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本編〜アリアベル編〜
13.第二王子オズウェル
しおりを挟むテオドールとアリアベルが決意を固めている頃、一人の男も動き出した。
テオドールの異母弟であるオズウェルだ。
テオドールの7つ下である彼は側妃の子として誕生し、母の愛情を受けて育った。
父親である国王との交流は必要最低限だった為か、成長するにつれ自分の立場をよく理解して立ち回った。
そんな中、王妃と異母兄であるテオドールとは少なからず交流する事ができた。
王妃は個人の思いはあれど、オズウェルに対して悪感情は無く、また兄弟姉妹を得られないテオドールに半分血の繋がった弟と手を取り合ってほしいという王妃としての願いから交流はしていた。
「僕は将来臣籍降下して兄上をお支えします」
それが幼い頃からの彼の口癖だった。
現時点で成人してはいないが既に17歳。
テオドールが10歳の頃にはアリアベルと婚約していた事を思えば未だ婚約者がいないのは異例の事である。
その理由の一つが、王太子夫妻に子がいないから。
王太子の次代の地位が盤石になってからでも遅くはないと考えているオズウェルは、自身が次代を繋ぐ事に消極的である。
側妃派が担ぎ出す事を良しとしないのは、あくまでも自身はテオドールの代わりと弁えているから。
兄が健康上で何の問題も無いなら自身は不要であると位置付け、だが弟として支えたい思いがあるから今は婚約者がいないのだ。
というのは表向きの理由。
本当の理由は、また別にあった。
それは秘めたる彼の想いから。
だが、それを言うのは躊躇われた。
想い人はとある高位の貴族令嬢。
現在は中立派だが、側妃派の後ろ盾にも成り得る家柄だった。
それゆえ、兄と対立できないオズウェルは自身の気持ちを言い出せずにいる。
女性とはとある夜会で出逢い、それ以来手紙のやり取りを続けている。
交流を途切れさせたくなくて何とか言葉を捻り出し、庭の花が咲いたとか、小鳥が巣を作ったとか、他愛も無い話を綴ると、丁寧な言葉で返事が来るのだ。
彼女からの返事を楽しみにしている自分に気付いた時、気持ちは日に日に募り、溢れ、胸を締め付ける。
だが相手はオズウェルの気持ちを知らない。
言ったところで相手にされないか、恐縮されてしまうのを恐れたオズウェルは全貴族が集う王宮主催の夜会でしかその女性に会えなかった。……それも短い間だけ。
女性に婚約者がいない事は知っている。その理由も。
ならば今のうちに……。
そう、思いつつも自身の背景を思えば一歩も動けないでいる。
だが、状況はオズウェルにとって悪い方へ向きそうだと予感がして、彼は足早に急いだ。
「失礼致します。義姉上、いらっしゃいますか?」
アリアベルのいる執務室の扉を叩き、オズウェルは早る鼓動を押さえながら返事を待った。
「どうぞ」
間を置かずにアリアベルの返事を聞くや、がちゃりと扉を開け、執務机に一直線にやって来たのだ。
「義姉上、お忙しいところすみません。兄上の件でお聞きしたい事がございます」
心なしか焦りを感じているような義弟の様子に、アリアベルはペンを持つ手を止め彼に視線を向けた。
「どうされましたか?」
義姉に尋ねられ、オズウェルは表情を強張らせたまま息を呑み整える。そしてひと呼吸してから、口を開いた。
「兄上に側妃を、というのは本当ですか?」
どくり――とアリアベルの心臓が波立った。
確かに側妃を迎えるよう進言し、テオドールは受け入れた。
現在は候補の選定をし、テオドールが一人の令嬢を指名した事も伝えられた。
「殿下に側妃を、と進言させて頂きました。殿下は候補をお一人指名なさったそうです。
おそらくそう遠くないうちに側妃として迎えられると思います」
あくまでも事務的に、ただの事実として義弟に述べた。その間もアリアベルの胸中は重くなり、ズクリと痛みが走る。
けれどもそれをやり過ごす。
「そう遠くないうちにって、義姉上はそれで良いの!?」
心底心配するようなオズウェルに、アリアベルは目を細めた。
「オズウェル様、殿下が国王になる為には子を成さねばなりません。時には良くはなくても良しとせねばならない事もあるのです。
私たちは王族。個人の感情よりも優先すべき事がございます」
「でもっ、それじゃあ義姉上の気持ちはっ……」
拳を握り締めオズウェルは俯く。彼とて一途な国王の子なのだろう。愛する者が他の異性と交わる事を良しとしないというのが伝わって、思いやってくれる気持ちに温かな思いが芽生えた。
「オズウェル様、ありがとうございます。私は大丈夫。
今は辛くても、いつかは慣れるわ」
「義姉上……」
オズウェルは今でこそ自身の生まれを歯がゆく思った事は無い。
自分が側妃ではなく正妃の子であれば、派閥の関係など気にせず代われたのに。
もしそうなら、兄夫婦に子が無くても正妃の血を受け継ぐ次代を残したいなら自分が成せば良い。そう思った。
オズウェルも魔術検査で問題無いことが証明されている。
だから正妃の子なら、王太子を交代しても良いと考えた。
けれど、オズウェルは側妃の子。
継承権はあれど飾りのようなものだ。
受け継げないわけではないが、気持ち的にも兄の能力と比較しても及ばないのは承知している。
「こんな時に役に立てないなら何で僕は……」
オズウェルは俯いたまま歯噛みした。
たった一つの憂いで先に進めないでいる。
自身の身に流れる血を呪ったことなど一度も無かった。
側妃である母から生まれた事を感謝しこそすれ、悔やんだ事も勿論無い。
ただ、兄夫婦が悩み苦しんでいるのに、手を差し伸べる事ができない自分の存在が悔しかった。
「オズウェル様、お気になさらず。
側妃を迎え、無事に子を授かれば貴方の婚約もすぐですよ。今のうちに良きご縁ができるように取り計らいます」
「ありがとうございます……。でも、自分の婚約は自分でどうにかします……」
もう迎える事は決定だと言わんばかりの言葉にオズウェルは悲痛に顔を歪めた。
自分の存在が王妃にどんな影響を及ぼしているのか知っている。
義姉には王妃のような気持ちになってほしくない。
だが、アリアベルは意思を固める。
周りが反対しても、頑なに。
「お忙しいところすみません。僕は失礼致します……」
オズウェルは一礼して、退室しようとした。
だが、ふと思い至り疑問を投げる。
「側妃候補はもうお決まりと言いましたよね。その方がどんな方かご存知ですか?」
「ええ。派閥に影響の無い中立の侯爵家令嬢と伺っているわ。……ちょうど、3つ下で適齢の御令嬢がいらっしゃるそうよ」
オズウェルはドアノブに掛けた手を止めた。
ドクン……と一際大きな音を立てる。
「その……御令嬢の、名は……」
その名を義姉から聞いた瞬間、オズウェルは叫び出したくなった。
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