ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第2章 ここはシンデレラの世界らしい

25話 Present for protagonists (視点変更あり)

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展覧会の時の父さんの作品は片方だけだったから、これで完成だとすっかり思い込んでいた。

片方の完成で気持ちは昂っているけれど、身体が対応できそうにない。力を入れてもビクともしない。

でも、もう片方の制作もすぐに取り組まなければ、世界は終わる。
俺も……もう、ガラス細工ができない。
そしたらあの体験、楽しさをもう二度と味わえない。

そう考えると、身体の節々から上がる悲鳴よりも、もっと作りたいという好奇心の方が先行する。

そのおかげで何とか立ち上がることが出来た。

しかし、炉に歩む足取りはよろめいていて、このままでは作業出来そうにない。

俺は応接間で少し休憩を取る事にした。
カップ麺を啜り、腹を満たしながら、もう片方の足のイメージを高めていく。

できるだけ右足を再現できるように。
さっきの集中をまた発揮出来るように。

しかし、俺の中で不安が募っていた。
右方は勢いのままに作った作品だから、もう片方も同じように出来るか分からない。

ため息を吐いて、視線を逸らした所に、ショウが置いていった魔法の本が置かれていた。

魔法を使えない人間がこれを開けるのだろうか、という懸念もありながら、恐る恐る触れてみる。

……さわれた。

静かにページをめくると、愛らしい童話っぽい絵が描かれ、シンデレラの物語が広がっていた。

虐げられた少女が、魔法によって変わり、王子様を射止める。
そして、2人が結ばれる印。
それこそがガラスの靴。
少女は時間に迫られて、ガラスの靴を片方落としていく。
そしてその靴を王子が拾って、彼女を探す手がかりにする。

絵を見て初めて気づいた。どっちがどっちなんて、意識したことはなかったけれど、シンデレラが落として、王子様が拾う靴は……左の方なのか。

そして、それはシンデレラを探すための手がかりにするものだ。

それなら、左足は王子様が持っていても輝くものでないと。

エラと同時に王子様のために作るものと考えなければならないのでは?

しかし、この国の王子様はガラスを禁忌と定めた人らしい。
彼の心に響くものでなければ、きっとすぐに壊されてしまうだろう。
そんな彼でもこれを見て、壊したくないと思うほどのものを作りたい。

……さっき俺が考えていた右方と同じように、という意識。
しかし、それは俺の中で新しいものに塗り替えられていた。

ガラス嫌いな王子様の心も絆すくらいの作品を作るなら。

に作る新しいデザインにしてみよう。
エラにも合うようにするのはもちろんだが、手に取る王子様を心に届くような、主人公たちに向けた靴を作りたい。

応接間にあったメモ帳とペンを持って、イメージを膨らませていく。

王子様、一体どんな人なんだろう。

ぱっと俺が思い浮かべる王子様像は……
かっこよくて、美しい。
背が高くて、たくましい。
降りかかる危険からも守ってくれて。
それでもって、プライドや誇りを持っていて、理性的。
そして……優しく笑いかけてくれる人。

そんな完璧ですごい人いるわけ……と苦笑しながら、スープだけ残ったカップ麺に視線を向ける。

するとふと思い浮かんだのはあの美しい青い瞳と金髪を持った青年だった。

あの金髪の彼、とかだったらなぁ。超映えるだろうな。
お金持ちっぽいし、貴族様っぽいし。頼もしいし。
まあ、ちょっと頑固というかプライドは高めだけれど、色々情報を教えてくれたし、無邪気に照りつける太陽みたいに笑う人。

でも、違う。
この国の王子様はガラスが嫌いなんだ。
俺の作品をあんなに喜んでくれた彼とは絶対違う。

そんなことは分かっているのに、俺の中の王子様像は後にも先にもあの人しか思い浮かばない。

誰かのためを想わないと作品は作れない。
それなら、彼のためを想って作ってもいいんじゃないか。

父がずっと伝えようとしていたことだ。
きっと父さんも、あの《ガラスの靴》を誰かのために作ったんだろう。

誰かのために父が作った《ガラスの靴》が俺の心を震わせたように。

彼のために俺が作った《ガラスの靴》が王子様の心をも震わせられたなら。俺は職人としてもう一段ステップアップできる、そんな気がする。

まずは形。これはできるだけ右方と同じように作ろう。
エラの負担を少なくするために。ヒールは短め、湾曲は少なく、線は角張らせる。

そしてつま先の飾り。
彼の眩しい笑顔と青空を閉じ込めた瞳を思い返す。
そうだ。彼はまるで空みたいなんだ。
太陽のように眩しい笑顔と金髪。
そして青い澄んだ瞳。

俺がそのイメージから描いたデザインは月夜に輝く銀髪を持ったエラとは対照的だった。
でもだから美しい。

休憩を終えた俺は勢いよく立ち上がり、頬を叩いて気合を入れる。

メモを片手に工房に戻ると、自分でも驚くほど早く竿を掴んでいた。
どうやら俺の身体はまだやれると言ってくれているらしい。
腕は重いし、視界は少し揺れている。
けれど、ガラスが燃える匂いを嗅ぐとそんな些細なことは気にかからなくなっていた。

赤く燃える宝石を撫で出て、こじ開けて。
何度も何度も作ってきたその感覚を頼りに理想の形へ仕上げていく。
炉からまた赤い素を持ち出して、踵に垂らし、短めの高さを作る。

靴の大部分ができると、俺は透明なつま先とメモを交互に睨む。

ここからは、王子様に向けて俺が贈るガラスの美しさのメッセージ。

彼のように「美しい」と言ってくれる顔を想像して、ただひたすらに俺のできる最大の技術を込めていく。

炉で溶けている赤いガラスを付けていく。
たくさんの花びら1枚1枚を慎重に作る。
1枚でも納得いかない形になった時は、靴の形から作り直して再挑戦する。

右の飾りであるラベンダーは花びらの枚数は少ないが、その分造形に力を入れた。
逆にこの花は溢れ出る無数の光のような花弁を持っているから、この花びら達を立体的に表現するのが難しい。

俺が作ろうとしているのは、太陽を連想させる向日葵だ。

やっとのことで花弁が浮き上がり、少しオレンジがかった透き通った花が完成する。

向日葵も花びらの真ん中に大きな花芯がある。
この花のそれは茶色っぽいから、ガラスの透明感で表現するのは難しい。

ならばいっそのこと、右の靴と同じように花芯にガラス玉を置いてみようか。

統一感が出るし、二つで一つ感があっていいのでは?!
そうすれば王子様の捜索意欲も増して、物語をアシストできるのでは!?

アイデアがどんどん湧いてきて、心臓がうるさい。身体が熱い。……これが堪らない。

ガラス玉なら……。
彼の瞳を閉じ込めた、ガラス玉はどうだろう。
銀化ガラスは長年の蓄積がいるからすぐには作れなかったけれど、青いガラス玉なら作れる!

長年眠ってきたガラスと生まれたばかりのガラス。
正反対なのにどこか親和性がある。

炉から一旦離れて、その隣にあるエアバーナーの前に座る。小さなガラス細工は、炉ではなくバーナーを使うことが多い。
こっちは専門じゃないけれど、ガラス玉なら何とか作れるだろう。
ストックの棚にあった青色のガラス棒をバーナーで溶かして、水平を意識して鉄芯に巻き付けていく。
コテで形を整えて、トレイの中に敷き詰めている徐冷材に入れる。

そこで30分。今にも垂れ下がりそうな頭を何とか保って、徐冷材から取り出して、鉄芯から青いガラス玉を外す。

まだ、ガラスの靴は固まってはいるけれど冷めてはいないから、ゆっくりとピンセットで、はめ込んで左足を完成させる。

「今度こそ、できた!」

ラベンダーの花と銀化ガラス玉。
向日葵の花と青いガラス玉。

エラと王子様に贈る靴。

対称的なデザインが、見事にマッチしてくれている。

やれることはやった!
やりたいことはやった!

多分俺の中には様々な感情が巻き起こっているのだろうけれど、言葉では言い表すことができない。

徐冷炉に入れたあと、時間になればこれを取りに来るであろうショウへのメッセージを書いて、俺の意識は飛んでしまった。

***
(視点変更・三人称)

王国では舞踏会が開かれるという日の、太陽が沈み始めた時。

静かな工房に星の輝きが降り立つ。
それは少年の形に姿を変えた。

少年は長いローブを揺らめかせ、憚りながらその様子を伺っていた。

「……璃世!忙しいところごめんね。そろそろ時間が……」

少年・ショウは作業を邪魔しないように囁き声でそんな声をかける。
しかし、それに返答はなく、小さな彼の声がさらに小さく反響だけだった。

1歩ずつ炉の方に近づいていくと、ショウはその前で横になり、静かに寝息を立てている青年に気づいた。

「璃世?あ、寝てる」

彼の寝顔を見て笑みを浮かべたショウは、彼を起こさぬように、徐冷炉に目を向ける。
そこには置き手紙のようなものが貼られていた。

それを読んだショウは、慣れた手つきで徐冷炉からリヨの魂の作品を丁寧に掬いあげた。

少年はガラスの靴をうっとりとして見つめながら、最後に書かれているメッセージを読み上げた。

「《Present for protagonists主人公のたちへの贈り物》、ね」

その意味を理解した少年は、涙を浮かべながら笑う。

「本当にありがとう、璃世。しっかりと、君の想いと作品を届けるよ」

ショウは静かにそう言うと眠っているリヨの頬に口付けを落とした。

「目が覚めたら、エラと王子様を、この物語の行く末を見にきて」

黒髪の少年は柔らかい声音で囁いて、ガラスの靴と交換するように、1枚の手紙を頭の近くに置く。

そして、杖を振って魔法の布を作り出すと、それを優しく彼の上に乗せた。

ショウはリヨからの贈り物をぎゅっと両手で抱きしめると、決意を固めた揺るぎない瞳を月に向けた。

「さあ、物語を始めよう!」
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