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第3章 王子様のトラウマ
47話 【王子様が少年になるまで】
***
大国、ルヴェール王国の隣に位置する小国、プリズメル王国。
王都の西には大きな鉱山があって、それが大国との国境でもありました。
国領はルクスフィリアという王都のみ。
そんな小さな国で。
優しい王様とお妃様との間に、大変可愛らしい王子様が産まれました。
奇跡を体現したその王子様の誕生は王国中を歓喜の渦に飲み込みました。
そして、王子様はその天使のような風貌と愛らしさで人々を虜にし、魅惑的王子という愛称で、皆に愛されて育ちました。
皆の期待に応えるように、王子様は文武両道を極めていきました。
そんな彼の姿勢が更に民衆の心を惹き付けました。
王子様にとってそれは生きがいになっていきました。
ある日。
窓の外から、同年代らしい見知らぬ兄弟のたち会話が聞こえてきました。
「下っ手くそな絵だな~!」
「もう!一生懸命描いたのにっ!でも……そうだよね、これじゃ、伝わんないよね、何を描いたなんて」
「ハハッ、分かるよ。ここをもうちょっと丸くして、髭を描いたら……」
「お父様に……見える!」
「だろ?お父様もきっと喜ぶぞ!二人の合作なら尚更!」
全てを肯定されていた王子様にとってその会話はとても衝撃的でした。
否定的な言葉達のはずなのに、そこにはしっかりと弟を想う意思があって。
率直に意見を言って、それを受け止めて、さらに良いものを共に作る。
王子様はそんな光景を羨ましく思いました。
きっと、自身を想ってくれている宮仕えの者たちも、あの兄弟と同じようなやり取りをしてくれるはず。
そんな期待に胸を馳せた王子様は、机に置いていた紙にとある絵を描きました。
それは、少し歪な王冠の絵。
線はぐらついていて、輪郭は寸胴。
お世辞にも王冠には見えない落書き。
なんでも出来た王子様でしたが、これは少し苦手なようでした。
しかし、王子様にとって絵の出来はどうでも良く、欲しかったのはこの絵に対する率直な意見でした。
彼がこの絵を見せると、周りの者たちは、強ばった顔をして互いに顔を見合せます。
その後、彼が何を描いたのかを言葉巧みに探りました。
そして、答えが王冠だと分かった瞬間、王の器だと芸術の才も兼ね備えていると褒め称えたのです。
その時、王子様は気付いてしまいました。
彼らが自分を愛するのは自信ではなく、自身の揺るぎない地位なのだと。
次期国王となる自分に取り入れば、この小国で暮らすには十分なほど安泰になるから。
皆、腹にそんな欲を抱えて、王子様に愛の言葉を囁いていたのです。
それからの王宮での生活は王子様にとって、とてもつまらないものになりました。
欲しいものを欲しいといえば手に入り、いらないと言えば跡形もなく視界から消えていく。
何をしても褒められ、崇められ、そんな日常に飽き飽きしていました。
自分を心から見てくれる人に出会いたいと、忌憚なく自分に意見を言う誰かに出会いたいと、窓の外を眺める日々。
そんな退屈な毎日を送り続け、王子様が8歳になった時でした。
王宮に騎士団の荒らげた声が響きました。
「敵襲です!ルヴェール軍が……王都に!」
王子様は何が起こっているのか理解できず、その場に呆然と立ち尽くしてしまいます。
「お逃げ下さい殿下!」
側近の声とともに、王子様は手を引かれ、王宮の秘密扉を通り、逃亡を試みました。
しかし、王子様がそこから出た先には、紫髪の若い男が待ち構えていました。
「お初にお目にかかる。プリズメル王国第一王子、サン・ルフレ・プリズメル。
私はルヴェール王国、現国王、ユリウス・ルヴェール、ガラスの神子の加護の下、お前を殺す男だ」
大国の王は、王子様の喉元に剣先を突きつけました。
濃紫の短髪に、凶器のように鋭い淡紫の瞳。
それは王子様の記憶に一生残り続ける男との出会いでした。
「お前の両親は、お前を置いて逃げたらしい。見捨てられて可哀想なヤツだ。同情したから、一思いにやってやるよ」
自分を愛してくれていたはずの両親に見捨てられたという絶望と、今から死ぬのだという恐怖。
これまで、感じたことのない感情に取り憑かれ、王子様の身体は動きません。
隣国の王様は、容赦なく王子様を斬り付けつけました。
王子様の身体から大量の血が流れ、その場に倒れ込みますが……。
その時、青い光が彼の身体を包みました。
「えっ」
「は?」
斬りかかった王様も王子様自身もこの瞬間に起きた現象に驚きました。
なぜなら、致命傷だったはずの、大きな傷が綺麗に治っていたのですから。
「ハハ、これは面白い!此奴を残したプリズメル王の判断は非常に理にかなっているな!」
王様は額を大きく歪ませて、腹を抱えて嗤うと、動揺していた王子様に冷たい視線で刺しました。
「此奴を捕らえろ」
王様は冷徹な声で後ろに控えていた兵士達に命令しました。
そしてその瞬間、王子様は、王子様ではなくなりました。
大国、ルヴェール王国の隣に位置する小国、プリズメル王国。
王都の西には大きな鉱山があって、それが大国との国境でもありました。
国領はルクスフィリアという王都のみ。
そんな小さな国で。
優しい王様とお妃様との間に、大変可愛らしい王子様が産まれました。
奇跡を体現したその王子様の誕生は王国中を歓喜の渦に飲み込みました。
そして、王子様はその天使のような風貌と愛らしさで人々を虜にし、魅惑的王子という愛称で、皆に愛されて育ちました。
皆の期待に応えるように、王子様は文武両道を極めていきました。
そんな彼の姿勢が更に民衆の心を惹き付けました。
王子様にとってそれは生きがいになっていきました。
ある日。
窓の外から、同年代らしい見知らぬ兄弟のたち会話が聞こえてきました。
「下っ手くそな絵だな~!」
「もう!一生懸命描いたのにっ!でも……そうだよね、これじゃ、伝わんないよね、何を描いたなんて」
「ハハッ、分かるよ。ここをもうちょっと丸くして、髭を描いたら……」
「お父様に……見える!」
「だろ?お父様もきっと喜ぶぞ!二人の合作なら尚更!」
全てを肯定されていた王子様にとってその会話はとても衝撃的でした。
否定的な言葉達のはずなのに、そこにはしっかりと弟を想う意思があって。
率直に意見を言って、それを受け止めて、さらに良いものを共に作る。
王子様はそんな光景を羨ましく思いました。
きっと、自身を想ってくれている宮仕えの者たちも、あの兄弟と同じようなやり取りをしてくれるはず。
そんな期待に胸を馳せた王子様は、机に置いていた紙にとある絵を描きました。
それは、少し歪な王冠の絵。
線はぐらついていて、輪郭は寸胴。
お世辞にも王冠には見えない落書き。
なんでも出来た王子様でしたが、これは少し苦手なようでした。
しかし、王子様にとって絵の出来はどうでも良く、欲しかったのはこの絵に対する率直な意見でした。
彼がこの絵を見せると、周りの者たちは、強ばった顔をして互いに顔を見合せます。
その後、彼が何を描いたのかを言葉巧みに探りました。
そして、答えが王冠だと分かった瞬間、王の器だと芸術の才も兼ね備えていると褒め称えたのです。
その時、王子様は気付いてしまいました。
彼らが自分を愛するのは自信ではなく、自身の揺るぎない地位なのだと。
次期国王となる自分に取り入れば、この小国で暮らすには十分なほど安泰になるから。
皆、腹にそんな欲を抱えて、王子様に愛の言葉を囁いていたのです。
それからの王宮での生活は王子様にとって、とてもつまらないものになりました。
欲しいものを欲しいといえば手に入り、いらないと言えば跡形もなく視界から消えていく。
何をしても褒められ、崇められ、そんな日常に飽き飽きしていました。
自分を心から見てくれる人に出会いたいと、忌憚なく自分に意見を言う誰かに出会いたいと、窓の外を眺める日々。
そんな退屈な毎日を送り続け、王子様が8歳になった時でした。
王宮に騎士団の荒らげた声が響きました。
「敵襲です!ルヴェール軍が……王都に!」
王子様は何が起こっているのか理解できず、その場に呆然と立ち尽くしてしまいます。
「お逃げ下さい殿下!」
側近の声とともに、王子様は手を引かれ、王宮の秘密扉を通り、逃亡を試みました。
しかし、王子様がそこから出た先には、紫髪の若い男が待ち構えていました。
「お初にお目にかかる。プリズメル王国第一王子、サン・ルフレ・プリズメル。
私はルヴェール王国、現国王、ユリウス・ルヴェール、ガラスの神子の加護の下、お前を殺す男だ」
大国の王は、王子様の喉元に剣先を突きつけました。
濃紫の短髪に、凶器のように鋭い淡紫の瞳。
それは王子様の記憶に一生残り続ける男との出会いでした。
「お前の両親は、お前を置いて逃げたらしい。見捨てられて可哀想なヤツだ。同情したから、一思いにやってやるよ」
自分を愛してくれていたはずの両親に見捨てられたという絶望と、今から死ぬのだという恐怖。
これまで、感じたことのない感情に取り憑かれ、王子様の身体は動きません。
隣国の王様は、容赦なく王子様を斬り付けつけました。
王子様の身体から大量の血が流れ、その場に倒れ込みますが……。
その時、青い光が彼の身体を包みました。
「えっ」
「は?」
斬りかかった王様も王子様自身もこの瞬間に起きた現象に驚きました。
なぜなら、致命傷だったはずの、大きな傷が綺麗に治っていたのですから。
「ハハ、これは面白い!此奴を残したプリズメル王の判断は非常に理にかなっているな!」
王様は額を大きく歪ませて、腹を抱えて嗤うと、動揺していた王子様に冷たい視線で刺しました。
「此奴を捕らえろ」
王様は冷徹な声で後ろに控えていた兵士達に命令しました。
そしてその瞬間、王子様は、王子様ではなくなりました。
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