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本編〜アリアベル編〜
25.国王の側妃セレニア
「これで以上かしら。私が教える事はもう無いわね」
「ありがとうございました」
王太子の側妃候補であるリディアは立ち上がり、国王の側妃であるセレニアに一礼した。
離宮で過ごし始めて明日で一年が経過しようとしている。
リディアは、正直ここまでになるとは思っていなかった。
あれだけ仲良しの王太子夫妻だからすぐに子を成し自分は用無しとして離宮から去るはずだった。
だが期限になってもとうとう子授け鳥の便りは無く、議会もままならず、王太子との閨が近付いて来ていた。
覚悟はしている。
だが初めての事に不安も隠せない。
そんなリディアの様子に気付いたセレニアは、勉強のあとにお茶に誘った。
「浮かない顔ね」
セレニアから言われた言葉にどきりと胸が鳴る。
高位貴族令嬢として、また側妃候補として常に取り繕っていた彼女からして、指摘された事に驚いた。
「……無理も無いわね。明日で約束の期限になるのだから」
リディアは目を伏せ、出されたお茶を一口含んだ。
冷えた心に染み渡り、強ばっていた身体が解れていくような気がしてほっと息をついた。
「セレニア様は……お辛くなかったのですか?
自身を愛していない方と……身体を重ねるのは」
問われてセレニアは――眉根を下げた。
「私はね、……誰にも言ってないのだけれど、陛下を愛していたの。……当時の話よ」
そう言って、セレニアは過去の話を語り始めた。
会えばお互い喧嘩ばかりだった二人を仲裁する立場にいたのがセレニアだった。
互いの意見を聞き、食い違いを但し、和解させる役目を担っていた。
そうするうち、次第に国王となるアルベルトに惹かれ、淡い想いを抱くようになった。
けれど、それと同じくらい、ジルヴィアの事も好きだった。
没落しかけの令嬢であるセレニアを気に掛け、嘲笑の的になるのを防いでいたのはジルヴィアだった。
そんな二人がアルベルトの強い希望で婚約した時は驚いたけれど、納得して真っ先に祝福したのはセレニアだった。
だからその後、二人が愛し合い、テオドールを授かり、幸せそうにしているのを噂で聞きながら安堵していたのだ。
その頃にはセレニアの実家は没落し、名ばかりの貴族となっていた為彼女はジルヴィアの紹介で王宮文官として働いていた。
自分がいなくても仲良くしていたから、次第に淡い想いも忘れたはずだった。
だが何の因果かセレニアは側妃に選ばれた。
実家に力が無い適齢の令嬢というのが選ばれた理由だった。
大臣の説明を聞けば、後継のスペアが必要だという。
しかし当時の王太子夫妻は次子を授かれなかった。
引き受ければ実家への援助もするし、男児を授かれば更に安泰。
迷いは無かった。
引き受けた一月後に結婚式も無く入籍、妊娠しやすい時期を算出して閨事が行われる事になった。
あくまでも後継のスペアの為の側妃。
「私は貴女を愛せない。……だから私は自分に幻影魔法をかけた。
今の私には貴女がヴィアにしか見えない。
すまない。恨んでくれていい。私が今から抱くのは――ジルヴィアだ」
そう言われた時、自分の立場を思い知った。
アルベルトは愛する王妃を抱くように優しくした。
それに錯覚し、愛されていると勘違いした。
だが一度中に放つとすぐに抜き、身なりを整え使用人に後始末を任せて早々に退室する。
「御苦労だった」
たった一言残して。
愛されていないと思わせるに十分だった。
自身は身代わりで、ただ義務の為だけの存在。
そう、弁えていたはずなのにいつしか欲深くなり、アルベルトの愛を欲してしまった。
辛くて、苦しくて、愛する人に抱かれて嬉しいはずなのに涙がこぼれた。
幸か不幸か、すぐに懐妊した。
「懐妊したと聞いた。身体を労って無事に産んでほしい。
無理はしないように。不便な事があれば使用人に言ってくれ」
喜びも伝わらない淡々とした言葉。
セレニアが愛される事を諦めた瞬間だった。
側妃となった時に侍女や護衛を付けられ、幸いにもその者たちはセレニアを慮り心の支えとなっていた。
夫であるアルベルトとの交流は最小限にした。
頻繁に会うと、想いが断ち切れなそうだったから。
自分に良くしてくれていたジルヴィアには合わせる顔が無かった。
彼女の立場を思えば会いたくないだろうと思ったから。
無事出産を終え、子はオズウェルと名付けられた。
側妃の子ではあるが、後に国王となったアルベルトは対外的には父親として接していた。
その頃にはセレニアはオズウェルに関心が行き、アルベルトへの恋慕は無くなっていたが、時折どうしようもなく寂しさが襲って来た。
そんなとき、彼女に寄り添っていたのが護衛であるギルバートだった。
セレニアが彼に惹かれていくのに、時間はかからなかった。
側妃は離縁が認められている。
一度は離縁を考えたが、そうなると国王の血を引くオズウェルと離れてしまう。
一時は愛した人との子で、今は最愛の息子。
オズウェルと離れる事はできなかった。
だから、セレニアはアルベルトに進言した。
「オズウェルが成人したら離縁をお願いします。
それまでは彼を――ギルバートを側に置く事をお許し下さい」
身勝手な願いとは思った。
けれど、身勝手なのはアルベルトも同じだと思った。
願いはあっさりと承諾された。
元より義務の為の入宮。そこに愛は既に無く、未練も無い。
但し、離縁するまでは国王の側妃という立場。
その間子を成す事だけは許されなかった。
ギルバートとの子を授かれないのは残念だが、彼と話し合い互いに納得した。
リディアはセレニアの半生を聞いて、言葉を失った。
「今はね、この人がいるから平気なの。
バカみたいに自分じゃない人を愛する人をいつまでも愛せるわけが無かったわ。
……でも、今でこそ思うのだけれど、それが陛下なりの誠実な対応だったのよ」
セレニアから見た国王は不誠実だろうとリディアは思った。
だから彼女の言葉の意図を計りかねた。
「中途半端が一番辛くなるわ。もしかして、という希望に縋っていつまでも断ち切れなくなる。
一縷の望みも与えてくれなかった事で……かえって諦めがついたわ。
優しさは時として残酷になるでしょう?」
リディアはハッと息を呑んだ。
自身も王太子から言われた言葉を思い出し、何の期待も抱かせないその言葉で一線を引く事ができている。
確かにどちらにもいい顔をする男性の方が不誠実にも思えた。
「それにね、あの御二人、ようやくわだかまりが溶けたようなの。
もう、私が仲裁しなくてもきっと上手くやれるわ……」
セレニアは少し寂しげに、けれどスッキリしたような表情をした。
「貴女も……。子を成したあとの事を考えた方がいいわ。きっといるはずよ。貴女だけを愛してくれる男が。
……案外、近くにいたりしてね」
笑みを深めたセレニアの意図が分からず、リディアは俯いた。
そこへ扉が叩かれる音がする。
「失礼致します」
聞こえた声に、リディアの鼓動が跳ねた。
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⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。