サ終手前の元覇権ゲームを極めた俺、再ブームした世界で無双する。

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第2章 第1回エリアイベント編

第9話 黒鬼

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「トーマ。いた。」

何処か少し空気がピリついたような気がする。
それが報告を受けての緊張感なのか、待ち受けている存在の威圧感なのかは分からなかった。


「奇襲はだめ。」

「危険か?」

「ん。あれはまずい。」

ウカがそこまで言うならそうなのだろう。少ないやり取りながらやばさが伝わってくる。確実にレベル帯にそぐわない格上、 難易度の高いクエストだ。


「…正面から行こう。基本はいつもの陣形、ただハルはいつもよりもう少し深めに距離を取って欲しい。」

「…分かりましたっ。」

「よし。行こうか。緊張せず、楽しく、な?笑」

「はいっ。」
「ん。了解。」


イレギュラーをなくすために正面から対面する。
ウカが示した方向に少し行く、森が少し開けたところに奴はいた。


一言でいえば、。 

平均的なゴブリンと比較すると一回り大きな体躯。影のような、どこか吸い込まれそうなくらいの闇を持ち合わせた黒い肌。ギラつく鋭い牙と爪。その手に鈍く煌めく五〇センチ強の刃渡の切れ味の悪そうなナタ。こちらをしっかりとその目に捉える双子の眼。

周囲に取り巻きはおらず、孤高の存在。
ゴブリンの上位存在と言われてもなんら違和感のない、他とは違うと雄弁に語っているような風貌であった。


俺とハルは正面から進む。
当然敵には視認され、警戒を与えたかに思えた。いや、思いたかったのかもしれない。


「グギャギャ…」

「なんだ…結局偽情h「ニングン…カ…」

…!
たどたどしくはあるが確かに意思のあるような発言をした。間違いない、相手はネームドクラス。


「総員警戒!」

ウカは既に背後を取っていることだろう。まずはひと当て、どう対応されても良いように深く切り込まず居合の構えで接近する。

またウカもこちらの邪魔にならないような角度から攻撃を仕掛けようとしているのを視界に捉えることができた。
少なくともどちらかの攻撃は当たるだろう。


普通のゴブリンだったならば。


「は…?」

赤い液体が頬を伝う。

目の前の影はニヤリとこちらを見つめていた。


「ハル!引いて!」

左腕から血を流すウカが似合わない声で叫ぶ。

「え、え…?」

ハルが戸惑うのも無理はない。

「ハルは私と後方! 全力支援! 」

ウカが叫ぶと同時、俺は前に出る。
後ろに向かわせては行けない。相手は俺だ。


問題は正体不明の攻撃。
目に捉えることはできず、殆ど直感で動いていた。頬に掠っただけで済んだのは運によるものが大きいだろう。ウカだって素人じゃない、左手に浅くない一撃をもらっている以上警戒レベルを上げる必要があった。


「ハル! 敵の動きがわからない! 状況が見えるまで近づかないでくれ!」

「分かりました!気をつけてくださいね!」

ハルの気配が遠くなる。混乱してる中動けるなどなかなか出来ることではない、現状とても助かる判断力だ。


思考を目の前の異質へ向ける。俺が集中する相手は目の前のこいつだけ。………よし。

攻撃手段がわからない以上不用意な接敵は愚直、かといってハルに遠距離を頼むのもヘイトが散らばってしまう。取れる行動を考える。

後衛へとヘイトを向けないために攻撃せんとする姿勢は崩さない。抜刀状態を崩さず隙あらばお前の喉を叩き切るぞと言わんばかりの殺気を向け続ける。

カチャ…
腰に刺してある鞘が音を立てる。

!!!
直感が体を反らせと警鐘を鳴らす。
それに背いて良かった事などなかった俺は疑う事なく直感のままに体を動かした。

左の二の腕が熱を待つ。
どうやらまた不可視の攻撃を受けたようだ。


隙を見せないように思考を巡らせる。考えろ、考えろ。
自分の長所が目である事はかなり前から自覚している。視覚から得られる情報を脳内で整理し続ける。考える。考える。
わざわざナタを持っているのだ、メインの攻撃手段は近接だろう。であるにも関わらず被弾したのは俺とウカの2人。
全く別方向から攻撃しているにも関わらずほとんど同タイミングで一撃をもらっている。何があった?

得られているヒントが少ない… AVOは高難易度であれど理不尽ではない。なにかどこかにヒントはあったはずだ。もっと街で情報収集をするべきだったか、始まりの街だからと舐めていたのを咎められたというのが今回のミスだろう。



強いて思いつくならば… …か?
このままではジリ貧だ。不意に思いついた要素に物は試しと、先ほど情報料代わりに購入していたかんしゃく玉を黒ゴブリンに向かって投げつける。

急な飛び道具は予想していなかったのだろうか、少し驚いたような動きを見せた黒ゴブリンは「なんだただの石ころか」、と言わんばかりの顔をしたままナタでそれを切りつけた。


『パァァァァン!!!』

炸裂音が鳴り響く。正真正銘命がかかることもあるこの世界のアイテムだ、現代日本で購入できるおもちゃなど比べ物にならない音が黒ゴブリンを襲う。


「グギャアアアアアア!」
「ピィィィィィ!」

上位個体だからと音に対しても体勢がついていたわけでもなく、真正面ゼロ距離で喰らった黒ゴブリンは耳を押さえて悲鳴と共にうずくまる。
と同時に何か影が落ちてきた。悲鳴をあげていたもう一つの声の主だろう。


最大の好機。
接近しつつ広報に指示を出す。


「ハル!ゴブリンをやるぞ! ウカは落ちてきた方を頼む!」

「りょ!」
「分かりました!」

ずっと気を抜かずこちらを注視してくれて居たのだろう。戸惑うそぶりも見せず接近してくれるウカと射程距離に入るハル。


相手の状態を考えるとハルの魔法が届く頃にはスタンは解けているだろう、ここは機動力を奪う。

俺はハルの射線を邪魔しないように少し横に広がるように走りつつ、黒ゴブリンの足を上段から切りつけ返しの刀で胴体に一閃、その身で後退する。


「グギャァァァァァア!?」

蹲った姿勢から立ち上がらんとしていた所を切り付けられたゴブリンは悲鳴を上げながら再度姿勢を崩す。それでもその手に持ったナタをこちらへ向けて振ってくるのだからただでは死なんという覚悟が伝わってきた。

先に足を潰していなければこの距離では足りなかっただろう。そのくらいの執念の攻撃だった。

奴の目は諦めていない。まだ終わってないぞと言わんばかりに歪んだ顔に睨まれる。


「先輩!」

どうやら時間稼ぎには事足りたようだ。
おまけと言わんばかりに切り払いを見舞って後方に引く。と同時にハルの唯一にしてモンスターに対しての最大火力、光の箒星ルミナスシュートがゴブリンに突き刺さる。


高火力の魔法が直撃した黒ゴブリンはその場に倒れ伏した。しかし討伐メッセージは発生していない、まだ息があるのだろう。
ネームドモンスターやボスモンスターなどはその他雑兵と違い一定時間その場に死体が残るのだ。討伐メッセージが出るまでは安心してはいけない。

情報は惜しいがウカの方が気になる。さっさとトドメを刺すべきだろう。
警戒しながら接近し首元に一閃しようとしたその時、


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☆ワールドアナウンス☆
初めて日本エリアでネームドモンスターが討伐されました。

達成者:ウカ

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…どうやらあちらも片付いたようだ。
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