異世界に飛ばされたら弱いまま不老不死にさせられて人生詰んだ件

異世界転生夢見るおじさん

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Chapter.4 力の覚醒編

Episode.28 トールのお仕事

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 ソムニア歴1000年 不変の月(秋)

ロナと狩りをし、二人で成功を祝ってささやかな宴を開いて就寝した翌日の事である。

「ロナーっ! ロストーっ! いないかー?」
机にして眠っている所にトールの騒がしい声が聞こえてくる。

「んー……」
横を見るとロナが幸せそうに眠っていたので起こさない様に注意し、家の戸を叩いているトールの元へ向かった。

俺が扉を開けるとトールが開口一番、こう叫んだ。

お願いだ、助けてくれと――

Episode.28 トールのお仕事

「アデラさんが倒れた?」
その後、起きてきたロナと共に訪ねてきたトールに事情を聞く事になった。

「そうなんだ、本人はただの立ちくらみって言ってるけど心配でさ」
どうやら、トールの姉のアデラさんが疲労で倒れてしまったらしい。

「心配だね、お店はどうするの?」

「そう、問題はそこなんだよ」
トールの家は酒場を経営している、店のかなめであるアデラさんが働けないとなると大変な事態だ。

「俺は給仕の仕事は出来ても料理は無理だからさ」
何となく察してはいたが、トールは料理はからっきしの様である。

「だから、お願いだ! 店を手伝ってくれないか?」
トールは頭を下げ、俺達にそう頼み込んでくる。

厳密には俺達ではなく、ロナに頼んでいるのだろう。

「うん、いいよ」
トールのそんな申し出にロナはあっさりと答える。

「あっさり引き受けてるけど、大丈夫なのか?」
俺はロナのその返答に不安を感じ、そう尋ねてしまう。

「大丈夫だよ、何回かお店の手伝いはしていて料理のレシピも頭に入っているから」
どうやら、同じ様な出来事が過去にもあったらしい。

「ありがとう、助かる」
トールはロナに何度も礼を言い、具体的にどうするかの作戦を立てる。

緊急事態なので店の営業時間を減らし、ロナには料理に専念してもらって給仕の仕事を俺とトールで分担する事になった。

「ロストも悪いな、ここに来たばかりなのに手伝わせてしまって」

「いやいや、逆に仕事がもらえて嬉しいくらいだよ」
そんなやり取りの後、俺達は互いに笑っていつもの調子に戻る。

こうして、俺とロナは酒場の手伝いをする事になった。

「よし、まずは作戦会議だね」
店に到着すると、早速開店に向けての作戦会議を始めた。

「トールは料理出来ないのは知ってるけど、ロストはどうなの?」

「屋敷で朝食を作るのを頼まれてフライパンを黒コゲにした事なら……」
ロナの笑顔が黒コゲという単語を聞いて固まる。

「りょ、料理は私一人で担当するね? 二人は給仕をお願い」
完全に戦力外な扱いで泣けてきた。

その後、三人で話し合ってアデラさんがいないので提供する料理を減らし、閉店時間を一時間早めようという事になった。

「それじゃあ、開店するぞ?」

そのトールに俺達は頷き、店先のドアプレートをクローズからオープンへと切り替えた。

万全な準備をし、いざ開店である。

「いらっしゃいませ~」
開店すると同時に仕事を終えた町の人達が、各々おのおの好きな席に座って食べたいもの飲みたいものを注文する。

ちなみに本日提供する料理は以下の通りである。

ワイルドラビットや鳥類の肉を焼いたロースト……肉はロナが狩ってきたもの主に使っているらしい。

えんどう豆やひよこ豆を使ったシチュー……ウィンミルトンは豆の栽培も盛んな様で様々な料理に使われる事が多いそうだ。

ニシンやタラなどの塩漬け……他の村や町と交易を行っているウィンミルトンは海産物もこうして提供する事が出来る。

続いて、お酒はワインとエールの二種類を取り扱っている。

ワインは所謂いわゆる白ワインと呼ばれるもので、エールと比べると値段が少しする様だ。

エールは自分も馴染みがないので開店前に試飲させてもらった所、りんごや洋なしの香りと甘味のあるビールといったお酒だった。

それらを客の注文により、給仕担当である俺とトールが席へ届ける。

「い、意外にむずいな」
料理を運ぶだけと侮っていたが、皿にのった料理を形を崩さず届けるのが意外に難しい。

何せ客の入りが尋常ではなく、一度に複数の料理を運ばないと仕事にならないので慣れるまで苦労しそうだ。

「ロスト、あんまり無理するなよ? やばくなったら、俺がフォローするから」
そう言うトールは、俺の倍近くの皿を同時かつ迅速に運んでいる。

「あ、ああ、その時は頼むわ」
やはり、経験の差というのはでかい様だ。

その後、俺もぎこちない感じではあるものの給仕の仕事をこなせる様になった。

仕事にも慣れ、一息ついていると客席から何やらにぎやかな声が聞こえてくる。

何事かと近寄ってみるとギターの様な楽器をたずさえた一人の詩人風の男が、他の客の声援を受けて歌いながら演奏を始める姿があった。

それは俺がいた世界の歌や演奏とは違い、昔の伝承や歴史などを独特な演奏と共に歌っていた。

内容はロナに聞かされた神の戦いと1000年に現れるとされる救世主の歌だった。

しかし、ファンタジー世界の吟遊詩人とか演奏家は、もっとお洒落な感じを想像していたので驚きである。

ただそんな演奏でも、周囲の客は空になったジョッキを片手に満足そうに笑っている。

それを見ていると、この演奏に上手い下手という評価は必要ないと感じた。

彼らが楽しめているのなら、それはどんな演奏よりも素晴らしいものだからである。

「やぁ、店員さん」
俺が考え込んでいる間に演奏は終わり、詩人風の男が横に座って話しかけてくる。

「どうも」

「僕の演奏は楽しんでくれたかい?」
どうやら俺が考え込んでいたのを熱心に聞き入っていたと勘違いしてるらしい。

「いやー、自分はこういった演奏を聞くのは初めてで新鮮でした」

「そうかそうか」
俺が当たり障りのない返事すると、男は満足そうに頷いた。

「歌の内容についてはどうだい?」
そろそろ仕事に戻りたいのだが、男の質問はまだ続く様だ。

「神様と救世主の話でしたっけ? 凄い話ですよね、御伽話おとぎばなしにしてはよく作られて――」

「御伽話じゃないよ?」
俺の言葉をさえぎる様に男がそう呟き、一瞬だけ時が止まった様に感じられた。

「え?」
その感覚に耐えきれず、俺は間抜けな声で聞き返す。

「神は実在したし、救世主は本当に現れた」
急に真剣な表情を浮かべた男は、とんちんかんな事を語りだした。

「そして、救世主は君だ」

「えっと?」
もはや、意味不明と言う他ない。

「ははは、信じたかい? 冗談だよ、冗談」

「…………」
そう言って笑う男の姿を見て、面倒な奴に関わってしまったと後悔する。

「まだ仕事があるんで失礼します」
これ以上、この男と話していても無駄と判断した俺は仕事に戻ろうと歩き出した。

「そりゃ残念だ、また会う日を楽しみにしてるよ」
去り際に男が何か言っていた気がするが聞かなかった事にし、俺は再び給仕の仕事を再開するのだった。

……
…………
………………
……………………

それから悪戦苦闘あくせんくとうしながらも仕事を続け、気付けば予定していた閉店時刻となっていた。

「「「お疲れ様」」」
俺達は仕事を終え、互いに挨拶を交わすと閉店作業を始めた。

俺とロナが食器を洗い、トールが店内の掃除をするという流れとなった。

掃除の合間、トールが店の前のプレートをオープンからクローズへと変更する。

本日の営業は終了しました。

「ロスト、お疲れ」
食器を洗っていると、同じ様に横で作業しているロナがそう声をかけてくる。

「おう、ロナもお疲れ」
本日最大の功労者こうろうしゃであるロナに、俺もねぎらいの言葉を送った。

「お客さんから私の作った料理で苦情がこなくて良かったよ」
全てをやりきった後なので安心したのか、ロナが料理番をしていた時に抱いていた本音を口にする。

「へぇ、あんなに自信満々に引き受けてたからそういうの気にしてないと思ってたわ」

「気にするに決まってるじゃん、私は料理は得意だけどお店で出すとなると事情が違うし」
どうやらロナもロナなりに不安を感じながらも、トールの為に頑張っていたんだなと彼女のその発言で理解する事が出来た。

「他の二人はあてにならないしねぇ」

「うっ、精進します」
これを機に俺も料理を覚えた方がいいのだろうか?

「嘘嘘、ロストも頑張ってたよ? ありがとう」

「そう言って頂けると私めも報われます」
そんな茶番みたいな会話を交わした後、俺達は笑い合いながら食器洗いを続けた。

「掃除終わったぞー……って、お邪魔だったか?」
戻ってきたトールが、何か盛大な勘違いをしている。

「? 別に邪魔じゃないよ?」
ただロナはそれを全く理解しておらず、彼女が恋愛事に関して無知なのが見て取れた。

「そ、そうか」
流石にトールもロナの返答に、困った表情を浮かべている。

兄貴分としては彼女の無知さが心配になるのだろう。

「よし、こっちも粗方あらかた洗い終わったね」

「ああ」
大量にあった食器を三人で分担し、何とか洗いきる事が出来た。

「二人共、ありがとうね」
そのタイミングで二階からアデラさんが降りてくる。

「アデラさん、もう体調は大丈夫なの?」

「ええ、心配ないわ、明日から普通に営業できそう」
一日休んだおかげか、アデラさんも元気を取り戻した様だ。

「また何かあったら言ってください、手伝える事なら手伝います」

「ロストくん、ありがとう」
アデラさんが頭を下げてお礼を述べてくれる、彼女は俺の事をくん付けで呼ぶらしい。

「今日のお礼と言ってはなんだけど、給金とご馳走ちそうを用意するから待っててね」
アデラさんのその一言の後、俺達は彼女の料理を堪能たんのうして夜もけていった。
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