ。
誰も恨まず、憎まず、全てを赦して逝こうとしていた。
傷つけられても善性を信じている。
健気で儚くて、純粋すぎる子だ。
「そうだわ、ユリアーナ。お友達を招待してお茶会しましょう」
「よろしいのですか?」
「ええ、勿論よ。お父様に許可をいただいてからになるけれど」
「大丈夫ですわ、お母さま。私、お父様が反対しても絶対にお二人とお茶会をしますから!」
喜色満面の笑みを浮かべ、ユリアーナは早速嬉しそうにどんなお茶会にしようかな、と計画を練り始めたようだ。
「それではユリアーナ様、この機会にお茶会のマナーの復習をいたしましょう」
アマランス夫人の提案で、ユリアーナの背筋がぴっと伸びる。
一瞬にして顔つきが変わるのは王太子妃の婚約者だったから……?
いいえ、ユリアーナに記憶はないはず。
けれど、時折そうとしか思えないような行動に胸騒ぎがする。
今世のユリアーナは、今まで我慢していたことを存分に満喫してほしい。
それが幸せに繋がるならなおさらだ。
実現できるならば助力は惜しまない。
「あっ」
カチン、と、カップがソーサーに当たり音が鳴る。
ユリアーナは恥ずかしそうに手を擦った。
「惜しかったですね。けれどユリアーナ様は基本的な所作はおできになられております。
これからも精進なさってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
目が合うと、やっちゃった、と照れ臭そうに笑った。
うん、やっぱり、私の子は可愛いのだわ。
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ストックが心許ないので、新章からは一日一話更新に切り替えます。
ストックが溜まったらゲリラもあるかも?
引き続き、応援をよろしくお願いいたします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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