ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第3章 王子様のトラウマ

42話 ささやかな贈り物を、サンに

「お、おい!お前何やって……」

俺の突飛な行動を目の当たりにしたサンは、思わず立ち上がって、その碧眼を揺らす。

俺はその瞳から目を逸らして、炉の横に立てかけている鉄の棒を手に取ると、赤く燃えるその中を覗き込みながら言葉を一つ一つ紡いでいく。

「俺は、さ。ガラスは割れるものだと思う。だから、割れないガラス細工なんて作ることはできない」
「……」

ドサッという服が擦れる音と椅子が引かれる音が聞こえると同時に、背後に感じていた気配が小さくなる。
俺の言葉で生まれた不安と動揺。それが俺の背中に向けられている。

それを優しく取り払うように、チラリと振り返って微笑んだ。

「かと言って、サンに破片を見せつけてコレがガラスの本質なんだから克服しろ、なんてこと、絶対に言わない。俺だって、尖った破片向けられるのは怖いし」

眉を凹ませて、口を押さえる手さえも震わせていた青年は、ゆっくりとその手を下ろして、少しだけ口の端を上げて答える。

ちょっとだけ落ち着いた様子の彼を見て、俺はまた熱の方に目を向けた。
入れた欠片たちは面影を無くし、熱となって赤く燃えている。

「割れ"る"から儚くて美しいんであって、割れ"た"らそれは凶器になる。……割れたものは作品じゃない。俺が届けたいものじゃないんだよ」

分かりづらく、まどろっこしい、頭を通さず心から溢れ出る俺の創作論。
拙くても、何とか言葉にして届けようとすると、息を飲む音が後ろから聞こえた気がした。

俺にとってそれは難しいことだったけれど、少しでも届いてくれたなら御の字。

ここから、俺は俺のやり方で最大限に伝えるんだ。

大きく深呼吸をして、持ち上げた棒を炉の中に差し込む。
灼熱のマグマを巻き付けて、頭の中で想像したモノを作るのに必要な量を掬っていく。

「割れる繊細な素材を使った、繊細な作品を作ってる。触れれば割れそうで、壊れそうで。でもそれが最っ高に綺麗なんだ。俺が作りたいのは誰かを苦しめる破片モノじゃなくて、心を動かして笑顔にするガラス細工なんだから」

そう言って炉に押し込んでいた黒い鉄の竿を引いた。
そこからは、目の前の赤い宝石に真っ直ぐに目を向ける。
竿を後ろの耐熱台に置いて、転がしながら、濡れた新聞紙で赤い熱を撫でて、見覚えのある寸胴型にしていく。
突き刺すような熱視線も相まって、俺の額には大粒の汗が湧き出てくるが、それを拭う時間などなく、すぐに右手の器具を持ち替えて、燃える宝石に穴を開ける。

大きな鉄製のトングで、等間隔で溝を付けて、てっぺんに新たな熱を垂らす。

その灼熱の赤は段々と消えて、青空のような宝石の瞳がその透明な《かぼちゃ》に反射する。

「……戻った!」

震えていた身体はそこにはなくて、立ち上がってそれを覗き込む無邪気な青年の姿だけがあった。

まだ熱のあるそれに急接近する彼の肩を掴んで静止すると、俺はニヤリと微笑んで空いていた片手の人差し指を唇に当てた。

「まだ、待って」

俺は炉からまた新たに燃える宝石をひと掬いして、かぼちゃのランタンの上部に垂らした。

長いトングで、それをある形に成形していく。
そして、できたものを指をさして見せる。

「ほら見て」
「これは……」
「前のかぼちゃのランタンに王冠を付けてみた」
「っ!」

かぼちゃのランタンの上に乗ったのは小さな王冠。
それを見たサンは、目尻をひどく垂らして笑った。
釣られて俺もクスリと笑いながらこの意図を伝える。

「あの時はサンのこと、なんも知らなかった。ただ、かぼちゃで爆笑するツボが変な坊ちゃんだと思ってた」
「……おい、そんな風に思ってたのか」

ジトッとした目で俺を凝視してくるサンに、また笑いが込み上げてくる。

「ハハ。でもさ。今日、俺はまた一つサンを知ったよ。頑固で強引な王子様って。だから王冠を付けた」

少し不服そうに頬を膨らませて、でも、ランタンを見る目は優しくて。
そんなサンを見ながら俺はもう一つ飾りをそれに付け加える。

「んで!サンは超綺麗な青い魔法が使えるから……」

振りまいたのは、ガラスの着色用に使う青い砂。
それを王冠に散りばめた。

できたのは、青い蛍が囲う王冠を被ったかぼちゃのランタン。
竿から作品を取り出して、徐冷炉に入れてから、一番言いたかったことを告げる。

「ガラスは割れるし、それを使ったガラス細工は壊れてしまうかもしれない。
けれど、サン。アンタの目の前にいるのはガラスに狂ったガラス職人だ!」
「っ!」

ビシャビシャでくしゃくしゃになった額のまま、恥ずかしげもなく思いっきり笑うと、彼は口元に手を押さえて上品に笑い返す。

一歩、サンに近付いて、俺の職人としての誓いを立てる。

「何度壊れても、俺はその破片を拾って新しいものを作るから。もっと綺麗なものを作るから」

もう二歩、彼に近付いては、その美しい額を覗き込んだ。

「壊れた破片は、俺たちの軌跡を示す作品の新たな糧になるよ。今日はサンが王子様って知れたから王冠だった。綺麗な魔法を見せてくれたから、青色の飾り付けをした。
じゃあ、次はなんだろうな?って。
破片を見た時、怖いって思った時、このことを少しだけでいいから思い出して」

最後にもう一歩。大きな彼の右手を両手で掴んで。

「俺の作ったものを、俺が作るものを考えて。
何度でも、どんな鋭利な破片でも、溶かして超綺麗な……サンが笑顔になるくらい綺麗なモノをつくるから」

俺が見つめるその青い瞳はいつもより、透き通っているように感じた。いつもよりも沢山の光を集めているように眩しく感じた。

一度彼の手を離し、ドバドバと吹き出る汗を腕で拭っていると。

「……リヨ」
「ん?」

 片手をその大きな手で握られるのと同時に、その芯の通った強い声音で呼びかけられて、思わずそちらに視線を戻す。

「好きだ」
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