魔王エルデネス3

メルビス連合の章

4.

「悪夢、今も……か。それはしばらく続くことになるな」

「メルビスは！？帰しなさい！！」

「三日後だ」

エルデネスが言う。

「三日後、再戦と決まった。あのお年寄りに言い渡したよ」

「レオナ様……」

リシアの威勢が、しぼむ。

「あの人は、何だね」

「……師匠よ。”自分以上だ”って、私の魔法を褒めてくださって……」

「ふん」

魔王の眼が、すっと細くなる。

と──リシアが、急に後ろへと跳んだ。

察した、蘇ったのだ。あの幻術。彼女の心に、打ち込まれた太い杭。

「どうした？」

「……くっ」

それが、こない。過剰反応を恥じらう。

しかし。

「──ここから、出しなさい！」

と、リシアは、右手に魔力をこめた。

魔力は大気を巻き、風のボールと化す。ぎりぎり、と音を鳴らし、絨毯をちぎり、床を削る。

やらなくては。こいつを倒せば、メルビスは助かる。

「”ウインド・ショット”！！」

言って、放つ。風球がホップアップして、エルデネスに向かう。

この魔法は、使うだけなら、一般的な魔道士でも使える。だがリシアのこれは別格である。大きさ、そして威力、彼女の力で増幅している。

対して。

エルデネスも、似たような魔法で答えた。

「”バッシュ”」

◇
反射魔法：バッシュ
攻撃を跳ね返す。基本魔法だが、跳ね返せるものが術者の力量に委ねられる為、エルデネスが使うとほぼ全ての攻撃を跳ね返すことが出来る。
◇

跳ね返し、が斜め上。

風球が、天井にめり込む。岩を砕き、衝撃波を飛ばすが、消えた後、ゆっくりと修復が始まった。

それは、床も同じだ。リシアが息を呑む。

ちぎれた絨毯、削った床。──それらが、元通りになっているではないか。

ぱりぱりと雷がはしり、謁見の間を直してゆく。一方でエルデネスが笑う。”バッシュ”──使うだけなら、リシアも使える魔法。だが、あれほどの風球を跳ね返せるかどうかは、術者の力量次第。

まず、無理だ。

彼女の頬を、冷や汗が伝う。

（ふむ）

魔王は魔王で、考える。

対価の話をするところだ。君は、余のもの。永遠の栄華。だがそれを、次弾を放とうとしているリシアに説くことはできないであろう。

（仕切り直すなら）

可能かもしれない。彼女は、賢い。しかし、そんな暇はない。

魔王は、既に疼いている。

「やむを得ぬ」

そういって”チャーム”を唱えた。

◇
発情魔法：チャーム
相手は術者に、積極的に発情するようになる。
術者が指定した相手にも、発情するようになる。
◇