俺がペットでペットがご主人さまで~転生者の殺戮場~

ryuu

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第2章

アカネの過去

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 部屋で待っていた竜生はアルピノアの帰りが遅く待ちくたびれすることもなく城の中を散策することにした。
 考えなしの行動だとわかっていながらも部屋の中で居心地悪く待ち続けるのも退屈で死ぬよりはましだろう。

「にしても、ひれぇー」

 城内の廊下を歩きながら窓辺から見える中庭らしきところを。
 月明かりのわずかな光で照らされた中庭は修練場なのだろうか。
 木材室の小屋や人型の模型のようなもの、あとは地が土くれでできており、庭園とかとは無縁の地形をしている。
 だが、その中庭もあくまで一角にすぎないのだろう。
 遠目に伺うと仕切りのようなものがありその奥には木々が生い茂った個所があるように見受けられる。

「転生した矢先にピノは美女になるわ、亡国とかいう軍勢と戦わされるわ。本当すげぇ体験してるよな俺ってば……」

 乾ききった笑みをこぼしながら窓辺から顔を離して前方に顔を向ける。
 足音が聞こえたからだ。
 誰かに遭遇すると厄介なことになるのは推測でき、柱の陰に身を隠す。
 足音はそのままふと、遠ざかるようにかき消えた。

「ふぅー、どうにかなったな」

 そう思いながら足を進め、数多くの部屋の扉を見渡していく。
『書庫』、『財務室』、『医薬室』etcこういった内容の部屋が多くありそれぞれには人が仕事をしてるのか声が聞こえた。
 この時間帯まで仕事をするのは労働基準的にこの世界ではありなのだろうかと考える。

「明らかに月が沈んでる‥‥この暗さから深夜だよなぁ」

 部屋の中にいる者たちはおおよそではあろうが午前中から仕事をしてるのであろう。
 体を壊さず国のために働く彼らは驚嘆する。

「俺は絶対いやだなぁ」

 などと思ってみても今後はこの国のために働かされるのであろう。
 アルピノアの発言がそれを示唆しているし何より竜生は彼女の奴隷だ。
 彼女の主人となったこの国の王女の命令にも逆らえはしない。
 なので、あながち国のために働けなどという指令がされてもおかしくはない。いや、もうされてるのであろうか。
 どちらにしても考えたくはない。

「なぁ聞いたか?」

 ふと、何やら不穏なうわさが耳に入ってくる。

「王城内に侵入していた他国のスパイってやっぱりサッカリア帝国の者だったらしいぞ」
「やっぱりか。でも、サッカリアってウチとは親しい仲だったよな。作物の輸入もウチから行ってるはずだったけ」
「そうそう。どうして、サッカリア帝国の傭兵がなんでウチの新米神官に攻撃を仕掛けたのかわからないから明日調査騎士団が組まれて調査に出向くんだとよ。しかも、その軍団の一部指揮官にその例の神官のアルピノアさんがつくらしいぞ」
「うそだろ、あの高飛車女が?」

 奇妙な会話に扉に耳を当て聞き入った。
 調査?
 その調査の軍をアルピノアが指揮するという話。
 だとするならば、それには自分も同行させられるのだろうかと不安になる。
 次第に緊張は外の空気と熱気を交え肌にその証拠が現れた。
 体が汗ばみ目覚めてからもらい着用している中世風の民族てき茶色のローブは肌に張り付いている。
 いやな感触からの解放感を求めるべくある場所を探すことを決意した。

「この時間的にもう誰も入りはしないだろう。探すとするか」

 忍び足でそそくさと移動を行い部屋の確認を行い続けて数分後、目的の場所を見つけた。

「お、あったあった。これがないなんてありえないもんな」

 大きな扉の表面には金属の表面でこの世界の文字で『風呂場』と書いてある。
 意志疎通ができるようにこの世界の言語も読み解くことができるので一発で理解した。
 この世界においての自自分の体の信憑性にますます不思議な疑問がわきあがった。

「まあ――っんなことはどうだっていいよな。さて、風呂風呂」

 扉を開ければ地響きが鳴りどきりとしたがすぐに誰にも感づかれていないことを確認でき入室を行う。

「案外、俺のいた世界と変わらないな」

 着衣室に浴場と仕切る扉が見えた。
 着衣室も無駄に広く温泉旅館のような形で広い洗面台などもしっかりと備え付けられてあった。
 まさにビバ温泉と言う雰囲気が伝わる。

「金持ちはすげぇ」

 感慨にふけりながら衣服を脱ぎ浴場に入る。

「うぉおおおおおお」

 見事な王室ご要達しの風呂場だと言える。
 かなり広々とした浴室。まるで、室内プール以上の広さがある。
 蛇口は金でできてるのか、きらびやかな輝きを誇り湯気の中でもひときわ目立つ。
 部屋の隅にはサウナらしき部屋も。

「金持ちぱねぇ」

 他にも洗い場もしっかりと完備。
 さっそく洗い場でシャワーらしきもので操作を難儀したが体を石鹸などを使って洗い流し浴槽につかった。

「ふぅー、生き返るぜ」
「そこに誰かいるのですか?」
「っ」

 何者かの声に思わず声をひきつらせ素早く背を向ける。
 声色からして明らかに女性。
(なんだって、こんな時間にィ)
 予想外の事態でテンパリ、右往左往としてしまう。
 その間に彼女は浴槽へつかったのか波が立ち竜生の体を波しぶきが撃つ。

「ん? その体つきからして同僚の者ですか?」

 などと彼女が聞いてくる。
 同僚として勘違いした彼女に救われたが状況はますますまずくなった。
 一瞬にして言語理解が乏しくなったが彼女が続きをしゃべりだした。

「聞いてるんですか?」
「……」

 血の気がさぁ―と引いていく。

(どどどどどうしよう)

 ココは――

「あ、アカネ騎士団長、どうも!」

 極力裏返った声色を使い返事をした。

(さすがにばれたか!?)

 爆つく鼓動。
 彼女の方は見ないままに背を向け、彼女の反応を伺った。
 竜生は気付いた。彼女の足取りがどこかおぼつかない。それは視力の悪い人がまるで、足場を頼りに歩いてるかのような感じだった。


「訓練でもしていたのですか? このような時間帯に入るのは上官職だけですのよ」

 どうやら、彼女は竜生だと気づいてはいなかった。
 同僚の部下だと思いこんだようだ。
 
「眼が悪いと風呂場では大分苦労します」

 彼女はそういって朗らかに笑う。
 竜生は彼女の足取りのおぼつさの原因がなんとなくわかった。

「普段はメガネかけてないですよね?」
「メガネ? ああ、コンタクトしてるんですよ。あれ? 知りませんでしたか?」
「す、すみません。団長とこうして話をしたりするのは初めてなので」
「初めて?」

 竜生は自分の失言に喉をひきつらせた。
 これはもうバレたと確信したが彼女は視界の悪さもあってか声を裏がえらせただけで大分信じていた。
 
(そこまで目が悪いのかよ……)

 彼女は傍によって近くに腰を下ろした。
 次第に彼女は訥々と胸の内を訴えかけた。

「そういえば、皆私のことをどう感じてるのでしょうか?」
「へ?」

 思わぬ問いかけに声をあげてしまう。

「どうってそれは真面目で良き団長だと思っていますよぉ」

 彼女は感謝を述べた。反応がないので彼女の顔を伺った。どこか浮かぬ顔をしている。

「どうかしたのですか?」

「あなたもご存じでしょうけど私は数年前にこの世界で放浪していたところを救われた者です。そんな私はある意味では王国の先代国王の助力もあって今の身分にいるほかならないとか思われてるのでしょうね」
「……」

 彼女の話は大変興味深く聞き耳を立て話の続きにも自然と聞き入った。

「仮にあなたもそう思ってるのだとしたら正直に言ってください。一人の私の部下としてそれに対して私もそれ相応の振る舞いを心がける努力をします。確かに、私はアカネ・キサラギという名前しか記憶がなく昔のことなどほとんど記憶のない謎の女です。ですが、先代の『アリルアンヌ大国』国王のおかげで生を生きながらえ、今の地位にいる。まぁ、その点からコネで騎士団長になったなんて思われても仕方ないような女性でしょうから」

 彼女が赤髪の騎士だという事実に衝撃を受ける。しかし、その恐怖よりも彼女の話が興味を引き立たせ恐怖を打ち消した。
 アカネ・キサラギという名前には少し引っかかりがあった。彼女のその名前は日本独自の名称に他ならないのだ。
 しかし、彼女の生まれも育ちもどことなくこの『アルフィルド』というのをにおわせていたからこそ取っ掛かりなんてないようにしていた。
 しかし、この発言から数年前に起こった亡国との戦争とは。

(その当時彼らが狙ったのは――)

 それ以上の言葉は頭の中でかき消した。この事実は彼女に辛いことを突き付けることになる。そして、王女に対しても。
 そんなことを考えていたらおもわず思ったことを――

「それはない。アカネさんが十分に努力をした結果が今の地位じゃないのか。王様だってそれを理解したうえでその座を任せてるんだろう」

 つい口に出ていた。
 次第に彼女は笑って感謝を述べた。
 普段はキツイ表情を浮かべてその表情しか見慣れていなかった竜生にはあまりのギャップにどきりとした。

「っ!」

 幸か不幸か。どきりとした矢先に湯気がゆっくりと薄れ始めた前を見た。
 そこには洗面台の鏡があり、遠目からわかるほどに背後の彼女の裸体をわずかに写しこんだ。
 きめ細やかな肌に白くて美しすぎる肌色。そして、俺のいた世界では珍しいほどに純色の赤い髪。
 整った美貌や肢体。豊満な胸の半分が湯につかっているもそれはどことなく浮いてるという表現が正しい。
 鏡に映り込んだ裸体を見てしまったことがばれたら首を撥ねられるどころか、殴殺処刑もんだ。
 緊張に汗が吹き出しこきざみに体が震えだし身の毛がよだつ。

「ん? どうしたのです? 体が震えてますね。 寒いのですか?」

 ふと彼女の指先が竜生の体に触れた。

「ひゃわいっ」

 めっちゃ変な声を出した。

(変な声でちゃったよぉおお!)

 心の中で叫びをこだまさせ彼女の反応が地獄への扉か天国への階段かと硬直させた体で待機した。
 逃げればいいだろうがと体ではわかっていても動けない。なぜなら、俺はチキンで変態だから。

「たくましい体つきしてますね。にしても、なんですかその声。ふふっ」

 天国だった。彼女はひとしきり笑う。こちらもその状況に安堵していく。
 だが――。

「ん? あなた本当に女ですか? だいぶ体つきが――」

 彼女は体つきをなぞるように確認していく手つき。
 しかも、肩幅を明らかに確認しているようななぞり方が妙になまめかしい。

「っ!?」

 竜生は脱兎のごとく逃げ出す。
 だが、その体は浴槽の中で宙を舞い水に体は打ちつけられ沈みゆく。

「お、おまえ!」

 彼女と正面から向き合うようにして目が合う。
 しかし、こちらは彼女に水辺に沈められ、仰向け状態のまま首を絞められて強引にその彼女の豊満な胸を竜生の胸板に押しつぶさんばかりに押し付ける形になった。
 それが竜生の血流を良くしてかなりまずい状態へ。
 彼女はそのまま下腹部に腕を伸ばそうとする。
 暗殺技法の要領なのであろうか、もしくは男女の確認を行うために何かをするつもりなのか。

「ちょっまっ――」

 静止の声が届き彼女はイチモツへ鋭い手刀の先を突きつけて止まる。竜生はひやりと背筋の凍る思いで身震いした。
 彼女は下腹部を確認して顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。

「なんでそんなになってるんですかぁああ!」

 かわいらしい悲鳴とともに竜生の体を解放し手を抑える。
 竜生は竜生でせきこみながら慌てて下腹部を両手で隠しちゃんと付いてることを確認してほっとした。

「はぁ、はぁ。なんでってそりゃぁ男は女の裸体を見れば生理現象でそうなっちまうもんなんだよ。つか、そっちこそいまとんでもねぇことしようとしやがったな!」
「それはおまえが男か女か確認するために――ってそんなことはどうだっていいんです! 先ほどの声やそれに体つきが明らかに怪しかったと思えばやはりですね」

 鋭く座りきった瞳を更に細め、竜生を斬り付けんばかりの眼光を向けた。

「もう許さないです。王女殿下には後で貴様が犯罪に及び私を犯しそうになったという不敬罪で私が防衛のため殺したというように伝えます。さすれば、アルピノアも仕方ないと承服するでしょう」
「ふざけんな、俺はただ風呂に入ってただけで殺されるわけにはいかねぇ!」
「何を言いますか。おまえは無断で王族の風呂場を使用することも罪なのです。おまえのような下賤な輩は外風呂を使うのがルールだということも知らないのですか!」
「しらねぇよ! なにぶんよそ者なんでね!」
「なら、その体にしっかりと罪の意識を叩きつけてやります! まずは、そのイチモツを斬り落とします!」
「ちょっ!」

 彼女が虚空に手を掲げると右手に赤い刀身の燃えるような剣が握られた。
 その剣は振り下ろされ浴槽内のお湯を蒸発させ斬撃が竜生を襲う。
 素早く横っとびに回避したが波の衝撃が体を撃ち浴槽の淵に体を叩きつけられた。

「死をもって償えっ!」

 その時だった、飛びかかった彼女を横合いから襲う光の球。
 水辺に落下して沈む彼女。

「まったく、何をしてるんですの?」
「この馬鹿、部屋でおとなしくしてなさいよね。それからさっさと下を隠してよ!」

 浴場の扉の前には二人の美女が立っていた。
 それはこの国の王女とアルピノアだった。

 *****

 コテージにアルピノア、リーシア王女、そしてあのアカネという女騎士と来ていた。
 王城の奥まった裏にあるそのコテージには夜に煌めく輝かしい花々が満開にあたりに咲いていた。その全貌なる光景に我を忘れ息をのむ。
 どの花たちもこの『アスフィルド』という場所にしか生育していない花なのであろう。
 コテージのそんな中心にひっそりとしたカフェを楽しむための木製の机といす2脚があった。
 女騎士が椅子を座りやすいように後ろに下げ王女をそこに座らせる。
 すると、流し眼でアルピノアが何かを竜生に訴えてくるがさっぱりとわからず首をひねった。

「椅子に座らせろって言ってんの!」
「はぁ? 自分でしろよ、そのくらい」
「私はご主人さまよ!」
「あぐぇ」

 鋭い手刀が喉元を命中しカエルが潰れたような鳴き声をあげながら涙ながらに従いアカネ同様に座りやすいように下げアルピノアをその椅子にどうぞと促した。
 だったが、アルピノアはしばらく座ることなく何やらこちらを見て今度は脛を蹴り竜生はたまらず足を抑えうずくまる。
 その背にどっかりとアルピノアは腰を下ろした。

「おい、降りろ!」

 竜生はそこまで重くはなくとも人を背にのっけながら立ちあがるのには結構な力がいる。
 なかなかに筋肉が不足してるのか腕に力が入らず立ち上がれない。

「ちょうど椅子が3個分あったしアカネさんそこにすわったらどう?」
「おい、話を聞け!」

 アカネも反応に戸惑いこちらをうかがうも先ほどのことがあったからかすぐに目が険しくなった。
 まるで、ざまぁとでも言いたげなその表情に腹立たしさが煮えたぎった。

「そうだな。ありがたく、座らせてもらいます。アルピノア」

 そう言って彼女が腰をかける。

「では、よろしいですわね」
「よろしくねぇよ! 俺の状況を何とかしろ!」
「黙ってなさいイヌ!」

 王女の仕切りの声を阻害し状況の要求を求めたが容赦なくアルピノアが座った上にバウンドさせたことで口封じのようなことをさせられる。

「うぎぎ」
「いいですから、どうぞお姉さま」
「では、まずアカネも風呂の件のことは水に流してくださいますわね?」
「はい、構いません王女殿下のご命令とあるのならば」

 彼女は忠実な兵士のごとく従うように平伏した。
 椅子に座ったままでも頭を下げる精神は感心する。
 だが、その姿はどこか、上司に叱られた部下の絵に見える。

「ですが、王女殿下、この度の任務にあなたも同行するのはいただけないご判断です」
「そう言うと思い、今ここで4人だけで話し合いを設けたいと思いますわ」

 実はくだんの風呂騒動はかなりの罪に問われるはずだった。しかし、アルピノアが話をする例の任務に行くためには竜生も必然的にどうこうすることになるために不問とされた。何よりも今回起こった不祥事は事故のようなものだから。風呂の騒動の最後に彼女が止めに入ったのも理由としては竜生が怪我でもして任務で使い者にならなくなると困るからだそうである。
 あの異様魔法は大きな戦力として見込んでるそうであった。

「俺もこの状態でもいいから聞かせてくれ。シルバレットの後の戦争で命を救われたことに感謝して任務ってやつに参加するけど任務って概要は? 」

 亡国の軍勢騒動の一件。あれで、命を落としかけたがアルピノアや王女殿下の手腕があってどうにか生きているのである。それ以上に今回の任務が亡国に関するならばそれは自分に関係ないとも言い切れない。
 本当の理由はそこだった。

「この4人による派遣調査ですわよ」
「あ? 派遣調査?」
「馬鹿犬。派遣調査は遠征よ。私たちのいた世界では戦争なんかでいう偵察の様なことを軍隊でおこなうの」
「意味は理解してるっての。なんで、そんなことをするかって話だよ。なにかあるのか?」
「ありますわ。件のあなたが目覚めた直後に行った会談の場に突如として乱入した男は覚えていますわね?」
「え、ああ」
「その男はサッカリア帝国といって鉱物物資が盛んな武器の宝庫として知られる国の傭兵ですわ。その国には我が国も友好関係を結んで武器の輸入をしてもらっていますわ。代わりにこちらは作物を輸出していますわ」

 風呂に入る前に聞いた噂が脳裏をよぎった。つまり、調査の意味は彼らが――

「亡国の手に落ちていないかの調査ってわけか」
「そういうことですわ。国自体が手に落ちているのであればこちらも友好関係を考えなくてはいけませんわ。今回はあくまで一人の傭兵でしたしこちらも伝書鳩を飛ばして告訴をしましたけど返答はありません。ですから、早急にこちらから出向くという手段に講じますわ」
「ふむ」

 理由的には妥当な選択だ。こちらの不安材料になるのならば早急な解決策として作物の輸出もストップさせ改めて関係を考えなくてはならないのだろう。政治的側面の問題。

「まぁ、政治のような難しい話は詳しいことまではわからないけどもその調査に力を貸せってことだろ。亡国の連中は俺の命も狙ってるし協力はするさ。それで、作戦とかはあるのか?」
「ありますわ」

 そう言って机の上に大きく広げた『サッカリア帝国』首都アストラントと書かれた地図。
 『サッカリア帝国』の首都が今回の目的地らしくやはり、国と言うだけあり地域もそれなりに豊富なようだった。

「今回の目的地は首都『アストラント』ですわ。この場所には帝国の城もあり向かうのに適していますわ。まず、私が一人で城内に潜入をして城主と話をしてみますわ」
「っ! 危険です! 何をお考えなんですか! 私も同行いたします!」
「だめですわ。かえって怪しまれることになりますわ。ですから、一人で乗り込んで敵の猜疑心をあおらずに対応するのがいい作戦ですわよ」

 彼女の意見には説得力はあったが城主を一人で生かせるという危険もまた然りである。
 これにはどのような対応が一番適してるのかは分からない。

「では、私の犬を同行させるのはどう?」
「あ?」

 これに対して驚きの発言がなされた。

「ピ‥‥アルピノア何を言ってるんだよ。俺が姫様に同行? いやいや、無理だって。煽るだろどちらにしても」
「いいえ、そんなことないわ。使い魔としての同行なら敵をあおることはそこまでないんじゃないかしら」
「まさか‥‥」

 その考えが読めて悩ましげにこめかみを押さえる。

「考えはわかるがばれたときが危険すぎるぞ。第一俺はあの魔法を自分でどうやったかのさえわからないんだ」
「だったら、できるように少しは努力しなさいよ」
「んなこと言われたって無理なもんは無理だって!」

 その反論を口にするもアカネと王女の反応は好感的であった。

「なかなかいい作戦です」
「確かにそれなら護衛として付けても問題ありませんわね。でも、あの黒い獣ではない方がいいですわ」
「おかしいおかしい! 絶対おかしい! そんな危険な作戦を実行できるか! 下手したら殺されるだろう!」

 さすがに我慢が切れた。
 このような作戦はあまりにも無謀である。相手が亡国ならば即刻ばれそうなものだろう。

「亡国に支配されてる状態だったらどうするんだよ。入城して早々にばれかねないぞ。相手の幹部を殺してるんだ。こっちの素性だって割れてるだろう!」
「仮に支配されていたとしても問題はないでしょう」
「は? なんでだよアカネさん」
「はぁ? わからないんですか? 支配をするにしても情報の伝達とは全部にいきわたるのにはおよそ数時間かかります。特に亡国は同盟国に対して与える情報は彼らはそこまでないです。つまり彼らにとって同盟国もただの捨て駒に過ぎません」
「だったら、行く意味ないじゃないか! 捨て駒な国に調査してどうするんだよ!」
「意味ならありますわよ。少しでも敵の居場所の情報を探るんですわ」
「は? 敵の居場所? 亡国の場所を知ってるんじゃないのか?」

 そう言った途端に馬鹿を見るような目が突き刺さる。

「よく考えなさいよ。もし、知ってたならとっくに進行攻撃なりしてるでしょ。みんなわからないからこそこうやって手をこまねいたりしてるんじゃないの」
「ああ」

 言われてみればその通りだ。
 何年もたしか、何処の国も亡国へ攻撃を仕掛けたことなど戦時のただなかの時だけだ。
 相手の居城に攻撃を仕掛けた話など聞かない。

「つまり、敵の情報を得るのが目的の調査なのが本来の目的ですわ」
「得られなかったらどうするんだよ」
「その心配はありませんわ。シルバレット戦の際に兵士たちが使っていた武器はサッカリア帝国産の物でしたわ。ですから――」
「確実に何かの情報があると見込んでるのか」
「ええ」

 元々つながりはあったわけだったか。
 すると、女騎士が立ち上がり腰につるした鞘から剣を抜く。

「そういうことです。では、立ち上がりなさいモガミリュウセイ」
「ん? なんでだよ」
「あなたを鍛えます。明後日に備えてあなたがあの魔法をしっかりと使えるように。どうやら使えないようですので」
「ちょっと待てよ! 訓練だぁ? 今から!? 深夜だぞ。睡眠時間は?」
「そのようなものは必要ないです。国のためならば」
「いやいや、死んでしまうって!」

 必死に顔をこわばらせアルピノアに援助の視線を送ってみるも無視をされた。

「では、まず彼のことはアカネに任せますわ。して、私が城主と話をしてる間にアルピノアとアカネはこの区域の傭兵所から聞き込みを――」

 そのまま俺はアカネに襟首を掴まれてどこかへ引きずられていく。

「おい、マジでするのか!? どんな訓練か知らないが少しは睡眠をくれぇえ!」

 そうして、竜生だけがアカネに引きずられ連れてかれた。
 その中でも二人の彼女たちは話し合いを続けた。
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