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冒険編
5.光壁バッ!復活と堕ち者の恐怖!
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異世界ミフラ。
ここは、「魔法」「発現」等、"想い"が具現化する世界──。
ストーンガーデン教会・2F──
廊下。
夜だが、照明は十分だ。
セレナ「あら、ドロシーちゃん?」
ドロシー「セレナさん」
セレナ「廊下は冷えるわよ。部屋に入ったら?」
ドロシー「ドロシー、ここでいいです」
ドロシーは、廊下の椅子で足をブラブラさせながら、「ドロシーがいると、師匠、泣けないから」と、続けた。
セレナ「……そう。じゃあ、はい。貴女の分のスープ」
ドロシー「わあ!ありがとうです!」
セレナ「ねえ。ドロシーちゃん。どうして、アッシュ君に弟子入りしてるの?」
ドロシー「カッコいいからです!」
ドロシーは、カップに入れられたコーンスープを、ふーふーと冷ます。
ドロシー「ドロシーも、師匠みたいにカッコよくなりたいです!」
セレナ「そう──カッコよくなりたい、か」
「良い子ね」ドアノブに手をかけながら、セレナは言った。
ぱたん。
ドロシー「……」
ドロシー「ドロシー、褒められたです!セレナさんもいい人です!」
アッシュ「アリサ……」
ごめん。
と、何度呟いただろう。
ベッドの上のアリサが、仄かな灯りに照らされている。
やがて扉が開き、
セレナ「貴方も倒れちゃうわよ」
アッシュ「セレナさん……」
少しして、セレナの”ルーティ”の光が、部屋を照らす。
急激な魔法での回復は、身体に負担がかかる。それに彼女は瀕死だから、時間をおいて”ルーティ”をかけていく、と、彼女は説明していた。
セレナ「──私は魅力ない?」
アッシュ「え?」
セレナ「聞いているわよ。貴方、なかなかやるって」
アッシュ「ここで言ったら最低野郎ですよ」
セレナ「あら。男なのね」
アッシュ、コーンスープの湯気を、額にあて。
アッシュ「俺の所為なんです。……全部。アリサがこうなったのも」
セレナ「アッシュ君」
アッシュ「気付いてやれなくて、粋がって、クエスト選んで。それで負けかけて……アリサを、巻き込んだ」
「それは、違うと思うな」と、セレナ。
アッシュ「え?」
セレナ「ごめん、の一言は、あってもいいと思うけど。でもアリサちゃんも、”巻き込んだ”とかは、思ってほしくないはずよ」
アッシュ「セレナさん……」
──アリサちゃんは、お客様?
と、セレナは言う。
セレナ「違うでしょう?戦友のはずよ。彼女も、分かって、着いてきている筈よ」
アッシュ「……」
セレナ「と、私は思うわ」
アッシュ「すごいですね、セレナさん」
「本当に口説いちゃおうかな」と、アッシュ。
セレナ「あら。私は聖職者よ?」
アッシュ「恋敵が神とは燃えますね」
セレナ「戦ってみる?神様と。”愛の勇者”くん。──さ、スープを飲んで。王子様がそんな顔だと、目覚めたお姫様がガッカリしちゃうわ」
「あちっ!」と、アッシュ。フフと、セレナが笑う。
気持ちが、少し和らいで、ウトウトと。
していたら「ん……」という声に、アッシュは目を覚ました。
アッシュ「アリサ……?」
アリサ「……アッシュ?」
アッシュ「アリサ!」
と、アッシュ、アリサの方に寄る。
アッシュ「アリサ、ごめん!俺……」
アリサ(――ああ)
と、アリサは思った。
どんな風に待っていたか、顔を見ると、分かってしまう。
アッシュ「アリ……」
アリサ「ったく!」
アリサは、上体を跳ね上げると、ゴッ、とアッシュを小突いた。
アリサ「いいから!もう、いいの!」
アッシュ「アリサ」
アリサ「何!?」
アッシュ「その、服……」
アリサ「へぁ!?」
きゃああああ!わああああ!と、教会らしからぬ俗な悲鳴。
「アリサさん!」と、ドロシーが入る。
セレナ「……元気ねえ」
ストーンガーデン、街中――
セレナ「ごめんなさい。魔法が効きやすいように、上を脱がせていたんだけど。起き上がっちゃうなんて」
アッシュ「起き上がっちゃうなんて……」
アリサ「スケベ!最低!」
アッシュ「見えちゃったんだよ!感覚で分かれよ!」
アリサ「見るな!」
アッシュ「無茶言うな!」
ドロシー「何が見えたんですかー?」
アッシュ「ピンクだった」
アリサ「殺ーす!」
ドロシー「師匠、煙あがってるです」
アッシュ「ひ、引き上げてくれないか?ドロシー」
ドロシー「師匠、上半身が地面に埋まってるです。うんしょ、うんしょ……」
アッシュ「説明有難うな、ドロシー」
アリサ「……それで」
アリサ「貴女は、何者なんですか、セレナさん?」
セレナ「え?」
アリサ「教団から、派遣されてきたんですよね?悪い人じゃないのは分かりますけど……何のために?」
セレナ「……」
アリサ「……」
セレナ「分からないの。でも、貴女を安心させる情報ならあるわ。派遣を命じたのは、”元老”アクラレル」
アリサ「アクラレルさん……!」
アッシュ「お!すっげぇ美人!ねーねーお姉さんー!」
ドロシー「あ!猫さんです!お魚美味しいですかー?」
アリサ「あっ!ちょっと、アッシュ……」
ガッ、と、右腕を掴まれる。
セレナ「質問は、終わりみたいね?」
「じゃあ次はこっちの番」セレナは、言って、
セレナ「貴女。あの力、もう使わないで」
アリサ「何……?」
何て鳥かは、知らないが。やけに大きい声で、鳴きながら飛んでいく。
セレナ「──勿論、危険な旅よ。使う事もあるでしょう。でも貴女……アッシュ君やドロシーちゃんから聞いたけど、あの力、いつも使ってるわよね?」
アリサ「……」
セレナ「あの力のリスクは高い。生命力に心。貴女は分かっている筈よ?まるで、誰かに認めてもらいたいみたい」
「アッシュ君?」とセレナは聞いた。
アリサの頭に、あの景色が。
セレナ「そんな事しなくても、彼は──」
アリサ「それじゃ駄目なんです」
アリサが、俯いて言う。
アリサ「彼奴が何も言わないからって、それじゃ、駄目なんです……」
セレナは、黙り。
そして、息を吐いた。
セレナ「あの力、使いすぎると、貴女、アッシュ君の前から消えちゃうわよ」
アリサ「隣……」
セレナ「隣?」
「私、隣に居たいんです」と、アリサ。
セレナ「──隣でも、よ。貴女はそれで良くても、彼を苦しめる事になる。分かったかしら?」
アリサ「……」
セレナ「お説教が過ぎたわね」
「年を取ったわあ」と、セレナは苦笑した。
ストーンガーデン教会・2F──
アリサ「にしても!」
アリサ「遅い!彼奴、どこほっつき歩いてんのよ!」
セレナ「剣のチャージ中じゃない?」
アリサ「想像したら更にムカつく!」
ドロシー「ムカついてるですー」
ドロシー「ドロシーもムカついてみるですー」
セレナ「落雷の気配がするわね」
アリサ「私が雷落とす!ドロシーじゃなくても!」
セレナ「そんなに言うなら、アリサちゃん……」
アリサ「それは嫌です!」
セレナ(アッシュ君も大変ねえ)
「はぁーあ!」と、アリサは、ソファに寝転がった。
アリサ「彼奴があんなだから、私は……」
セレナ「……」
セレナ「──あら?」
アリサ「”見張り塔の二つ鐘”……」
ドロシー「闇魔法です!」
セレナ「様子を見てくるわ!」
ドロシー「ドロシーも行くです!」
アリサ「私も!」
セレナが、ドアを開ける動作を止め、アリサを見る。
セレナ「……あの力は封印よ、いい?」
アリサ「はい!」
セレナ「そう、じゃ、着いてきて」
三人、見張り塔へ。
見張り塔──
「ん?ええっと、教会の人かい?」
アリサ「と、冒険者です」
セレナ「鐘を鳴らしておられましたが……闇魔法使い、ですか?」
「ああ、その通りだ」
セレナ「まさか、クロエル……」
「いや、そうじゃねえ。けど、執行官達が出払っちまっててね……」
セレナ「場所はどちら?」
「西の、居住区だ」
「ありがとうございます」と、セレナは頭を下げた。
ドロシー「西の居住区です!急げ―!」
と、何故か先頭はドロシー。勢いで、雷が出、夜のストーンガーデンに、雷光。
ストーンガーデン・西部──
セレナ「この辺りかしら」
アリサ「暗いですね」
セレナ「足元に気を付けてね」
と、見張り塔から借りた灯りを手に、セレナ達がゆく。
民家が立ち並ぶが、みな、寝静まっていた。
セレナ(こんな中で、闇魔法を使われたら……)
と、被害を想定して、ゾッとする。
少し先は、もう暗い。
ドロシー「暗いですー」
そう言っていたドロシーが、突如「がっ!?」と、叫んだ。
アリサ「ドロシー!?」
セレナ「ドロシーちゃん!?」
セレナ、その様子を見、周りを見て、「しまった……」と、歯噛みした。
いつの間にか、三人が入る範囲で魔法陣が光っている。
「ひ、ひ、ひ」
ひーっかかった ひかかったあ
ひーっかかった ひかかったあ
「”デス”」
セレナ「”バッシュ”!」
と、セレナの前方に、光のバリア!
”それ”から放たれた闇のエネルギーが、阻まれて逸れる!
アリサ「セレナさん!」
セレナ「あれに触れないでね、アリサちゃん。……死んじゃうから」
アリサ「死……」
思わず、アリサは、一歩後ずさった。
ところで。
アリサ「酷い臭い……」
セレナ「敵の臭いね。……愚かにも、闇魔法に取り込まれちゃって、最早人ですらないわ」
──あれは”堕ち者”。
セレナが言う。堕ち者は、泥水のようなもので濡れたボロ布を纏い、そこから、顔だったような物、手足だったような物を、突き出している。
堕ち者「”デス””デス””デス””デス”!」
セレナ「”バッシュ”!」
と、デスの連撃!
それから、間が空くと、
セレナ「!”ハイ・バッシュ”!」
ボロ布の中に、鎖。
それが何本もあるらしく。じゃらじゃら、じゃらじゃらじゃらと。
セレナのバリアを、叩いた。
セレナ「くぅっ……!」
セレナ、見れないが、背後で呻いているドロシーに、
セレナ「ごめんなさい、ドロシーちゃん。もう少し我慢してね……」
アリサ「ドロシーに何があったんですか!?」
セレナ「魔力を奪う魔法陣よ。魔法に長けている者は、身体と魔力が同化しているから、奪われたらああなるの……闇魔法だから、私には効かないけどね」
「早く、ドロシーちゃんを助けないと」と、セレナは言い、「アリサちゃん。作戦を説明するわ」
セレナ「彼奴は、歪ながら知能を持っていて、”デス”が効かないと知ると、鎖攻撃に変えたわ。今から私が奴の動きを止めるから、仕留めて欲しいの」
アリサ「それなら……!」
セレナ「あの力は駄目。言ったでしょ?あれじゃなくても、”発現”出来る人って、戦士を極めた人なんでしょう?」
アリサ「……」
セレナ「自分の力を、信じて」
アリサ「──分かりました!」
鎖が、襲ってくる。
セレナは”ハイ・バッシュ”を展開しながら、その鎖が当たる所へ意識を集中して、凌いでいる。
突如、
セレナ「”ブライト”!」
光が発し、しかし、アリサには「白」に見え、目を開けていられる、不思議な光だ。
堕ち者が、大きくよろめいた。
セレナ「今よ、アリサちゃん!」
アリサ「はい!」
アリサ、石畳を踏み。
濡れた地面を踏み。
アリサ(信じるんだ)
投げ出された鎖を踏み。
ボロ布の端を踏み。
アリサ(戦士の、力を!)
そこに、至って。
アリサ「戦技”鉄斬り”!」
頭部に、剣が入り。
恐ろしい断末魔が、夜の闇に響いた。
セレナ「誰か、見に来てない?」
アリサ「大丈夫みたいです」
セレナ「まあ、怖そうなところに来たくもないか」
セレナの手では”ルーティ”が光っている。
ドロシー「う、う……」
アリサ「あの、それ。失った魔力も回復するんですか?」
セレナ「いいえ。身体が受けたショックだけね」
アリサ「成程」
「臭い所でごめんなさいね」と、セレナが言う。
アリサ「もう、鼻曲がっちゃいました」
セレナ「そう、私も」
アッシュ「うおっ!?くっせぇ!!」
アリサ「アッシュ!?」
アッシュ「よう!皆!……もう終わっちまったのか?」
アリサ「お早い御着きで」
アッシュ「怒るなって。剣のチャージしててさあ」
アリサ「聞きたくない」
アッシュ「俺のファンだ!って子がいてさ。それで、一気に金色に……」
アリサ「何で怒る方に進んでくんだ、お前はァ!!」
ごきぃん。
翌日、教会──
アッシュ「という訳で、街を歩いていたら、この手紙を渡されまして」
セレナ「確かに”元老”の封印ね」
アッシュ「ええ。だから、西に行こうかと」
アリサ「アッシュ」
アッシュ「ん?」
アリサ「その、私もごめん、なさい」
アリサ「あの力、けっこうリスクあるんだ。だから、考えて使う……から」
「戦友」アッシュは言った。
アリサ「戦友?」
アッシュ「セレナさんが言ってたんだ。俺たち二人にピッタリだなって。……改めて了解したよ。お互い、強くなろうぜ」
と、アッシュは肘で、アリサを小突いた。
西へ、西へと、太陽と共に。
手痛い、反省。アッシュ達がゆく。
第五章、終わり
【tips】
鉄斬り
戦士の戦技の一つ。鉄をも斬る一撃。
魔法③
ルーティ【聖】
聖属性の回復魔法。人体の”回復”を促進し、あらゆる傷を治す。
バッシュ【聖】
聖属性の光壁魔法。闇魔法はじめ、邪悪な力を防ぐ。上位魔法”ハイ・バッシュ”は、加えて物理攻撃や、他属性魔法も防げる。「バッシュ」「ハイ・バッシュ」両方とも、「どこまで防げるか」は使い手の力量による。
ブライト【聖】
聖属性の魔法。聖なる光で、邪悪なものをよろめかせる。
魔法陣
魔法の使用方法の一種。罠や結界など。「その他」属性のようであるが、紐解けば何らかの属性による魔法たちだ。
闇属性
神との誓約によって得る「聖属性」に対し、悪魔との契約によって、後天的に得る属性。存在自体が違法とされ、契約、使用すれば世界的機関「魔法院」によって処罰される。
特に最強魔法”デス”は、相手の命を奪う禁忌の魔法に指定されている。
また「聖属性」を得る際には「専心」の要素があるが、闇属性の契約にはこれがないため、闇属性を得ても元の四属性魔法はそのまま使える(例:火属性魔法を扱えた者は、闇属性の契約をしても、元の火属性魔法が使える)
ここは、「魔法」「発現」等、"想い"が具現化する世界──。
ストーンガーデン教会・2F──
廊下。
夜だが、照明は十分だ。
セレナ「あら、ドロシーちゃん?」
ドロシー「セレナさん」
セレナ「廊下は冷えるわよ。部屋に入ったら?」
ドロシー「ドロシー、ここでいいです」
ドロシーは、廊下の椅子で足をブラブラさせながら、「ドロシーがいると、師匠、泣けないから」と、続けた。
セレナ「……そう。じゃあ、はい。貴女の分のスープ」
ドロシー「わあ!ありがとうです!」
セレナ「ねえ。ドロシーちゃん。どうして、アッシュ君に弟子入りしてるの?」
ドロシー「カッコいいからです!」
ドロシーは、カップに入れられたコーンスープを、ふーふーと冷ます。
ドロシー「ドロシーも、師匠みたいにカッコよくなりたいです!」
セレナ「そう──カッコよくなりたい、か」
「良い子ね」ドアノブに手をかけながら、セレナは言った。
ぱたん。
ドロシー「……」
ドロシー「ドロシー、褒められたです!セレナさんもいい人です!」
アッシュ「アリサ……」
ごめん。
と、何度呟いただろう。
ベッドの上のアリサが、仄かな灯りに照らされている。
やがて扉が開き、
セレナ「貴方も倒れちゃうわよ」
アッシュ「セレナさん……」
少しして、セレナの”ルーティ”の光が、部屋を照らす。
急激な魔法での回復は、身体に負担がかかる。それに彼女は瀕死だから、時間をおいて”ルーティ”をかけていく、と、彼女は説明していた。
セレナ「──私は魅力ない?」
アッシュ「え?」
セレナ「聞いているわよ。貴方、なかなかやるって」
アッシュ「ここで言ったら最低野郎ですよ」
セレナ「あら。男なのね」
アッシュ、コーンスープの湯気を、額にあて。
アッシュ「俺の所為なんです。……全部。アリサがこうなったのも」
セレナ「アッシュ君」
アッシュ「気付いてやれなくて、粋がって、クエスト選んで。それで負けかけて……アリサを、巻き込んだ」
「それは、違うと思うな」と、セレナ。
アッシュ「え?」
セレナ「ごめん、の一言は、あってもいいと思うけど。でもアリサちゃんも、”巻き込んだ”とかは、思ってほしくないはずよ」
アッシュ「セレナさん……」
──アリサちゃんは、お客様?
と、セレナは言う。
セレナ「違うでしょう?戦友のはずよ。彼女も、分かって、着いてきている筈よ」
アッシュ「……」
セレナ「と、私は思うわ」
アッシュ「すごいですね、セレナさん」
「本当に口説いちゃおうかな」と、アッシュ。
セレナ「あら。私は聖職者よ?」
アッシュ「恋敵が神とは燃えますね」
セレナ「戦ってみる?神様と。”愛の勇者”くん。──さ、スープを飲んで。王子様がそんな顔だと、目覚めたお姫様がガッカリしちゃうわ」
「あちっ!」と、アッシュ。フフと、セレナが笑う。
気持ちが、少し和らいで、ウトウトと。
していたら「ん……」という声に、アッシュは目を覚ました。
アッシュ「アリサ……?」
アリサ「……アッシュ?」
アッシュ「アリサ!」
と、アッシュ、アリサの方に寄る。
アッシュ「アリサ、ごめん!俺……」
アリサ(――ああ)
と、アリサは思った。
どんな風に待っていたか、顔を見ると、分かってしまう。
アッシュ「アリ……」
アリサ「ったく!」
アリサは、上体を跳ね上げると、ゴッ、とアッシュを小突いた。
アリサ「いいから!もう、いいの!」
アッシュ「アリサ」
アリサ「何!?」
アッシュ「その、服……」
アリサ「へぁ!?」
きゃああああ!わああああ!と、教会らしからぬ俗な悲鳴。
「アリサさん!」と、ドロシーが入る。
セレナ「……元気ねえ」
ストーンガーデン、街中――
セレナ「ごめんなさい。魔法が効きやすいように、上を脱がせていたんだけど。起き上がっちゃうなんて」
アッシュ「起き上がっちゃうなんて……」
アリサ「スケベ!最低!」
アッシュ「見えちゃったんだよ!感覚で分かれよ!」
アリサ「見るな!」
アッシュ「無茶言うな!」
ドロシー「何が見えたんですかー?」
アッシュ「ピンクだった」
アリサ「殺ーす!」
ドロシー「師匠、煙あがってるです」
アッシュ「ひ、引き上げてくれないか?ドロシー」
ドロシー「師匠、上半身が地面に埋まってるです。うんしょ、うんしょ……」
アッシュ「説明有難うな、ドロシー」
アリサ「……それで」
アリサ「貴女は、何者なんですか、セレナさん?」
セレナ「え?」
アリサ「教団から、派遣されてきたんですよね?悪い人じゃないのは分かりますけど……何のために?」
セレナ「……」
アリサ「……」
セレナ「分からないの。でも、貴女を安心させる情報ならあるわ。派遣を命じたのは、”元老”アクラレル」
アリサ「アクラレルさん……!」
アッシュ「お!すっげぇ美人!ねーねーお姉さんー!」
ドロシー「あ!猫さんです!お魚美味しいですかー?」
アリサ「あっ!ちょっと、アッシュ……」
ガッ、と、右腕を掴まれる。
セレナ「質問は、終わりみたいね?」
「じゃあ次はこっちの番」セレナは、言って、
セレナ「貴女。あの力、もう使わないで」
アリサ「何……?」
何て鳥かは、知らないが。やけに大きい声で、鳴きながら飛んでいく。
セレナ「──勿論、危険な旅よ。使う事もあるでしょう。でも貴女……アッシュ君やドロシーちゃんから聞いたけど、あの力、いつも使ってるわよね?」
アリサ「……」
セレナ「あの力のリスクは高い。生命力に心。貴女は分かっている筈よ?まるで、誰かに認めてもらいたいみたい」
「アッシュ君?」とセレナは聞いた。
アリサの頭に、あの景色が。
セレナ「そんな事しなくても、彼は──」
アリサ「それじゃ駄目なんです」
アリサが、俯いて言う。
アリサ「彼奴が何も言わないからって、それじゃ、駄目なんです……」
セレナは、黙り。
そして、息を吐いた。
セレナ「あの力、使いすぎると、貴女、アッシュ君の前から消えちゃうわよ」
アリサ「隣……」
セレナ「隣?」
「私、隣に居たいんです」と、アリサ。
セレナ「──隣でも、よ。貴女はそれで良くても、彼を苦しめる事になる。分かったかしら?」
アリサ「……」
セレナ「お説教が過ぎたわね」
「年を取ったわあ」と、セレナは苦笑した。
ストーンガーデン教会・2F──
アリサ「にしても!」
アリサ「遅い!彼奴、どこほっつき歩いてんのよ!」
セレナ「剣のチャージ中じゃない?」
アリサ「想像したら更にムカつく!」
ドロシー「ムカついてるですー」
ドロシー「ドロシーもムカついてみるですー」
セレナ「落雷の気配がするわね」
アリサ「私が雷落とす!ドロシーじゃなくても!」
セレナ「そんなに言うなら、アリサちゃん……」
アリサ「それは嫌です!」
セレナ(アッシュ君も大変ねえ)
「はぁーあ!」と、アリサは、ソファに寝転がった。
アリサ「彼奴があんなだから、私は……」
セレナ「……」
セレナ「──あら?」
アリサ「”見張り塔の二つ鐘”……」
ドロシー「闇魔法です!」
セレナ「様子を見てくるわ!」
ドロシー「ドロシーも行くです!」
アリサ「私も!」
セレナが、ドアを開ける動作を止め、アリサを見る。
セレナ「……あの力は封印よ、いい?」
アリサ「はい!」
セレナ「そう、じゃ、着いてきて」
三人、見張り塔へ。
見張り塔──
「ん?ええっと、教会の人かい?」
アリサ「と、冒険者です」
セレナ「鐘を鳴らしておられましたが……闇魔法使い、ですか?」
「ああ、その通りだ」
セレナ「まさか、クロエル……」
「いや、そうじゃねえ。けど、執行官達が出払っちまっててね……」
セレナ「場所はどちら?」
「西の、居住区だ」
「ありがとうございます」と、セレナは頭を下げた。
ドロシー「西の居住区です!急げ―!」
と、何故か先頭はドロシー。勢いで、雷が出、夜のストーンガーデンに、雷光。
ストーンガーデン・西部──
セレナ「この辺りかしら」
アリサ「暗いですね」
セレナ「足元に気を付けてね」
と、見張り塔から借りた灯りを手に、セレナ達がゆく。
民家が立ち並ぶが、みな、寝静まっていた。
セレナ(こんな中で、闇魔法を使われたら……)
と、被害を想定して、ゾッとする。
少し先は、もう暗い。
ドロシー「暗いですー」
そう言っていたドロシーが、突如「がっ!?」と、叫んだ。
アリサ「ドロシー!?」
セレナ「ドロシーちゃん!?」
セレナ、その様子を見、周りを見て、「しまった……」と、歯噛みした。
いつの間にか、三人が入る範囲で魔法陣が光っている。
「ひ、ひ、ひ」
ひーっかかった ひかかったあ
ひーっかかった ひかかったあ
「”デス”」
セレナ「”バッシュ”!」
と、セレナの前方に、光のバリア!
”それ”から放たれた闇のエネルギーが、阻まれて逸れる!
アリサ「セレナさん!」
セレナ「あれに触れないでね、アリサちゃん。……死んじゃうから」
アリサ「死……」
思わず、アリサは、一歩後ずさった。
ところで。
アリサ「酷い臭い……」
セレナ「敵の臭いね。……愚かにも、闇魔法に取り込まれちゃって、最早人ですらないわ」
──あれは”堕ち者”。
セレナが言う。堕ち者は、泥水のようなもので濡れたボロ布を纏い、そこから、顔だったような物、手足だったような物を、突き出している。
堕ち者「”デス””デス””デス””デス”!」
セレナ「”バッシュ”!」
と、デスの連撃!
それから、間が空くと、
セレナ「!”ハイ・バッシュ”!」
ボロ布の中に、鎖。
それが何本もあるらしく。じゃらじゃら、じゃらじゃらじゃらと。
セレナのバリアを、叩いた。
セレナ「くぅっ……!」
セレナ、見れないが、背後で呻いているドロシーに、
セレナ「ごめんなさい、ドロシーちゃん。もう少し我慢してね……」
アリサ「ドロシーに何があったんですか!?」
セレナ「魔力を奪う魔法陣よ。魔法に長けている者は、身体と魔力が同化しているから、奪われたらああなるの……闇魔法だから、私には効かないけどね」
「早く、ドロシーちゃんを助けないと」と、セレナは言い、「アリサちゃん。作戦を説明するわ」
セレナ「彼奴は、歪ながら知能を持っていて、”デス”が効かないと知ると、鎖攻撃に変えたわ。今から私が奴の動きを止めるから、仕留めて欲しいの」
アリサ「それなら……!」
セレナ「あの力は駄目。言ったでしょ?あれじゃなくても、”発現”出来る人って、戦士を極めた人なんでしょう?」
アリサ「……」
セレナ「自分の力を、信じて」
アリサ「──分かりました!」
鎖が、襲ってくる。
セレナは”ハイ・バッシュ”を展開しながら、その鎖が当たる所へ意識を集中して、凌いでいる。
突如、
セレナ「”ブライト”!」
光が発し、しかし、アリサには「白」に見え、目を開けていられる、不思議な光だ。
堕ち者が、大きくよろめいた。
セレナ「今よ、アリサちゃん!」
アリサ「はい!」
アリサ、石畳を踏み。
濡れた地面を踏み。
アリサ(信じるんだ)
投げ出された鎖を踏み。
ボロ布の端を踏み。
アリサ(戦士の、力を!)
そこに、至って。
アリサ「戦技”鉄斬り”!」
頭部に、剣が入り。
恐ろしい断末魔が、夜の闇に響いた。
セレナ「誰か、見に来てない?」
アリサ「大丈夫みたいです」
セレナ「まあ、怖そうなところに来たくもないか」
セレナの手では”ルーティ”が光っている。
ドロシー「う、う……」
アリサ「あの、それ。失った魔力も回復するんですか?」
セレナ「いいえ。身体が受けたショックだけね」
アリサ「成程」
「臭い所でごめんなさいね」と、セレナが言う。
アリサ「もう、鼻曲がっちゃいました」
セレナ「そう、私も」
アッシュ「うおっ!?くっせぇ!!」
アリサ「アッシュ!?」
アッシュ「よう!皆!……もう終わっちまったのか?」
アリサ「お早い御着きで」
アッシュ「怒るなって。剣のチャージしててさあ」
アリサ「聞きたくない」
アッシュ「俺のファンだ!って子がいてさ。それで、一気に金色に……」
アリサ「何で怒る方に進んでくんだ、お前はァ!!」
ごきぃん。
翌日、教会──
アッシュ「という訳で、街を歩いていたら、この手紙を渡されまして」
セレナ「確かに”元老”の封印ね」
アッシュ「ええ。だから、西に行こうかと」
アリサ「アッシュ」
アッシュ「ん?」
アリサ「その、私もごめん、なさい」
アリサ「あの力、けっこうリスクあるんだ。だから、考えて使う……から」
「戦友」アッシュは言った。
アリサ「戦友?」
アッシュ「セレナさんが言ってたんだ。俺たち二人にピッタリだなって。……改めて了解したよ。お互い、強くなろうぜ」
と、アッシュは肘で、アリサを小突いた。
西へ、西へと、太陽と共に。
手痛い、反省。アッシュ達がゆく。
第五章、終わり
【tips】
鉄斬り
戦士の戦技の一つ。鉄をも斬る一撃。
魔法③
ルーティ【聖】
聖属性の回復魔法。人体の”回復”を促進し、あらゆる傷を治す。
バッシュ【聖】
聖属性の光壁魔法。闇魔法はじめ、邪悪な力を防ぐ。上位魔法”ハイ・バッシュ”は、加えて物理攻撃や、他属性魔法も防げる。「バッシュ」「ハイ・バッシュ」両方とも、「どこまで防げるか」は使い手の力量による。
ブライト【聖】
聖属性の魔法。聖なる光で、邪悪なものをよろめかせる。
魔法陣
魔法の使用方法の一種。罠や結界など。「その他」属性のようであるが、紐解けば何らかの属性による魔法たちだ。
闇属性
神との誓約によって得る「聖属性」に対し、悪魔との契約によって、後天的に得る属性。存在自体が違法とされ、契約、使用すれば世界的機関「魔法院」によって処罰される。
特に最強魔法”デス”は、相手の命を奪う禁忌の魔法に指定されている。
また「聖属性」を得る際には「専心」の要素があるが、闇属性の契約にはこれがないため、闇属性を得ても元の四属性魔法はそのまま使える(例:火属性魔法を扱えた者は、闇属性の契約をしても、元の火属性魔法が使える)
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