【完結】子授け鳥の気まぐれ〜ハッピーエンドのその後は〜【R18】

凛蓮月

文字の大きさ
16 / 53
本編〜アリアベル編〜

15.側妃候補との顔合わせ

しおりを挟む
 
 側妃候補であるローレンツ侯爵家令嬢リディアが王城に入ったのは、打診を受けてから一月後の事だった。
 侯爵家領地にいたリディアが、荷物をまとめて王都にやって来るまでが半月、国王に謁見を申し込み受諾されるまでに二日。
 そして国王に謁見をした際、王太子と一度顔を合わせ、後日嫁ぐ条件の磨り合わせをする間に時間が経過していた。

「私はあなたを愛する事は無いだろう。あくまで後継を得る為の義務的な関係だ」

 王太子との顔合わせで、二人きりにされた時まず始めにリディアが言われた言葉がそれだった。
 リディアは元より承知で話を受けた。

「承知しております。私も殿下を愛する事はございません。あくまで私達は後継となる御子を設ける為の関係と心得ております」

 王太子はリディアの言葉に頷いた。

「ありがとう。だがあなたは私の妻となる。義務的な関係とは言え子を成す為の大切な方だ。
 蔑ろにする事は無いと誓う。
 あなたも希望があれば言ってほしい。できる限り叶える」

 王太子が自身の愛する妻を大切にしている事は遠く離れた領地にいてもリディアは知っていた。
 それでなくても異母弟であるオズウェルとの手紙のやり取りで二人がどれだけ愛し合い仲睦まじいかを綴られていた為、勝手に義兄のような感覚でいた。
 そんな彼が、例え愛する事は無くても蔑ろにしないと誓ってくれただけで安堵した。
 リディアはしばし考え、王太子に向き直る。

「では、嫁ぐまでに妃教育として半年から一年の猶予を頂きたく思います。
 側妃は正妃様の代わりとなりますでしょう?
 まあ要するに時間稼ぎですわね。
 それまでに王太子殿下夫妻に御子が授かりましたらこの話は白紙にして頂きたく思います」

 リディアの言葉に王太子は目を丸くした。
 子を成す為に覚悟を決めてやって来たはずだが、まるでその気は無いと言わんばかりの内容だったからだ。

「御二人の仲の良さは承知しております。私がいる事により猶予が生まれます。
 元より殿下方が側妃を望まないお気持ちはよく分かっているつもりです」
「だが……しかし……」

 リディアは一つ、笑みを浮かべた。

「妃教育が終えても御子を授からない場合、覚悟を決めますわ。ですが、王籍に入るのは閨が完遂してからでお願いします」

 王太子は思わず眉間に皺を寄せた。

「あなたはそれで良いのか?」

 王太子は、自分に都合良すぎる提案に訝しみ、困惑を隠せなかった。
 リディアは用意された紅茶を一口飲み、笑みを浮かべ真っ直ぐに王太子を見やった。

「構いません。私の事は協力者とでも思って頂ければと思います。
 ……と、差し出がましい事を申し上げましたが、私にも心の移行期間が欲しいだけなのです」

 今回の件は手紙の主であるオズウェルの憂いを取り除きたい為に希望したもの。
 婚約破棄された現場で唯一リディアを慮り、その後も傷を癒やしてくれた恩人でもある。
 その為自分にできる事をしたかった。

「……分かった。妃教育期間として十分な時間を設けるよう打診しておく。
 王籍に入るのも、閨も……。
 ありがとう。全てが終わればあなたに必ず恩を返す」

 リディアは一つ、瞬きをして再び微笑んだ。
 ――だが遠くの視界に映る景色に、逢いたかった人を見付け、気付かれないように視線をずらした。

『お前はテオドール殿下の側妃となる。誤解されるような行動は慎むように』

 父親から言われた言葉を胸に反芻すると、ゆっくりと呼吸をした。

(どのみち結ばれる事は無かったのよ……)

 淡い想いは心の奥底に閉まった。

 リディアは気を取り直し、胸の痛みを誤魔化すかのように王太子に話し掛ける。

「時に王太子殿下御夫妻は仲睦まじくいらっしゃいますよね。妃殿下のどんなところがお好きなのですか?」

 努めて明るく問い掛ける。
 すると王太子の表情がみるみると和らぐ事に驚いた。
 それはまるで、愛しい女性を思い出すと自然とそうなると言わんばかりで、リディアは目を丸くして見入った。

「ベルは……私の支えなんだ。婚約した当時王太子としてやっていけるか不安なのに『王太子』として振る舞わなければならないのが苦しくて。
 そんな私にベルはいつも側にいて励ましてくれたんだ。
 自分も王太子妃教育で忙しいのに。
 今では隣にいるのが当たり前で、いるだけで安らげる。何も邪魔しない、けれど目が合うと微笑んでくれる。いないと息苦しくなる。
 私はベルの前だけで『ただのテオドール』になれるんだ」

 アリアベルを語る王太子の表情は和らぎ、心から大切にしている事をリディアは瞬時に理解した。
 王族として生まれ、王族として生きる事は決して楽では無い。
 権力には相応の義務も生じる。
 生活の全てを見張られながら、分刻みにこなさねばならない。
 最高権力とは言うが気の休まる時は少ない。
 そんな時癒やしを求めるのだが、王太子は自身の妻がその存在なのだと語る。

「それだけではない。同じ価値観で物を見れるし、かと思えば新たな視点を教えてくれる。
 さりげない気遣いも、気配りも、……全てが愛おしい」

 そこまで聞いてリディアは苦笑した。
 これ以上話を聞いていると紅茶に砂糖を入れた事を後悔しそうだと思った。
 実際、惚気を聞いた後に飲んだ紅茶が甘ったるく感じ、用意された菓子に手を付けるのも躊躇うくらい。

 けれど、そこまで愛される妃殿下が羨ましくもあった。
 側妃となり解放されても――想い人との婚姻は望めないだろう自分とは違い、政略結婚でも想い合える事に少しばかり嫉妬した。
 とはいえ二人の間をただでさえ子作りという点で邪魔してしまう為、これ以上は望まない。

 未だに妻の惚気を話す王太子の向こうにいる人が視界から去ったあと、誤魔化すようにお茶を飲み干した。


 甘い話を聞いているはずなのに。
 先程と同じお茶のはずなのに。

 何故か少しばかり苦かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...